刑法の最近の教科書等 | 刑事弁護人の憂鬱

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 刑法は、性犯罪規定の改正が2017年になされ、今年(2021年)には、さらなる見直しがなされるようである。その他、2020年の自動車運転死傷処罰法の改正など刑事実体法の変化は、前世紀にくらべて顕著である。

こういった最近の動向を反映した刑法の教科書ないしコンメンタールとして、以下のものが注目に値する。

 

井田良・講義刑法学・各論第2版(有斐閣 2020年12月)

 一番、新しい刑法各論の教科書である(2021年1月9日現在)。改正法はもちろん判例、学説の既述が充実している。

600頁を超える大著だが、単著ということもあって、記述及び理論の一貫性があり、安心できる。

著者の総論の教科書とのリンクを意識した記述もおおいが、正犯性など刑法総論での解釈論を意識した各論解釈は、著者の総論を未見の読者はとまどうであろう。かつて、司法試験の基本書といわれた大塚仁・刑法概説(各論)などと同様に、コンメンタール代わりの使用にも耐えうる印象である。

 

西田典之(橋爪隆・補訂)・刑法各論第7版(弘文堂 2018年3月)

 2017年の性犯罪改正に対応している。新判例も補充されているが、著者が逝去しているため、橋爪先生が改正、新判例部分を補訂している。その意味で従前の第6版+改正法及び新判例が組み込まれたものという印象がある。西田各論のバランスのとれた記述が十分生かされているので、学習にも実務の参考にもなる好著である。

 

前田雅英ほか編・条解刑法第4版(弘文堂 2020年12月)

 一番、新しい刑法コンメンタールである(2021年1月9日現在)。2017年の性犯罪改正、もちろん自動車運転死傷処罰法改正も掲載されている。刑法のコンメンタールは他に西田・山口・佐伯編・注釈刑法全3巻(有斐閣)や大塚ほか編・大コンメンタール刑法全13巻(青林書院)があるが、ボリュームが大きく、使いかってが悪い。1冊本のコンメンタールとしては、最新の情報も反映し、簡潔な記述で、コンメンタールにしては読みやすいというメリットがある。なお、有斐閣の注釈刑法が昭和の時代の旧版より、冊数が3巻に減っているのは、何か大人の事情があるのであろうか。

 

その他、マニアックになるが、個人的に興味深い教科書としては、旧刑法から最新改正法まで視野にいれた浅田和茂・刑法各論(成文堂  2020年7月)、講義本の改訂版(未遂、共犯等を補充)である町野朔・刑法総論(信山社 2020年1月)などがある。

最近の若い研究者の教科書や司法試験で人気のある基本書は未チェックなので、若手の弁護士や司法試験受験生から情報を仕入れてから、追記します。