刑法思考実験室「結果回避義務違反と許された危険…過失犯の構造の再編」その19 | 刑事弁護人の憂鬱

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6 危険運転致死傷罪と過失犯の結果的加重犯化…自動車事故類型の考察



(1)危険運転致死傷罪と自動車運転過失致死傷罪



ア 危険運転致死傷罪の新設

平成13年の刑法改正により、悪質な飲酒運転などの危険運転による交通事故事案を重く処罰するため、危険運転致死傷罪が立法された。




刑法208条の2

第1項 

「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。」


 第2項 

人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。」




イ 危険運転致死傷罪の法的性質…結果的加重犯の意味



 本罪は、悪質な飲酒運転等危険運転による交通事故を背景に、暴行・傷害の罪の一種として危険運転による自動車交通事故類型の一部を被害感情及び一般予防の観点から加重処罰するものである。立法者は、幅寄せ等の危険運転行為が暴行の実行行為に当たりうるとの解釈を拡大したものと思われるが(いわば準暴行傷害罪・準傷害致死罪説ないし故意犯説)、本罪が道交法で禁止処罰される各種の危険運転行為の結果的加重犯の性質を有していることは否定できない。また、人に対する有形力の認識を含まない1項や2項後段の類型は、「暴行」に準じることはできない。

基本行為である危険運転行為自体、刑法上処罰されていないことからすると、正確には結果的加重犯類似の犯罪類型であり、基本犯を処罰する傷害・傷害致死罪などの通常の結果的加重犯とは法的性格を異にしていることは明らかである(内田博文・「危険運転致死傷罪と結果的加重犯論」現代刑事法第5巻4号【№48・2003年】73頁以下参照)。

さらに本罪の適用の補充類型として自動車運転致死傷罪が新設された経緯も考えると(後述)、本罪は、自動車交通事故の過失犯(自動車運転過失致死傷罪)の一部を特別に加重する犯罪類型と解すべきである(過失犯の結果的加重犯化=不真正な結果的加重犯。いわば過失犯説)。

なお、本罪は個人の生命身体の法益のほか、交通の安全も保護法益としており(刑法208条の2第2項)、公共危険罪としての性格も有していることに注意すべきである(内田・前掲論文73頁参照)。

条文上わかるとおり、5つの危険運転行為類型から生じた死傷結果を重く処罰するものである。


 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させた場合

 その進行を制御することが困難な高速度で、自動車を走行させた場合

 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させた場合

 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転した場合

 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転した場合




ウ 自動車運転過失致死傷罪の新設とその法的性質

他方、平成19年刑法改正により、自動車運転過失致死傷罪が新設された。その立法事実としては、「酩酊運転による危険運転致死傷罪の成立する可能性があるに、被疑者が事故現場から逃走し、多量の水を飲むなどして「運転が困難な状態」であったか否かを立証できない場合があったこと、単なる脇見運転であるが、幼稚園児の列に突っ込み多数の幼児を死傷させても観念的競合となるため、従前の法定刑では、必ずしも事案に応じた量刑が適切でない場合があった」といわれる(西田・刑法各論第6版64頁)。

業務上過失致死傷罪の加重特別類型とする趣旨として、自動車の「走る凶器」性を指摘する見解もあるが、交通事故が増大した昭和30年代~40年代の頃と比較して交通事故が飛躍的に増大したわけではないのであるから、むしろ、危険運転致死傷罪の補充類型として機能させるために被害者感情及び一般予防上重罰化・刑の均衡を図ったものと見るのが素直な見方であろう。

なお、軽微な傷害の場合の刑の任意的免除規定(平成13年刑法改正)は、新設規定にも残されている。厳罰化とは逆に不可罰化を図るものであるが、業務上過失致死傷罪や単純過失致死傷罪には同様の規定がないこととバランスを欠くと思われる。立法論的には、過失傷害のすべての類型に同様の規定をおくべきであろう(解釈論として同条項但し書きの類推を主張するのは斎藤信治・刑法各論第三版342頁以下)。




 刑法第211条

 第2項

自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。」