刑事政策の基礎 特別編「いわゆるテロ等準備罪について その3法案検討(下)1」 | 刑事弁護人の憂鬱

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刑事政策の基礎 特別編「いわゆるテロ等準備罪について その3法案検討(下)1」

 

※改正組織犯罪処罰法が、本日(平成29年7月11日)施行された。それゆえ、現時点で本論考は、法案検討ではなく、改正法検討となるが、便宜として、表題は、従前の続きとした。

 

ウ 行為

 

      ・計画の意義

       ここでいう計画とは、二人以上のものが、組織的犯罪集団が別表3の罪を組織的に遂行する実現方法・手順について予め具体的に立案し、計画謀議に参加した全員がその内容について合意することと解する。二人以上での計画である以上、テロ等準備罪は、単独犯では実現できず、この意味で、必要的共犯と解される。

      ここでの計画は、具体的に実現可能性のあるものでなければならず、その遂行する組織的犯罪集団が計画の時点で存在することを要するというべきである。将来結成される予定の組織的犯罪集団を計画の前提とする場合は、計画自体の具体性が乏しく、加重ないし処罰を根拠付ける高度な危険性を肯定できないからである。また、前述したように行為主体を組織的犯罪集団の構成員に限定する解釈をとる限り、このような解釈は当然の論理的帰結である。

       ここでの計画謀議は、一同対面して行う必要はなく、電話、電子メール、チャット、ラインなどSNSの利用、持ち回り稟議、連鎖的協議でも足りる。但し、電子メールのCCでの送信先が「計画した」というためには、単なる黙認では足りず、返信メールや、容認する言動など積極的な了承の事実が必要というべきである。「共謀」や「合意」という表現でなく「計画」という表現を用いたということは、黙示の意思連絡・合意だけでは足りないことを意味すると理解できるからである。例えば、「黙示の計画」という日本語表現としてあまりつかわれないし、黙って上司の意をくんで何かを謀ることは(うすうす上司が知っていたとしても)、これは「忖度」であって、「計画」とはいえない。共謀共同正犯における主観的謀議説の考えは、本罪では妥当しないというべきである。むしろ「計画した」との文言からも計画は計画行為の意味であり(刑法199条「人を殺した」と比較せよ)、本罪においては、客観的謀議説的な考えをとることが妥当である。

 

      ・「計画」の内容である組織的犯罪の「遂行」目的の意義

        自己が組織的犯罪を遂行するためだけなく、他人が組織的犯罪を遂行するためであってもよいとするのが、法案を作成した法務省刑事局の考えと思われる。

        しかし、テロ等準備罪は、組織的犯罪遂行の事前準備・予備行為であり(単純合意としての陰謀罪や共謀罪ではなく「計画」+実行準備行為を構成要素とする予備罪の一種である。)、かつ組織犯罪の高度な違法性・危険性を加重ないし処罰根拠とする以上、正犯意思を有した者、つまり、組織構成員が自己の犯罪として行う目的に限定すべきであり、他人の犯罪として行う目的、つまり非構成員による加担意思=幇助意思しかない場合は、同罪の正犯は成立しないと解すべきである。

 

      ・実行準備行為の意義

その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為」

 

 文理上、実行準備行為とは、組織犯罪に関する二人以上の「計画」に基づく犯罪を実行するための準備行為である。法文は、例示として、資金又は物品の手配、関係場所の下見をあげる。

 まず、本罪の「犯罪を実行するための準備行為」という文言上、当該「計画」に基づく犯罪実行のための不可欠な事前準備行為であり、実行の着手に至らないものある(文理上の限定)。

 

 また、合意ないし「計画」から区別された客観的な準備行為であり(例示行為からこのように解するのが自然)、主観的精神的な準備行為は含まれないと解する。つまり、計画を複数回行っても、各計画は実行準備行為とはいえない(計画と実行準備行為の区別)

 さらに従前の予備罪に危険性を要求していることとの均衡上、実行準備行為にも「危険性」が必要と解すべきである。当該計画に照らし、犯罪の実行の着手に容易に転化しうる、客観的な可能性という意味での「危険性」が実行準備行為の「属性」としてあるいは「書かれざる構成要件要素」として必要と理解するのである。これは、組織犯罪の実行準備行為が組織犯罪固有の高度な危険性が本罪の処罰根拠と解することからの理論的帰結であり、危険性によって謙抑性の観点から処罰範囲を構成要件上限定することが可能となる(実質的限定)。つまり、本罪は、危険性が肯定されて、初めて可罰的違法性が肯定されるのであり、危険性=可罰的違法性がない場合は、本罪は成立しない(構成要件該当性の否定)。※

 

※実行準備行為の開始と終了

 実行準備行為にも、実行行為と同様に着手(開始)と終了が考えられる。危険性を要件とする以上、実行準備行為の開始時点で危険性があれば、本罪が成立するが、逆に実行準備行為が終了しても危険性がなければ、本罪は成立しない。例えば、窃盗団が、窃盗の犯行場所の下見をしたが、計画内容の侵入器具の準備や逃走手段を確保していない場合は、実行準備行為の一部が終了しているが、「当該計画に照らし、犯罪の実行の着手に容易に転化しうる危険性」がまだなく本罪は成立しないと考える(実質的限定)。