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大崎善生さんの小説である。

息子が将棋を始めてから、『将棋』というフレーズがなんだか目に付く。

「兄は頭が悪いから東大へ行った、弟は頭が良いからプロ棋士になった」
さるお方のそういう言葉があったとかなかったとか。
とにかく、『プロ棋士』になるということは大変なことと聞く。

この小説は、そのプロ棋士を目指す『奨励会』の子の、物語である。

地元では『未曾有の天才』と言われても、奨励会→プロ棋士の道は険しい。厳しい。
好きがゆえに、とらわれ、苦しみ、時に憎むという、ある意味『愛憎劇』が繰り広げられるのだ。
そして何より物語を悲劇的にするのは
本人の人生、家族の犠牲、これらのあまりにも高い代償が、
えてして、報われない方が多いということ。

そんな残酷な挫折を味わった少年の物語である。

もちろん、将棋といえども勝負の世界。
そこに勝者がいる限り、敗者は必ずいるものだ。
本当は、それはただ、『将棋の世界での敗者』であって、『人生の敗者』ではないはずなのに。

ずいぶんカラーは違うが、瀬川晶司さんの『泣き虫しょったんの奇跡』や
マンガでも『ハチワンダイバー』とか読むと
いくら小説とはいえ、子どもがここまで人生かけてしまうのか!
そしてひきずってしまうのか!!との思いはぬぐいきれない。

大会やイベントにはよく、プロ棋士や奨励会の人が来る。
私自身、ちょっと意外だったのは、皆、とっても気さくだということ。
連盟の方針もあるのかもしれないが、結構サービス精神旺盛、というか
直に接するチャンスが実に多い。
指導対局から、握手、サイン、写真撮影と、お話もできたりしてしまうのだ。

もちろん、オーラや貫禄は感じるが、ああフツーの人間だと安心する私がいる。
・・・って、『天使の羽』とか『ツノ』がついてるとでも思っとったのか?自分。
第一、彼(彼女)たちをじっと見つめてしまう私の方がよっぽど怪しい。

幸か不幸か、今のところ息子は、
プロ棋士の子ども時代のような、どっかとび抜けたエピソードはひとつもない。
腹が立つほどのマイペースさはここでもいかんなく発揮され、
まるで厳しい世界とは別次元にいるようだ。

そういう私も、家を売って夫を置いて上京しよう!といったキモチになったことも、そういえば全くない。

どうも我が家は小説の舞台にはなりそうもない。

一時でも「もしうちの子がそんな苦しい人生を歩んでしまったら・・」と胃の痛みを感じた私はやはり親ばかだ。