この時期になると映画館に札幌映画サークルが募集する札幌公開作品ベスト10の投票用紙が置かれている。開いてみると今年公開された700作あまりの全作品が並んでいた。観た作品をチェックしてもその一割にも満たないので投票はできないが、数少ないそのなかで私ベストワンを選ぶならフランス映画の「クロワッサンで朝食を」だ。チラシに主演は「死刑台のエレベーター」や「突然炎のごとく」の・・・

 ジャンヌ・モローとある。モローを紹介するとき必ず引き合いに出される「死刑台のエレベーター」は1957年の作品で、ヌーヴェルヴァーグの旗手ルイ・マル監督のデビュー作だ。モローにとってもルイ・マルにとっても代表作であるこの作品はフランス映画史に残る名作だが、半世紀以上経った今でも傑作として語られるのはバックに流れるマイルスの音楽も大きな要因であろう。映像を観ながら即興で吹いたといわれるトランペットは、モローの心理状態を音で表現することにより映像美を際立たせたばかりか、単体としてマイルスの音楽を切り取ってもそれだけで成立する優れたものだった。

 そしてモローといえばジャズファンが見逃せない映画に「危険な関係」がある。退廃した貴族社会を描いたコデルロス・ド・ラクロの小説が元になった作品で、モローのクール・ビューティに圧倒された作品だ。こちらのテーマ曲を作曲したのはデューク・ジョーダンなのだが、どういうわけか誤って作者がクレジットされたためジョーダンの元に印税が入ってこなかったという。冗談じゃないと怒ったジョーダンが、チャーリー・パーカーの未亡人の協力を得て、改めて録音したときのタイトルが「No Problem」である。印税の問題はないよ、というメッセージが込められたタイトルでクレジットの「Duke Jordan」が大きく見える。

 「クロワッサンで朝食を」を撮ったときモローは何と御歳84歳だ。マイルスが夢中になった往時の色気はないものの女としての魅力は十分で、また女優としての存在感も大きい。この映画のバックにマイルス風のミュートが流れてニヤリとするが、不思議なくらいこれがこの歳のモローに似合っていて、若い頃のクールな美しさは損なわれていない。歳を「取る」ではなく「重ねる」とはこれをいうのだろう。