
郷土史を調べる必要があり図書館を覘いてみた。函入の分厚い市史、町史が並ぶ中、ハードカバーが1冊紛れ込んでいて、間違って置いたのだろうかと手にとってみると、「容貌怪異なり」とある。小生のことかと思い、ガラスに映った自分の顔を見てしまった。(笑)サブタイトルは「北前船から鉄に乗り替えた夷族」とあり、鉄の街、北海道室蘭の発展に尽力した湊友松の生涯を描いたもので、郷土史の棚にあっても不思議はない。
「黒眼鏡の怪人」の異名があるローランド・カークの写真をはじめて見たときの印象は、「容貌怪異なり」だった。3本のリード楽器を同時に吹く姿は異様にみえ、レコードを聴いてみると更にフルート、ハーモニカ、形さえ想像できないマンゼロ、ストリッチという楽器も使っているようだ。時にフルートを鼻で吹いたり、サイレンまで鳴っている。多重録音は珍しくないが、複数管楽器同時演奏はあまり聞いたことがない。カークはコルトレーンのステージに飛び入りし、まったく息継ぎ無しで長いソロを吹くサーキュラー・ブリージングで、コルトレーン以上の喝采を浴びたそうだ。やはり怪人かもしれない。
41年という短い生涯ながらアルバムは数多く、写真はベツレヘム・レーベルから再発された「サード・ディメンション」という56年の初リーダー作にあたる。この時若干20歳というのも驚くが、タイトルの第三次元というのも謎めいている。オリジナルはベツレヘムの親会社キングで、発売時のタイトルは「Triple Threat」だった。3倍の脅威、3分野に優れた人とでも訳すのだろうか、何れにしてもカークの音楽性を仄めかしているようだ。R&B色も強くジャズでは括れないブラックミュージックとも言うべきその音楽性なのだが、本質はジャズのルーツに深く根付いている。
ロックバンド、ジェスロ・タルがデビューアルバムで取り上げている「カッコー・セレナーデ」はカークの作で、イアン・アンダーソンがカークそっくりに吹いていた。カークはその風貌からは想像もつかない美しい曲を書き上げる。長い顎鬚と熊のような容貌で恐れられた湊友松は心の美しい純粋な人であったという。そして図書館のガラスに映った小生も然りである。(笑)