ロバート・B・パーカーのハードボイルド小説「初秋」は、「都市再開発の連中がまた襲ってきた」で始る。私立探偵スペンサーを主人公としたシリーズの傑作だ。最近は女性探偵が流行っているが、心優しい男の探偵が主体のネオ・ハードボイルドのほうが、ヒューマンで読み応えがある。このスペンサーはネオ派にありがちな敗残者のイメージはなく、小生同様、生活信条も健全で、秋の訪れとともにページを開きたくなる一冊だ。

 「涼しくなりましたね」という挨拶が交わされるこの季節、読むのが「初秋」なら、聴かずにいられないのが「アーリー・オータム」だ。今日は展開が偶然とはいえ自然で無理がない。(笑)ウディ・ハーマンのバンドは解散前をファースト・ハード、再結成後をセカンド・ハードと呼んでいる。「フォア・ブラーズ」と称されるハービー・スチュアート、スタン・ゲッツ、ズート・シムズ、サージ・チャロフのサックス・セクションがトレード・マークのセカンド・ハードは、バップ時代のディジー・ガレスピーのバンドと並びエキサイティングでモダンなバンドだと思う。

 そのセカンド・ハード時代のスタン・ゲッツの名演が、48年録音の「アーリー・オータム」で、ラルフ・バーンズが書いた組曲「サマー・シークエンス」に挿入されていたものだ。3本のテナーとバリトンとのユニゾンを強調したもので、クールの夜明けともいえるゲッツのテナーソロは古今の名演に数えられる。以降ゲッツはスタイルを変えてハードになっていくが、バラード・プレイは、この時期に完成されたと言ってもいい。短いソロながら言い知れぬ包容力と吸引力を持っている。

 何事も起きなかった夏でも、その名残と、初秋の佇まいは郷愁を誘う。しばし、短い季節を秋風のように爽やかなゲッツの音色に身を浸したい。もうすぐ「寒くなりましたね」と、交わされる挨拶も変わる。パーカーの「初秋」は、「もうすぐ冬になる」で終わる。