刑事手続きの基礎「別件逮捕勾留と余罪取り調べの限界」その4
余罪取り調べの限界、つまり限定する見解として、事件単位説と令状主義潜脱説がある。
ア そもそも、事件単位の原則とは、逮捕勾留の基礎は同一の事件であり、司法審査は当該同一事件を対象とするから、Aという事件の逮捕勾留状で、Bという事件の逮捕勾留は許されない。B事件の司法審査つまり逮捕勾留の理由と必要性が判断されていないからである。したがって、司法審査を経たA事件の逮捕勾留後、さらに司法審査を経たB事件の逮捕勾留は可能である。反面、A事件の逮捕勾留後、さらにA事件で逮捕勾留すること【同一事件の再逮捕・再勾留】は許されない。これを逮捕勾留の一回性の原則ないし再逮捕再勾留の禁止の原則という。
イ この事件単位の原則を逮捕勾留中の取り調べに適用すると【取り調べ受忍義務肯定説と整合的である。それゆえ、否定説からは逮捕勾留状が取り調べ令状となり、罪証隠滅・逃亡防止を目的とする逮捕勾留の趣旨に反すると批判される。】、逮捕勾留の基礎となった同一事件の取り調べしかできないことになる。しかし、事件単位説は、例外的に逮捕勾留の基礎と同一でない事件について、密接関連している場合【例えば窃盗など同種余罪など】は取り調べできるという。この例外の許容性の根拠は、あまり明快でない。密接関連している事件は、実質は同一の事件といえるのであれば、事件単位の原則の一場面でしかない。つまり例外ではなくなる。また、密接関連していなくても、純粋に任意の余罪取り調べが禁止される法的根拠は見いだしがたい。密接関連している場合は、取り調べ受忍義務が及び、密接関連した事件の再逮捕再勾留が禁止されるとすれば、一貫性があることになるが、令状審査が及ばない密接関連事実に取り調べ受忍義務を認めるのは、疑問である。そもそも事件単位説は、例外の理論的明確性を欠くと同時に具体的な許容ないし禁止の範囲がせますぎるのではないであろうか。
ウ これに対し、令状主義潜脱説とは、①本罪と余罪の関係、②罪質・軽重の相違、③余罪の嫌疑の程度、④その取り調べの態様などを総合判断し、余罪取り調べが具体的状況のもとで令状主義を潜脱する段階に至っているときに余罪取り調べが禁止される見解をいう【田宮裕・刑事訴訟法新版136頁参照】。この見解は、本罪の逮捕勾留が、専ら余罪の取り調べに利用され、実質余罪の逮捕勾留した場合と同じ状況にいたっている場合は、余罪の令状審査がなされていない状態での逮捕勾留がなされたのと同様であり、これを利用した取り調べは、令状主義を潜脱した身柄拘束下での違法な取り調べとして禁止されるとするものである。総合判断であるから、密接関連している事件で許容されることもあれば【逮捕勾留後、被疑者の自白により発覚した余罪など】、禁止されることもある【逮捕勾留令状発付時点から余罪の嫌疑はあったが、証拠がととなわないため、自白獲得のため、専ら本罪の身柄拘束を利用する場合など】。この見解の着眼点は、当該逮捕勾留は、余罪取り調べにどこまで利用できるかをケースバイケースで考えるものである。そして、この見解が違法な別件逮捕勾留中の本件取り調べの禁止を主張する限り、別件逮捕勾留と余罪取り調べの限界は、一連一体の手続きとして把握し、逮捕勾留を取り調べに利用できる許容範囲を実質的に画していくものといえる。