刑事政策の基礎「刑の一部執行猶予制度」その1 | 刑事弁護人の憂鬱

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刑事政策の基礎「刑の一部執行猶予制度」その1

 

1 はじめに

  平成25年、刑の一部執行猶予制度が刑法等の改正により、導入され、平成286月より施行された。刑の一部執行猶予制度とは、簡単に言えば、刑の一部を実刑とし、残りの刑の一部の執行を猶予するものである。

従前の執行猶予制度は、本改正により、刑の全部執行猶予とよばれることになった。刑事政策上、重要な改正であり、今後の刑事実務に対する影響も大きい。そこで、以下、概説する。

 

2 意義と立法趣旨

 

 ア 改正刑法第27条の2以下で定められた刑の一部執行猶予とは、「言渡した刑(以下、「宣告刑」という。)の最後の一部の執行を猶予し(以下、「猶予刑」という。)、猶予されなかった刑の部分(以下、「実刑部分」という。)の執行に続く一定の猶予期間を設定し、一部執行猶予が取り消されることなく猶予期間を経過した場合、猶予刑の効力を失わせ、実刑部分の刑期に相当する刑に減軽するというもの」である(太田達也・刑の一部執行猶予178頁)。

  具体的には、「裁判所が、3年以下の刑期の懲役・禁錮を言い渡す場合に、その刑の一部について、1~5年間、執行を猶予することができる制度」である(松本勝編・更生保護入門第4版245頁)。

  例えば、裁判所が「被告人を懲役3年に処する、うち1年につき3年間の刑の執行を猶予する」と宣告すると、被告人は、懲役3年のうち、2年を実刑とし、残りの1年について3年間刑の執行が猶予され、何事もなく猶予期間が経過すれば、猶予された刑の効力は失われ、残り1年の刑の執行を回避できる。

もちろん、猶予期間中、保護観察に付することも可能である。なお、法律上は、実刑部分について仮釈放も可能である。

  かかる刑法上の刑の一部執行猶予制度の導入と同時に薬物法による刑の一部執行猶予制度も導入されている。前者は、保護観察は裁量的であるが、後者は、保護観察は必要的である。薬物法の場合は、刑法上の一部執行猶予の要件を満たさなくても薬物犯罪者の効果的な再犯防止のため、一部執行猶予を可能とするものであり、いわば、刑法上の一部執行猶予制度の例外法である。

それゆえ、両制度の要件は排他的で有り、薬物犯罪者でも刑法上の一部執行猶予の要件を満たす場合は、薬物法ではなく、刑法上の一部執行猶予の適用になる(太田・前掲179頁参照)。具体的には、薬物犯罪者の初犯は、刑法上の一部執行猶予の適用となり、薬物自己使用・単純所持者の累犯者(実刑前科がある者)には、薬物法上の刑の一部執行猶予の適用となる(松本・前掲245頁参照)。

 イ 従来、自由刑の量刑選択においては、実刑判決と全部執行猶予しか方法がなかった。前者は刑務所に収容する施設内処遇であり、後者は猶予期間中の実刑の威嚇のもと再犯防止を期待する社会内処遇である。しかし、平成13年から平成18年頃まで生じた刑務所の過剰収容の問題や、全犯罪のうち再犯者の6割を占める現状などから、施設内処遇と社会内処遇の連携を通じた効果的な再犯予防策が求められた。もちろん、従前の方法でも①実刑判決+仮釈放+保護観察、②全部執行猶予+保護観察などにより、再犯予防策が図られていた。ところが、①の場合、仮釈放期間が残刑期間で比較的短期であり、保護観察期間が短く更生保護上効果が薄く、仮釈放率が再犯者の場合は低下し、ほぼ満期釈放されると保護観察をつけることもできず、再び犯罪に陥り、刑務所に逆戻り=再犯予防が図れないというジレンマが生じてしまう。薬物犯、特に薬物の自己使用者の累犯は、薬物依存症という身体的精神的疾患にかかると、なかなか薬物を絶つことが難しく、施設内処遇でまず薬物入手の環境を遮断し、依存脱却の指導ないし治療をふまえ、社会内処遇でも第三者によるサポートが必要とされている。②の場合においても、薬物の自己使用で初犯であっても依存性が高い場合、単純な執行猶予+保護観察で再犯予防上、十分かは疑問もある。

そこで、施設内処遇と社会内処遇を有機的に連携させ再犯防止の実効性を高めるため、実刑か全部執行猶予かといった画一的な処遇ではなく、施設内処遇と社会内処遇の中間処遇として、刑の一部執行猶予制度が導入されたのである(太田・前掲178頁から179頁、松本・前掲245頁から246頁参照)。

 

以下、次回に続く。

3 刑法上の刑の一部執行猶予の要件

4 薬物法の刑の一部執行猶予の要件

5 他の制度との比較

6 今後の運用上の課題