コーヒーが飲みたいな。
小さなおやつを目にした瞬間にそう思った私は
「コーヒー買いに行くけど、誰か何かいる?」
と同僚たちに声をかけた。
「あ、じゃ私もコーヒー」と一人が小銭を私に手渡した。
作業所のドアを開け、どこかから漂ってくるキンモクセイのほのかな香りをマスク越しにかいだ。爽やかな秋晴れの空を見上げながら駐車場を小走りに横切ると、二人分のコーヒー代を握りしめて自販機に向き合った。
一人分の小銭を投入していつものペットボトルに入ったコーヒーを選択した。コーヒーの落下する音に続いて、くじ付きの自販機は耳障りな音とともにパネルのルーレットを回し始めた。
いつものことだが無用に長いこのbetタイムに少しイラっとする。
「どうせ当たらないくせにいつまでやってんのよ」と機械相手に悪態をついてしまう。それでもいつもはルーレットが回り終わるまで待って次の小銭を投入するのだが、今日はなぜか音が鳴り終わらないうちに入れてしまった。
そして1枚ずつ投入するたびに手応えなく落下する金属片の音が聞こえた。投入した170円分すべてが返却口に戻ってきたのだ。なぜわざわざ自分をイラつかせるようなまねをしてしまったのか、わからない。
今度は自販機ではなく、自分にため息をつきながら返却口に吐き出された小銭をけだるくつまみ上げ、合成音の鳴り止んだ自販機に、もう一度投入する。
すると、どうしたことか先ほどと同じように小銭が返却口に落下する音が聞こえたのだが、私はその訳を理解することを拒み、イラついたまま、2本目のコーヒーのボタンをほとんど叩きつけるように押した。
ボトルの落下する鈍い音に、2度めのため息をつきながら取り出し口に手を伸ばしたとき、小さな違和感に気づいた。
商品取り出し口には見慣れたコーヒーが2本。
そして…返却口にはやはり2度投入した小銭が2度目の返却をされてそこにあった。
は? あれ? 壊れた…?
しばらく事態がのみ込めなかった。
そして2秒後にやっと理解した。
この自販機と付き合いだして3年目にして、初めて「あたり」を引いたということを。
作業所に戻り、同僚のおつりに少々色をつけ、ことの顛末を話しながら皆で笑いあった。
そして、これが今年最後のアイスコーヒーになるだろうな、と心地よい冷たさを味わった。
おしまい。