お経ではない。ましてや怪しい呪文でもない。

現在ばあちゃんがいる所では食事前にいつも同じビデオがかかる。
ビデオの画面に合わせて声を出し、
飲み込む力を鍛えるという目的があるらしい。

最初は「ぱぁ、ぱぁ、ぱぁ」と一文字ずつゆっくりやるのだが
だんだん「ぱたぱたぱた」とか「ぱったっかっ!」とか字数もスピードもUPしていく。

その最後が、いちばん早口での「ぱたからぱたからぱたから!」なのである。

これが結構むずかしい。

年寄り相手に、何もそこまで早口を求めなくても・・・
この集団の中で、一体誰が何人言えているというのか?
第一、職員だって『噛んでる』し・・

なんて言ってはいけない。

若い者にとってはたやすい『飲み込む』という動作、
老いと共に信じられないくらい衰える。
食事の前にのどを動かしておくということは、実はすごく重要なことなのだ。
ばあちゃんだって、その嚥下能力低下のために三途の川を渡りかけたことだってあるのだ。

なのに、ばあちゃんの『ぱたから』に対する態度は不真面目なことこの上ない。
「ばからしくてやってられない」のだそうだ。

なもんで、私が面会に行くときは、極力その時間を押さえ、一緒に参加するようにしている。
私も一緒だと、ばあちゃんはやるのだ。仕方なく、ではあるが。

実は私は早口というのがとっても苦手で。
最後の『ぱたから最速三連発』はちょっとキツイ。

ばあちゃんを初め、周りのおばあさんたちも
他の反応はとっても鈍いくせに、私が『噛む』とすぐ気づくのがどこか解せない。
みんな、真面目に取り組んでください。

という訳で、今日もこれから『ぱたから』に行く。

ぱたからぱたからぱたから・・・・

今日こそ噛まずにパーフェクトに言ってやる。