
先週、「So What」を話題にしたことから「kind of blue」を取り出した。マイルスで最初に買ったレコードといえば高校生のとき発売された「Miles in the Sky」だが、マイルスで一番聴いたレコードとなると「kind of blue」だ。当時は小遣いを貯めてようやく買える1枚なので、田舎のジャズ喫茶もどきで聴けるものは後回しで新譜優先だったが、このレコードだけはそばに置いておきたかった。
久しぶりに聴くと45年前に自室で音量を最大限にして聴いたときの興奮と感動がよみがえる。マイルス・コンボのひとつの頂点を極めた作品は、モードというジャズの新しい形を明確にしたものであり、その後のマイルスのスタイルばかりかコルトレーンやエヴァンス、しいてはジャズシーンの方向性までをも暗示している。A部はDドリアンで、サビのBパートは半音上がったE♭ドリアンで・・・というハーモニー構造は音楽理論を知らないリスナーをも納得させるほど斬新だった。「So What」の次は「Freddie Freeloader」で、この曲だけピアノがエヴァンスからケリーに変わる。
よく言われるように比較対象のための収録とされているが、曲の構成も演奏内容も申し分ない。ジョン・ヘンドリックスはこの曲に惚れ込んで、ヴォーカリーズでソロを再現したほどだ。少ないながら秀逸なカヴァーも並んでいる。その中からそのケリーとも共演しているウェス・モンゴメリーの「Portrait of Wes」を聴いてみよう。ウェスの数あるアルバムでは目立たない存在だが、盟友のオルガン奏者メル・ラインとドラムのジョージ・ブラウンというトリオだ。出身地のインディアナポリス時代からの楽器編成はブルージーなことこの上ないし、ウェスのホーン・ライクで豪快なソロはまさに「Portrait」のタイトルに相応しい。
学校から帰るなりかけ、夕食後にまた聴く、そして寝る前は子守唄かわりにかける。マイルスはもとよりコルトレーンやキャノンボール、エヴァンスのソロの細部、さらにブチとノイズが入る場所まで覚えているレコードは何度聴き返しも飽きることはない。このレコードが録音されてから55年経つが、この先もこれを超える作品は出ないだろう。「kind of blue」とはモダン・ジャズのバイブルという意味かもしれない。