訴訟代理人のつぶやき「民法改正ノートその3 売買と契約不適合責任その5(完)」
イ 解約手付け・売主の履行義務・買主の代金支払い拒絶
(手付)
改正法第557条
第1項「買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りではない。」※
第2項「第五百四十五条第四項の規定は、前項の場合には、適用しない。」
※解約手付の解釈
改正前民法において、判例は、解約手付の売主の倍額提供に関し、口頭の提供でも足りる弁済の提供とは異なり、「現実の提供」が必要とし(最判平成6・3・22)、但し書きの契約の履行の着手の「当事者」とは、解除する側ではなく、解除される「相手方」と解する(最大判昭和40・11・24)していたところ、改正法は、この点を明確化するものである。
(権利移転の対抗要件に係る売主の義務)
改正法第560条※
「売主は、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負う。」
※対抗要件を備えさせる義務
売買の目的物の権利の確保のため、登記(不動産など)、登録(自動車など)等の権利移転について対抗要件を備えさせる義務を売主が負うということを明らかにした規定である。本来民法555条の財産権を相手方に「移転」することに、占有の移転=引渡とともに権利移転の対抗要件を備えさせることも、民法177条等の対抗要件主義から、当然含まれていたといえる(実務上、不動産売買においては、買主の代金支払いと売主の引渡・登記移転を同時決済で実施することが多く、登記移転は売主の義務である。なお、所有権の移転時期も同時決済日に合意することも多い。)。よって、本条は、その意味では、対抗要件のある権利移転の売買においては、注意・確認規定といえる。もちろん、対抗要件を具備させない場合は、売主の債務不履行となる。
(他人の権利の売買における売主の義務)
改正法第561条※
「他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」
※他人の権利の一部の売買
改正前民法561条の他人物売買の規定に括弧書きを加え、他人の権利の一部も対象となる旨(従来も解釈上認められていたもの。ちなみに改正前563条1項は、このことを前提に担保責任を定めていたといえる。)を明らかにしたものである。
(権利を取得することができない等のおそれがある場合の買主による代金の支払の拒絶)
改正法第576条※
「売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由により、買主がその買い受けた権利の全部若しくは一部を取得することができず、又は失うおそれがあるときは、買主は、その危険の程度に応じて、代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし、売主が相当の担保を供したときは、この限りでない。」
※権利取得できない又は失うおそれと代金支払い拒絶権
改正前民法576条に「その他の事由」と権利を取得できない場合を加えて、所有権の主張をする第三者のみならず、用益物権などを主張する第三者を含め、適用範囲を拡張したものである。かかる場合に、買主に代金支払いの拒絶を認めることにより、買主の損失を未然に防止する趣旨である。
(抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶)
改正法第577条※
第1項「買い受けた不動産について契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続きが終わるまで、その代金の支払を拒むことができる。この場合において、売主は、買主に対し、遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。」
第2項「前項の規定は、買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。」
※改正前577条の表現を改めたもので、実質内容は同じである。
ウ 買戻し
不動産の買戻しについて改正前民法は579条から585条まで、詳細な規定を置いていた。しかし、取引実務上、担保目的としては※、不動産譲渡担保や再売買の予約が利用され、担保目的でないものを含めて買戻しについては、ほとんど利用されていない。しかし、改正法は、削除することなく、若干の修正を加えて(改正法579条、581条)、規定を維持している。
(買戻しの特約)
改正法第579条
「不動産の売主は、売買契約と同時に買戻しの特約により、買主が支払った代金(別段の合意をした場合にあっては、その合意により定めた金額。第五百八十三条第一項においては同じ。)及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。」
(買戻しの特約の対抗力)
改正法第581条
第1項「売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは、買戻しは、第三者に対抗することができる。
第2項「前項の登記がされた後に第六百五条の二第一項に規定する対抗要件を備えた賃借人の権利は、その残存期間中一年を超えない期間に限り、売主に対抗することができる。ただし、売主を害する目的で賃貸借をしたときは、この限りでない。」
※担保目的の買戻し
判例は、改正前民法の解釈として、目的不動産の占有の移転を伴わない買戻し特約は、特段の事情のない限り、債権担保目的の譲渡担保と推定され、買戻しの規定の適用はないとする(最判平成18年2月7日)。