
テレビドラマ「ハケンの品格」が人気だという。クレーン操縦士、ロシア語会話、助産師、剣道四段等いくつもの国家資格を持つ篠原涼子さん扮する大前春子なる高時給の派遣社員が主人公だ。北海道で活躍していた大泉洋さんの好演もありなかなかに面白い。冷静に会社を見ている派遣社員の意見は、確信を突いているだけにたじたじする正社員の姿は滑稽でもある。
ロバート B .パーカーの探偵スペンサーが登場する小説でキャロル・スローンの名が出てくる。キャロルは派遣か正社員かは存じぬが一流企業の社長秘書だったころ、タイプを1分間に80語、速記を1分間に120語の記録を作り業界の話題になったそうだ。どちらも経験がないのでよく分からないが、相当のスピードらしい。キャロルと個人的な付き合いのあるパーカーは、キャロルはサラ・ヴォーンに次ぐ大歌手と断言している。そのとおりで歌手として一流ならOLとしても一流というわけだ。
写真のアルバムはキャロルの64年のライブ盤で、ベン・ウエブスターとの共演が珍しい。キャロルが個人的に録っていたテープのせいか音は悪いが、いつもながらのキャロルのしっとりした情感あふれる歌声が聴こえる。驚いたのはベンで、どうしたのだろう全く精彩がない。オブリガートはキャロルのフレーズを邪魔しているし、キャロル抜きのワンホーンで吹く「ダニー・ボーイ」はヌード・ジャケットで売っているムードミュージックと変らない。どうにも品を欠いた格だけではいい仕事ができないようだ。レコード化されたのは77年のことだから、発売を見送っていたのは音が悪いせいだけではないのかもしれない。ベンは73年に亡くなっている。
ドラマで大前春子は相手構わず言いたいことを言う。派遣社員だけに会社へのしがらみはない。キャロルはダウン・ビート誌にジャズ評論も書く才媛でもある。レコード会社との関係から駄作でさえ褒める評論家と違い、歯に衣を着せぬ批評は痛快だった。それがキャロルの品格である。