洋服を着たロック、裸のロック | Diary of a Lover

Diary of a Lover

中村隆宏の手記

先月のライヴの日、ギターのセッティングをしていたら、若い店員に話しかけられた。

 

「年季の入ったギターですね」

 

30年以上弾いていると返したら、質問された。

 

「80年代のギターですか?」

 

50年代のギターだと答えたら、絶句された。

 

「…」

 

よくある話ではないのかもしれない。

 

ライヴで使っている電気ギターは、ビートルズや、ローリング・ストーンズや、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドや、レッド・ツェッペリンが結成される前に作られたもの。

 

古いギターの目で見れば(耳で聴けば)、ビートルズも、ローリング・ストーンズも、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドも、レッド・ツェッペリンも、演奏が若々しい。

 

ビートルズの演奏は洋服を着ている。ローリング・ストーンズの演奏は裸だ。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの演奏は骨しかない。レッド・ツェッペリンの演奏は鎧を着ている。

 

ビートルズでいちばん好きな曲は、これかな。

 

ローリング・ストーンズで二番目に好きな曲は、これだな。

 

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは、これ。

 

レッド・ツェッペリンはどの曲も甲乙つけがたい。今夜はこれ。

 

或る夜、女性のベース奏者に訊かれたことがある。

 

「どうして何本もギターを買うの?」

 

ギターはどれも違う音がするからと答えたけれど、まったく納得のいかない表情だった。

 

「一本あればいいじゃない?」

 

まあ、ごもっともなんだけどね。

 

ビートルズを聴くとエピフォンのギターが欲しくなるし、ローリング・ストーンズを聴くとフェンダーのギターが欲しくなる。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやレッド・ツェッペリンを聴けば、ギブソンのギターが欲しくなる。

 

だけど、音がいい古いギターは、自動車や家のような値段になってしまった。もう買えない。これは、良いことなのか、悪いことなのか、どうでもいいことなのか、よく分からない。

 

いま弾いているギターの音に不満はまったくない。ただ、身体への負担を考えて、これからは軽いギターを弾きたいと思ったりもする。(笑)

 

ジミー・ペイジが弾いてるギブソンのレスポール、恰好いいけど重たそうだなあ。ジョン・レノンが弾いてるエピフォンのカジノ、洒落てるし軽そうだなあ…。