刑事政策の基礎 刑罰論その1 「死刑と無期懲役」(中) | 刑事弁護人の憂鬱

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3 無期懲役と終身刑

  受刑者の身柄を拘束し自由を剥奪する刑罰自由刑という。そのうち、刑務作業を義務付けられるもの懲役といい、義務付けられないものを禁錮という(刑法12条2項)。懲役・禁錮は無期と有期があり、有期は1月以上20年以下であるが(刑法12条1項、13条1項)、加重事由があれば、最長30年となる(14条2項)。懲役と禁錮では懲役のほうが刑が重いとされ、無期と有期では無期のほうが重いので、日本の刑法においては、無期懲役が死刑の次に重い刑罰ということになる。なお、1日以上30日未満の短期の自由刑を拘留という(刑法16条)。拘留は、刑務所ではなく拘留場に拘置され、刑務作業は義務付けられない。

  無期懲役と似て非なるものとして終身刑がある。無期懲役は10年を経過すると仮釈放が可能となるが(刑法28条)、終身刑は、仮釈放が認められない無期限・終身の自由刑である。日本の刑法において法律上終身刑の規定はない(ただし、最近改正をめざす立法提案の動きがある。)。しかし、無期懲役における仮釈放の運用の実体は、非常に少なく25年以上経過しても許可がおりる比率は低く、事実上の終身刑となっているとの評価がある(川出=金・前掲80頁注18、82頁、241頁参照。平成22年において無期懲役受刑者で仮釈放になったのは7名、平均在所期間は35年3ヶ月、平成22年中、死亡した受刑者は21名という。法務省「無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について」(平成24年10月)参照。)。

さらにすすめて、最近の刑事裁判実務では、無期懲役の判決言い渡しの際に仮釈放を認めるべきでないという条件付きないし意見を付すことがあるという(森炎・「死刑と正義」32頁以下参照※)。法的には何ら効力はないが、仮釈放の許可判断にあたって、事実上尊重されるため、「事実上の終身刑判決」といわれる※※。
よって、事実上は、死刑と無期懲役の間に「仮釈放の可能性が事実上ない無期懲役(事実上の終身刑)」があり、これこそが実質上、死刑の次に重い刑ということになる。


※仮釈放に関して意見を付する無期懲役判決裁判例
① 広島地判平成18・7・4判タ1220・118は、死刑求刑に対し、死刑を選択せず無期懲役を言い渡したが、「以上検討したところによれば、被告人には無期懲役をもって臨むほかないが、本件の犯情や遺族の被害感情にかんがみれば、被害児童の尊い一命を奪った罪の深さは決して許されるものではなく、被告人の一生をもって償わせるのが相当であって、その仮釈放については可能な限り慎重な運用がなされるよう当裁判所の希望として付言する」という。

② 東京地判平成23年12月21日判例集未搭載LLI/DB判例秘書は「被害者の抵抗を排して両手で首を絞め続け,更には着衣を脱がしてわいせつ行為にまで及んだという一連の行為態様は悪質であり,スロットですって金員に窮し,遊ぶ金欲しさに侵入盗に及んだ挙げ句本件に至ったという動機経緯におよそ酌むべきものはない。被害者は,自宅という最も安心できるはずの場所で突然被害に遭い,いまだ若く将来のある身であったのに,一切の希望を理不尽にも被告人によって奪われたもので,その驚きや苦痛,無念の程は察するに余りある。最愛の家族を失った遺族の悲しみや絶望感は大きく,その後の生活も一変したことが窺われ,第一発見者として無惨に殺され辱めを受けた娘の姿を目の当たりにした両親の心中をも思えば,極刑ないし一生刑務所から出さないことを望むのも当然のことと理解できる。被告人は,少年時窃盗を繰り返し少年院に複数回送致され,成人後26歳時の本件犯行の前に窃盗罪等で3回服役し,2件目は1件目の仮釈放中の,3件目は2件目の刑執行終了後1か月を経ずしての再犯であるところ,本件もまた3件目の前刑仮釈放から僅か12日後の犯行であることや,本件犯行後の生活状況等に鑑みると,更生の可能性は非常に疑わしい。公判で捜査段階の供述を翻し曖昧な供述に終始する姿からは真摯な反省の情は認められない。弁護人が主張するような酌量減軽をすべき事情は皆無である。
 以上によれば,被告人の刑事責任は非常に重く,これに見合う刑罰としては死刑の選択も検討すべきであるが,強盗殺人1件の事案のこれまでの量刑傾向をも踏まえると,極刑とするには躊躇を覚える。そこで,主文のとおりの結論とするが,仮釈放の許否については,前述のとおりの本件の特質を十分踏まえ,慎重に判断されることを切に望む。」という。

③ 東京地裁立川支部判平成21年5月12日判例集未搭載LLI/DB判例秘書は、「なお,被告人X2については,犯行後の情状に特に大きく酌量すべき事情が認められることなどから,死刑を回避すべき特別の事情があると認めたものであるが,もしこのような事情がなければ死刑を選択することも十分ありうると考えられるほど本来の責任は重いこと,及び被告人X2は現在65歳であり,既に一定の年齢に達していることを考慮すると,仮釈放を許すことは適当ではなく,生涯にわたって刑務所において罪の償いをさせるのが相当と考えるので,その旨付言しておくこととする。」という。
 

④ 千葉地判平成23・8・3判例集未搭載LLI/DB判例秘書は明確な意見ではないが「無期懲役に処せられ仮釈放中に殺人等を犯した者についての従前の事例も参考にして考察すると、死刑を選択することは躊躇せざるを得ず、生涯にわたって、被害者の冥福を祈らせつつ刑務所で反省の日々を送らせるのが相当であると判断し、無期懲役に処することにした」という。

※※仮釈放に関する意見を付する判決の適法性
  あくまで意見であり、法的効力はないとしても事実上の終身刑の意味ならば、第1に裁判所による刑罰の創造という意味で罪刑法定主義違反、第2に本来行政官庁である地方更生保護委員会の権限事項である仮釈放の許否に影響をあたえることは司法権の逸脱、権力分立違反の問題が生じかねない。上記①の控訴審は「なお、刑の執行及び運用に関しては、裁判所の権限外の事項であるにもかかわらず、第一審裁判所が、上記のとおり希望という形をとっているとはいえ、仮釈放の運用について言及しているのは、必ずしも適切とはいえないといわざるを得ないが、この付言の存在故に量刑判断が不当になっているとはおよそ認めがたい」という(広島高判平成22・7・28高裁刑事速報平成22・161、LLI/DB判例秘書)。