実務からみた刑法総論「部分的犯罪共同説の再考」その2 | 刑事弁護人の憂鬱

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(6)最決昭和54年4月13日刑集33・3・179

   Cら6名は暴行ないし傷害の故意で共謀し、Jは殺意をもって被害者を死亡させた事案につき、

第一審判決は、被告人Cら七名の右所為は刑法六〇条、一九九条に該当 するが、Jを除くその余の被告人らは暴行ないし傷害の意思で共謀したものであるから、同法三八条二項により同法六〇条、二〇五条一項の罪の刑で処断する旨の法 令の適用をし、原判決もこれを維持している。」「 そこで、右法令適用の当否につき判断する。  殺人罪と傷害致死罪とは、殺意の有無という主観的な面に差異があるだけで、その余の犯罪構成要件要素はいずれも同一であるから、暴行・傷害を共謀した被告人Cら七名のうちのJが前記福原派出所前でG巡査に対し未必の故意をもつて殺人罪を犯した本件において、殺意のなかつた被告人Cら六名については、殺人罪の共同正犯と傷害致死罪の共同正犯の構成要件が重なり合う限度で軽い傷害致死罪の共同正犯が成立するものと解すべきである。すなわち、Jが殺人罪を犯したということは、被告人Cら六名にとつても暴行・傷害の共謀に起因して客観的には殺人罪の共同正犯にあたる事実が実現されたことにはなるが、そうであるからといつて、被告人Cら六名には殺人罪という重い罪の共同正犯の意思はなかつたのであるから、被告人Cら六名に殺人罪の共同正犯が成立するいわれはなく、もし犯罪としては重い殺人罪の共同正犯が成立し刑のみを暴行罪ないし傷害罪の結果的加重犯である傷害致死罪の共同正犯の刑で処断するにとどめるとするならば、それは誤りといわなければならない。  しかし、前記第一審判決の法令適用は、被告人Cら六名につき、刑法六〇条、一九九条に該当するとはいつているけれども、殺人罪の共同正犯の成立を認めているものではないから、第一審判決の法令適用を維持した原判決に誤りがあるということはできない(最高裁昭和二三年()第一〇五号同年五月一日第二小法廷判決・ 刑集二巻五号四三五頁参照)。」と判示した。

 

 本決定は、殺意のなかったCらに対し「殺人罪の共同正犯と傷害致死罪の共同正犯の構成要件が重なり合う限度で軽い傷害致死罪の共同正犯が成立する」として、①重い殺人罪の共同正犯が成立し、傷害致死罪の刑で処断するという解釈はとらないこと明示する。そして、②原審の法令適用すなわち、刑法60条、199条に該当するが、同法38条2項により同法60条、205条1項の罪の刑で処断することについて、殺人罪の共同正犯を認めているものではないと解して、誤りはないとする。従来の判例の法令適用を否定するものではないが、罪名科刑分離説をとらないという抽象的事実の錯誤論における判例の38条2項の解釈と整合性をとったものと解される。

この判例については、殺意のあった者の法令適用が明確でないこと、従前の法令適用も38条2項は重い罪を実現しても重い罪の故意がなければ、重い罪は成立しないという判例通説の解釈ならば、同条項は当然のことを規定したものであり、重なりあう軽い罪の限度で共同正犯が成立するという立場(部分的犯罪共同説)からすると、あえて38条2項を適用する必要はないのではないか。つまり端的に205条、60条を適用すればよいし、表現としても「傷害致死罪の共同正犯が成立する」とのべれば十分で有り、殺人罪の「共同正犯」と傷害致死罪の「共同正犯」の重なり合いを問題にする必要はないのではないか[内田文昭「共同正犯」判例刑法(4)160頁参照]との批判が可能である。また、殺意のある者の法令適用が明確でないため、罪名科刑分離説=完全犯罪共同説を否定するとしても部分的犯罪共同説を採用したと断言できないとの見解もある。この点、殺意のある者には、端的に刑法199条、60条の適用を肯定する趣旨を含むとする理解もあった(昭和54年度最高裁判例解説75頁)。すなわち犯罪共同説の立場でも「同性質の犯罪で、構成要件上重なり合う部門のある罪相互間」において、罪名を異にする共同正犯の成立を認めうるとする見解(藤木英雄・刑法講義総論283頁。いわば罪名独立的な部分的犯罪共同説)によれば、殺意のある者の法令適用は刑法199条、60条と解することは可能ということである。

しかし、これは行為共同説、特に犯罪行為(構成要件)の一部の共同で足りるとする見解(平野龍一・刑法総論Ⅱ364頁以下。前田雅英・刑法総論講義第5版481頁は「構成要件の重要部分の共同」が行為共同説でも要求されるという。)の結論と同じである。

それゆえ、このような理解の(罪名独立的な)部分的犯罪共同説は、上記の意味での行為共同説と同じと評価されることになろう(平野・前掲365頁参照)。しかし、以下のように判例はこれらとは異なる法令適用を是認することになる。