日銀がマイナス金利を撤廃する可能性が高いのではないか、そんな見方が増えてきています。マーケットでは12月7日に国際の利回りが大きく上昇し、為替は円高に触れてきました。

こうした状況になると、マイナス金利が撤廃されると経済のさまざまな方面にどのような影響があるのか、その辺りに皆さん注目していることでしょう。

 

まず、マイナス金利が撤廃されたとして、今後どんどん利上げが行われるかと言うと、おそらくそういうことはないと思われます。上田総裁のこれまでの政策運営を見ていくと、緩和を続けると言いつつも、イールドカーブコントロールを事実上系外化させて非伝統的な異次元の金融緩和を正常化させる方向に進めてきました。ですので、マイナス金利の解除はあくまで非伝統的な異次元の緩和を終わらせて平時に戻すことだと思われます。

 

したがって、マイナス金利の解除が今後継続的な利上げに繋がることはないと私は見ています。ですので、このマイナス金利が解除されても、短期金利は今後も0か、わずかなプラスの水準を維持する可能性が高いと考えています。

この短期金利に連動して決まる金利、例えば住宅ローンの変動金利などもおそらくほとんど上がることはないと思います。住宅ローンに関しては、変動金利で借りている人が多いため、短期金利を上げて住宅ローンの返済が増えるという引き締め効果は個人の消費などを冷やす形で非常に大きくなる可能性があります。この点について、日銀も十分に理解しているでしょうから、短期金利を急激に上げることは避けるでしょう。

 

 

したがって、短期金利はそれほど上昇しないと予想され、短期金利と連動するその他の金融商品、例えば預金金利などもほとんど上昇しない可能性が高いと思います。

 

では、長期の金利や10年国債利回りと連動する金融商品はどうでしょうか。まず、マイナス金利の解除で10年国債の利回りがどの程度まで上昇するかは複雑です。10年国債の利回りは短期金利の影響だけでなく、様々な経済環境が影響して決まってきます。特に、アメリカの10年国債利回りがどの程度の水準にあるかによっても、日本の10年国債の利回りが大きく変動することになります。したがって、マイナス金利の解除だけで10年国債利回りが具体的に何%と言えるものではありません。

 

ちなみに、10年国債の水準を予想するのは難しいですが、物価上昇率が3%を超えている中で10年国債の利回りがまだ1%にも満たない状況ですので、どのような要因で利回りが決まるのか考え方が非常に難しいという点があります。また、生命保険会社の30年債の需要などから10年国債の利回りを予測する方法について以前の動画でも説明しました。10年国債は投資家の需要がはっきりしない特徴があります。したがって、特定の投資家の需要などで動向が予測しにくいです。

 

一方、30年国債などは生命保険会社の影響を受けやすいと言えます。30年国債を買う主要な投資家は長期にわたってお金を預かっている機関投資家、つまり生命保険会社と年金基金ぐらいなのですが、年金基金はいわゆるインデックス運用というもので、利回りの水準に関係なく投資を行う傾向があります。一方、生命保険会社は利回りの絶対水準を見て投資をしたりしなかったりするため、生命保険会社の選択によって30年国債相場は影響を受けています。

 

簡単に言えば、現在の状況では外国債券を売却して30年国債を購入する需要があるということです。そして、どの程度の利回りで30年国債を購入したいかと言うと、生命保険業界全体的には約2%の利回りが望ましいとされています。これは、保険契約では予定利率というものを設定し、この利回りで運用することを前提に商品が設計されているためです。

 

しかし、保険会社は過去に高い予定利率の保険商品を販売し、それに見合った運用が現在できていない場合もあるため、過去に販売された保険の平均予定利率を上回る利回りの債券が必要とされています。この点については、過去からの経営上の問題が影響している可能性もあるため、業界全体で平均予定利率は約2%前後になっていると見られています。

 

したがって、30年国債の利回りが2%に近づいたところで需要があり、生命保険会社はその水準を待っていると考えられます。そのため、経済環境が大きく変化しない限り、30年国債の利回りが2%を超えることはないでしょう。

 

この状況下では、10年国債利回りが上昇しても1%前後にとどまる可能性が高いと予想されます。10年金利が1%程度になれば、固定金利の住宅ローンなどは少し上昇する可能性があり、各種10年国債の利回りを参照するローン金利なども上昇する可能性がありますが、大きな変化にはならないでしょう。

 

一方、最近では円キャリートレードが増加しています。円キャリートレードは、日米の金利差が広がり、かつ為替の変動が少ない時に利益が大きくなる戦略です。今年は日本とアメリカの金利差が広がり、為替も比較的安定していたため、円キャリートレードの需要が増加していました。しかし、最近は来年のFRBの利下げの可能性が織り込まれ、一方で日銀がマイナス金利を解除する可能性が高まり、為替も円高になっています。

これは円キャリートレードにとって好都合が崩れてきている兆候です。円キャリートレードの積み上げたポジションが解消されると、為替市場では大きな円高の圧力がかかる可能性があります。したがって、国際市場での金利上昇以上に為替市場が大きな変動になる可能性があるかもしれません。

 

私は10月頃からアメリカの10年金利が5%の天井をつけ、低下傾向にあることや、中長期的にはドル高が終わった可能性があることなどを何度か動画で説明してきました。また、円キャリートレードの解説の中でも、将来的に大きな円高の可能性があると述べてきました。

 

実際には、私が思ったよりも1ヶ月半から2ヶ月ほど円高になるのが遅かったですが、この期間の違いは私にとってはそれほど重要ではありません。私はもっと長期的な視点で経済市場の動向を見ています。現在、私が注目しているのは、2021年から始まった大きなアメリカの金利上昇とドル高が終わり、2024年から2025年にかけての経済市場の動向、および2013年から始まった日銀の異次元緩和が終わりを迎え、為替や日本国債の利回りがどのように推移するかです。

 

したがって、一時的な変動に固執せず、中長期的な視点で経済の動向を理解し、投資を考えることが重要だと考えています。