刑事手続きの基礎「別件逮捕勾留と余罪取り調べの限界」その5 | 刑事弁護人の憂鬱

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刑事手続きの基礎「別件逮捕勾留と余罪取り調べの限界」その5


 

4 別件逮捕勾留と余罪取り調べの限界の関係

 

   ア 従来、両者は手続きとしては別個であるから、まず、①別件逮捕勾留の適法性を吟味し、適法な場合は、②余罪取り調べの限界を吟味するという形式論理を展開した。それ故、別件基準説【捜査実務、下級審の一部】では、逮捕勾留の適法性は、容易に認められるので、余罪取り調べの限界の問題の検討にウェートがおかれた。

 

   イ しかし、既述したとおり、取り調べの態様に着目して、別件逮捕勾留の適法性を吟味するアプローチが有力化しつつあり【実体喪失説ないし令状主義潜脱説】、実質的全体的考察による違法性判断が注目される。そこでは、事前の司法的抑制だけでなく、事後の取り調べをどう規制するのかの多元的視点が必要である。この点、新しい別件基準説は、必要性判断の資料に本件取り調べを考慮するが、それ自体、事件単位の原則を逸脱しているのであり(川出・別件逮捕勾留の研究223頁参照)、また、どうして別件の罪証隠滅逃亡のおそれ防止という必要性に関係するのか明瞭でない。

 

    よって、本件基準説+令状主義潜脱説の考えを基本として、具体的状況に応じて違法性を判断すべきと考える。なお、捜査実務との整合性から取り調べ受忍義務肯定説+本件基準説+令状主義潜脱説と解することも理論上可能ではあるが、その場合でも、出頭要請、滞留要請(取り調べ受忍義務の要請)は説得の域を超えることはできず、被疑者が拒否の意思を明白にする場合は、取り調べ受忍義務は解除されるという解釈を付加すべきであろう(川出敏裕・判例講座刑事訴訟法 捜査・証拠篇 42頁以下の「出頭滞留義務と取り調べ受忍義務区別説」の解釈の応用)。

 

 

 

ウ 各手続きの段階での本件の取り調べのための身柄拘束であることが明白になった場合に、以下の対応が考えられる。

 

(1)逮捕状・勾留状請求段階 :裁判官は、逮捕状・勾留状請求を却下すべきである。

 

(2)勾留決定に対する準抗告段階:違法な別件勾留であることが判明した場合、裁判所は勾留を取り消すべきである。

 

(3)違法な別件逮捕勾留後の本件の逮捕状・勾留状請求:不当な蒸し返しであり、裁判官は請求を却下すべきである。

 

(4)本件の勾留決定に対する準抗告段階:本件勾留は不当な蒸し返しであるから、裁判所は勾留を取り消すべきである。

 

(5)起訴後、公判段階:違法な別件逮捕勾留中での取り調べにより採取された自白は、違法収集証拠として、裁判所は、証拠能力を否定すべきである(証拠採用しない)。

 

 

 

 実際、裁判で問題となるのは、(5)の段階であり、そのため、事後的に別件逮捕勾留+余罪取り調べの違法性が、自白排除の検討の前提として争われることになる。

 

 

 

5 近時の下級審の展開

(以下、次回に続く)