あまり旅行は好きなほうではないので滅多に出かけないが、時間に余裕が出来たこともあり家族サービスとばかりに本州に足を延ばす機会がある。偶の旅ならその地の名所や名物をガイドブック片手に計画を立てるのだろうが、小生はまず中古レコード店を探す。ジャズを聴きだしてからこの習慣だけは変わらない。観光先でレコードの看板を見つけようもなら居ても立ってもいられず、絶景や国宝級の文化財も目に映らない有様だ。

 あのエサ箱にはどんなレコードが眠っているのだろう。エサ箱を漁るのは探しているレコードを見つけるのが目的だが、見知らぬ1枚に巡り会う愉しみもある。ジャズレコードは20万種とも30万種ともいわれ、相当数レコードを蒐集されている方でも初対面のレコードは数知れずだ。長年ジャズを聴いていると初めて見るレコードでもリーダーとサイドメン、収められている曲目、録音年、そしてレーベルからその音はある程度推測付くが、なかには推理不可能なものある。それは多分に知識不足であったり、不勉強によるものだろうが、全く売れないレコードを1枚出しただけで消えたプレイヤーの果てまでは知識が及ばない。

 あるエサ箱で「Valdo Williams」の「New Advanced Jazz」なる1枚を見つけた。初めて名を見るピアニストで、アート・ブレイキーのバターコーン・レディにクレジットされていたのを微かに記憶している「Reggie Johnson」のベース、「Stewart Martin」のドラムによるトリオである。 そして全4曲からなるトラックは全てオリジナル、この段階でフリージャズを思わせるが、更にレーベルがフリー系には縁のないサヴォイとなると、かなり怪しい。それもレコードナンバーは12000番台の初期なので録音順に発売されるとは限らないが60年代中ごろと思われる。一度は箱に戻したが、一度見逃すと二度と手に出来ない、という中古レコードの法則を思い出し箱から抜いた。

 未知のレコードに針を落とす瞬間はいつもドキドキする。ニュージャズともモードともバップともつかないスタイルだ。この1枚で消えたのが分かるような気がする、とでもいえば内容を理解してもらえるだろうか。あとで知ったのだがパーカーとも共演歴があるピアニストだけに貴重ではある。今週は京都に旅行するが、金閣寺や銀閣寺よりも中古レコード店の方が気になる。そこには金銀よりも眩い宝が、バルド・ウィリアムスのような遠い目をして待っているかもしれない。