判例評釈 「ビラ配りが風営法における「客引き」に当たらないとされた事例」その6 | 刑事弁護人の憂鬱

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判例評釈 「ビラ配りが風営法における「客引き」に当たらないとされた事例」その6


(評釈) 「客引き」の意義


1  風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)22条1号の「客引き」とは、営業者又はその従業者が相手方を特定して営業所の客になるように「勧誘する」ことをいう(東京高判昭和54年9月13日判例時報959号133頁)。「客引き」は、相手方が特定されていることを要するから、一般通行人にチラシを配布する、看板を掲示する、サンドイッチマンが看板をもって宣伝を行うなどの行為は、「客引き」に該当しない(安西温著「改訂特別刑法4」37頁。)
   これに対し、不特定の通行人にビラを配布する行為は「客引き」とは明確に区別されるのであり、また、ビラ配布は、ビラを受領し又は示された者が、ビラの内容に興味を抱き、料金等について配布者に質問をすることが当然に予想される。
   また、「勧誘する」とは積極的な言動をいうのであるから(安西前掲37頁)、当該質問に回答するといった受動的な行為は、「客引き」に該当しない(東京高判昭和49年3月14日刑事裁判月報6巻3号183頁参照)。なお、特定の相手の身辺につきまとい、寄り添って歩き、立ちふさがり、または腕をつかむ、引っ張るなどの有形力を行使して来店をすすめるなどの執拗な行為にまで至れば、当然、「客引き」に該当する(安西前掲37頁。)。
   よって、本件においては、前記のとおり、被告人が行っていたのは通行人に対するビラ配布であり、声かけや付きまとい等の勧誘のための積極的な言動を行っていないのであるから、被告人の行為は「客引き」に該当しない。この点で、ビラ配りに「客引き」該当性を否定する本判決は妥当である。


2  なお、訴訟の経緯からすると、論告直前まで、検察官は先に被告人が「声をかけた」ことを主張立証しようとしていたが、論告になって、ビラ配り自体、あるいは被告人の一連の行為を「客引き」に当たると主張した。しかしながら、そもそも、検察官も認めるとおりビラ配布はサンドイッチマンの看板掲示と同様に不特定の者に対する宣伝行為であり、本件動画画像あるいは本件ビラの客観的態様等だけで外形的に、ビラを示す(配布する)行為が「客引き」に該当すると評価することはできない。確かに、論理的には、ビラ配りと同時に特定の相手方に対して積極的言動があれば、「客引き」に該当する可能性はあるが、それも積極的言動について問題になるのであり、ビラ配り自体が問題となるのではない。
   また、受動的回答を含む被告人の事後的行動についても、ビラを示す行為に「客引き」該当性を付与するものとはいえない。仮に検察官の主張が正しいとすれば、風俗営業店の看板を見た通行人が、看板に記載された当該風俗営業店に電話をかけて料金や場所等を問い合わせ、これに対しその従業員が電話で説明した場合に、遡って看板を掲示する行為自体が「客引き」に該当してしまうことになるが、このような結論が不合理であることは明らかである。