「青年よ大志を抱け」の言葉で知られる札幌農学校(現北海道大学)の初代教頭クラーク博士が、米マサチューセッツ州出身ということもあり、北海道とマ州は姉妹提携の関係にある。そのマ州の新知事に民主党のデバル・パトリック氏が選出された。父の名が音楽家のパット・パトリックと小耳に挟んだので、確認のためボストン在住の方にお尋ねしたところ、どうやら記憶に間違いはなく、パットはサン・ラのバンドのバリトン奏者だった。

 サン・ラというと土星からやって来たと公言する妙な音楽家で、ジャズファンには敬遠されがちだが、モンドマニアには絶大な人気があるようだ。そのアルバムは実験的な作品が多く、500枚にも及ぶが、ソロピアノの作品を聴いてみると、パーカッシヴな奏法でデューク・エリントンの影響も散見される。僧侶のようなローブに身を包み、不可解な宇宙的音楽は常軌を逸している部分もあるとはいえ、そのピアノスタイルはジャズの伝統に基づいていることに気付く。

 彼のバンドはアーケストラと呼び、常識を覆す無秩序なフリーキーなソロの連続は驚きだ。「The Other Side of The Sun」というアルバムも集団即興演奏なのだが、スタンダードの「サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」も収録されていて、いきなり聴かされるとサン・ラとは思えない。ピアノソロから始まりテーマ部分の重厚なアンサンブルは、エリントンのフォーマットで、前奏者の韻を踏んだソロリレーはバック・クレイトンからレスター・ヤングに繋がれるカウント・ベイシー・バンドをみるようだ。各プレイヤー共、過激な中にも基本であるスウィング感を持っている。

 このアルバムにはパット・パトリックは参加していないが、ソロをとっている作品はアヴァンギャルド、且つベーシックなものだ。その父親の血をひくパトリック氏は米史上2人目の黒人知事であり、弁護士でもある。基本を忘れない革新的な州政を執っていただきたい。どこぞの国の知事のように談合疑惑が持ち上がったり、競売入札妨害容疑で逮捕されるのはお粗末な話だ。