来月のライブに備えて衣装を決めた。

 

数年前に購入するも着用の機会がなかった

黒いサテンのロングドレス。

胸元のダイヤモンドカットがデザインのキモ。

 

海外サイトで購入したもので

トレイン引いているので

まず丈を切り詰めなくてはいけない。

目測でテキトーにラシャばさみで切り

まつり縫い完了。

 

さてここで問題が一つ。

 

コレ、バックがレースアップになっていて

ファスナーというものが付いていない。

レースアップが飾りではなくリアルに

着脱用の唯一の開閉装置になっているのだ。

また、トルソーには数本のボーンが入って

結構かっちりした作りになっている…。

 

実は以前に

これとは違うドレスなのだが

着たはいいけど脱げなくなって

ドレスの中でバンザイの姿勢のまま

身動き取れなくなったことがある。

 

クジラか巨人に飲み込まれたら食道でこんな感じか?

想像してみてほしい。

下半身丸出しでバンザイした上半身が布にくるまれている姿を。

そう、とてつもなくマヌケなビジュアルだ。

 

そのマヌケな様とは裏腹に中身の私は

「このまま死ぬのではないか」という謎の恐怖に

憑りつかれて過呼吸になっていた。

 

(元々閉所恐怖症気味かもという自覚はあった)

 

気を失うか、正気を失って、

ケンシロウのようにドレスバリーン!

(実際には腕がまったく動かせずそれは不可能)

しそうな衝動に駆られていた。

 

しばらくして気が遠くなりながらも身体の力が抜けると

少しずつズリ、ズリ、と

恐怖のドレスから脱出できた時には

眩暈の中で汗だくになっていた。

 

その後気が付いたのだが、

何のことはない

サイドファスナーに気付かずに

無理やり着脱ぎしていたのだ(;'∀')。

よく破れなかったものだ。

 

だが結局このドレスは

その後一度も着ていない。

 

以来、私は窮屈な服に頭を通すときに

あの恐怖がフラッシュバックするようになってしまったからだ。

 

でもそこは女ですもの。

「今度のライブ会場にマッチするのはこのドレスしかない!

今着ないでいつ着るの!?」と、奮い立たせた。

 

ドレスの裾を両手に持ち

今から潜水するつもりで

大きく息を吸って呼吸を止め

目をギュッと閉じて

ドレスの海に身を投じ

出口へと溺れるようにもがいた。

暗くて長いトンネルから抜け出すように

頭と両腕を突き出しただけで

もう呼吸が荒い。

 

レースアップを閉じる間も呼吸が整わず

アクセサリーなどを完備したころには

酸欠のようにフラフラになってしまった。

呼吸が上手くできない。気持ちが悪い。目が回る。

それでも鏡の前に立ち呼吸が整うのをひたすら待った。

 

5分、10分経った頃にやっと平静を取り戻した。

鏡の前で当日の動きを組み立てる。

やはりこのドレスで間違いないと確信し、

次の関門。

 

「これ、どうやって脱ぐの!?」

泣きたくなってきた。

 

背中のレースアップも相まって、

ドレスに絞め殺されでもするかのような恐怖と

ドレスをハサミで切り開いて一刻も早く自由にならなければ!

という考えが浮かんでしまった。

 

慌てて背中のレースアップを緩めた

もうどこをどう引っ張ればいいのか

冷静に判断できない。

リボンをひたすら引っ張りまくった。

その間にもう呼吸が乱れてきたが

それでも何とか背中を全開にし

裾をまくり上げ頭にかぶった。

 

当然のことながら

無事に脱げたのだが

気分はテンコ―の大脱出。

もう床にへたりこんでしまった。

 

こんなことでは当日歌えない。

何とかドレスに慣れなくては…。

 

間髪入れず

もう一度大きく息を吸って

目を閉じ、ドレスを被る。

両腕を通したら

また裾をまくり上げて脱ぐ。

 

その間中「大丈夫、大丈夫」と

呪文のように言いきかせた。

 

読んでいてバカバカしいと

お思いでしょうが

というか自分でもバカバカしいと思うけど

 

人の心というのは

こうも簡単にバランスを失うのかと

 

それを忘れないために

書き起こしてみた。

 

もっとわかりやすく心が壊れてしまう人々のことを

嗤ったりしないためにも

自戒のためにも。

 

ああ、当日までにあと

何度訓練できるだろうか。

 

自分と戦いながら

ドレスを着るなんて

理解してくれる人がどれだけいるんだろう(笑)