
平日の昼間とはいえ観客のほとんどが団塊前後の世代というのは珍しい。若い人といえば映画館の従業員だけだ。小洒落た服装や会話の内容から察すると、若いころはダンスホールや歌声喫茶で相当ならしたと思われる方ばかりである。1960年代にポップス界を席巻したバンド、フォー・シーズンズが味わった栄光と挫折を描いた「ジャージー・ボーイズ」の館内風景である。音楽映画で手腕を発揮するクリント・イーストウッドが監督だ。
このバンドはフォー・ラヴァーズやヴィレッジ・ヴォイスィーズ等、何度もステージ・ネームを変え、様々なレーベルからレコードを出すも不発に終わる。諦めかけていた時、フォー・シーズンズというバンド名に変えて、レコード会社も新たに発売した「シェリー」の大ヒットで一躍トップにのし上がったグループだ。そのレコード会社とは「Vee Jay」である。ウィントン・ケリーをはじめリー・モーガン、ウェイン・ショーター、フランク・ストロージャー等の初期作品をリリースしたレーベルとしてジャズファンにも馴染み深い。今週はこの中から「フォー・シーズンズ」「今は秋」「秋といえば枯葉」と連想してケリーを聴こう。
「Kelly Great」、「Kelly At Midnight」に続きヴィージェイ3部作のラストを飾ったアルバムタイトルは、「Wynton Kelly」というシンプルなもので、「枯葉」という邦題が付いている。この邦題が実に便利でジャズ喫茶でリクエストするときや仲間内の会話で重宝されている。ポール・チェンバースにジミー・コブという1961年当時のマイルスのリズム・セクションとなれば悪かろうはずはない。コロコロ転がるタッチは琴線を大きく揺らし、ファンキーでブルージーな薫りは身体を震わす。マイルスは、「ケリーはマッチみたいな奴だ。奴がイナけりゃプレイに火がつかねぇ」と自伝で語っているが、聴き手のハートにも火をつけてくれる。
若いころ熱心に聴いた音楽を聴き返すと当時の情景が浮かび、あたかもタイムスリップしたように感じると言われるが、この映画を観終わったあとの表情は皆若返っていた。これからオールディーズ・バンドが入っているあの店に行こうか、レコード屋に寄ってみようか、という声も聞こえる。かく言う小生もいつものジャズバーではなく、60年代のポップスを流している店に足が向いていた。今日だけは青春のあの日でいたい。