第85回アカデミー賞で脚本賞と助演男優賞の2冠に輝いた西部劇「ジャンゴ 繋がれざる者」をご覧になっただろうか。監督はクエンティン・タランティーノで、アメリカの恥部である奴隷問題を扱っていた。「RAY/レイ」でレイ・チャールズになりきったジェイミー・フォックスが主演しており、ガンマンぶりも様になる。軸のテーマは重いが、スピード感あるストーリー展開と、派手な銃撃戦は映画を知り尽くした監督ならではの醍醐味だ。

 ジャズでジャンゴといえば、ジプシーを中心に発達してきたロマ音楽にスウィングジャズの要素を取り入れたジプシー・スウィングの創始者として知られるギタリストのジャンゴ・ラインハルトがいる。ラインハルトは火事で大やけどを負ったことからギタリストとしては致命的な障害を左手に残しながらも、不屈の精神でそれを克服したが、それは白人支配に屈しない映画の主人公ジャンゴにも通じるだろう。そのハンディから独自の奏法を確立しているが、特に最も叙情的と評されるフィンガー・ビブラートはギターの音色というより、心の襞を爪弾いた喜怒哀楽を映した音かもしれない。

 そのラインハルトのレコードを擦り切れるほど聴いて勉強したのはジョー・パスだった。「For Django」は敬愛する師ともいえるラインハルトに捧げたアルバムで、数あるパスの作品でもベストといえる内容だ。「ロゼッタ」や「雲」といったお馴染みのナンバーは勿論だが、ラストに収められた「ライムハウス・ブルース」が素晴らしい。リズム・ギターのジョン・ピサノと速いテーマが重なったところで、実にいいタイミングで入ってくるのはマイルス・バンドにトニー・ウィリアムスの代役で加わったこともあるコリン・ベイリーのドラムである。さりげない一音が名演をさらに名演に押し上げるようだ。

 最近、映画館で気になることがある。エンドクレジットで席を立つ人が多いことだ。ときには5分以上も続く長いのもあるとはいえ余韻に浸れないものだろうか。この「ジャンゴ 繋がれざる者」にはエンドロールが終わって最後の最後にワンシーンがある。ネタを明かすわけにはいかないが、強烈なメッセージが込められていた。このシーンは、「Django」というニックネイムがロマ語で「私は目覚める」という意味と重なる。