イスラエルが大変なことになっています。ハマスが大規模な攻撃を仕掛けて、今の時点で双方で1000人以上の死者が出ていると報道されています。イスラエルは戦争状態を宣言し、ハマスの方も戦う強い意志を示しています。イスラエルでこれほど多くの支障者が出るのは1973年にエジプトシリアと戦った第4次中東戦争以来ということになります。今回はこのイスラエルの問題について、マーケットへの影響やこれからの世界経済を見ていく上でどのように考えればいいのか、そういうお話をしたいと思います。

 

 まず、今回の問題がなぜ起こったのかという部分について、色々な情報が出ていると思います。もう詳しい方も多いと思いますので、わざわざ説明する必要はないかもしれませんが、簡単に振り返りますと、最近サウジアラビアとイスラエルが国交正常化を進めようとしているといった報道が増えていて、交渉が進展してきているといった情報もあって、そのことがハマスが攻撃を仕掛けた1つの要因になったといった見方があります。 こうした状況が影響したのは間違いないでしょう。イスラエルとパレスチナの問題がある中で、アラブの国がイスラエルと国交を正常化するということは、パレスチナとしては仲間だったはずのアラブの国に見捨てられたも同然です。

 

ですので、ハマスなんかが俺たちの存在を忘れるなと武力行使に出たというのがよく言われていて、今回の問題の背景にこうした状況があったのは間違いありません。 このイスラエルとサウジの国交正常化を進めることで、パレスチナ問題を進展させることを目論んでいたのがアメリカだったわけですが、今回の戦争勃発でその目論みが外れた形になりました。サウジアラビアとしては、イスラエルとの国交正常化でアラブ圏でのプレゼンスを一層拡大したいといった狙いがあったのかもしれませんが、今回の問題でもはやイスラエルと国交を正常化するメリットはなくなったと言えるでしょう。

 

 最近は中東の国の関係というのも変わってきているので、今回の問題に対して各国がどういう立場を示すかも非常に注目されています。サウジアラビアがどういう立場を示しているかと言いますと、イスラエルの占領が続き、パレスチナの権利が奪われた結果だとしていて、パレスチナを擁護する立場を示した上で、双方に自制を求め、イスラエルとの間でバランスを取った形です。 そしてすでにイスラエルと国交を正常化しているUAEはイスラエルへの批判を避けて双方に自制を求めました。一方で、イラクやシリア、カタールはイスラエルを批判するとともに、パレスチナ指導を明確化しています。そして、アラブ諸国の大国であるエジプトは、状況がエスカレートするのを避けるために、双方に自制を求めた形です。 イスラエルによる報復や戦争が泥沼化していって、パレスチナ側にさらに多くの損害が出た場合には、アラブ諸国の世論がパレスチナをサポートすべきだという方向に傾く可能性が高いでしょう。サウジアラビアがこの問題に対してリーダーシップを発揮しなかった場合、これらアラブ諸国の国の中で主導権争いが起こる可能性もあるでしょう。 

 

最悪なシナリオとしては、過去の中東戦争と同様に、アラブ諸国の国がパレスチナを支援する形で戦闘が大規模化していく展開でしょう。そういう意味では、サウジエジプトなどの国の世論がどう動くかというのも非常に重要になってきます。エジプトなんかは経済危機に直面していて、IMFの支援を受けている状況であまり余裕がありませんので、政権としてもイスラエルに対抗すべきだといった世論が高まらないことを願っていることでしょう。そういう意味では、言論統制なんかも厳しくなっていくかもしれません。 エジプトでは10月8日に警察官がイスラエル人の観光客に発砲し、殺害するという事件も起こっています。この事件が今回イスラエルで起こっている問題とどう関係しているのかは明らかになっていませんが、非常に緊張が高まってきています。 アメリカはすでにイスラエルの支援を表明し、地中海への空母の派遣やイスラエルへの武器の共有を発表しています。

 

ということで、またまたアメリカは戦争に膨大な費用がかかることになります。バイデン政権としては、サウジとイスラエルの国交正常化を主導して、来年の大統領選挙に向けて成果をアピールしたかったところですが、そうした目論みが外れてしまった上、これからまた膨大な費用がかかる散々な状況です。 今回の問題、イランが関与しているといった色々な情報が出回っていますが、イランにとってはかなり都合がいい状況であるのは間違いないでしょう。アメリカにとっては痛い展開で、さらにサウジとイスラエルが手を結ぶのも阻止し、アラブ圏に揺さぶりをかけることもできる。イランにとっては非常に好都合です。

 

アメリカのバイデン政権は今のところイランの関与を断定することは控えていますが、アメリカ国内でもバイデン政権の対応に批判が高まっていて、今後はどうなるか分からないといったところになっています。 イランとイスラエルの関係の緊張もこれまで以上に高まってきてる形になっています。そして、こうした状況、中国とロシアにとっても好都合な状況と言えるでしょう。 ということで、簡単に今のイスラエルの状況を振り返りました。こうした状況にある中で、投資家はどう向き合えばいいのか。一般の個人の投資家の方は、こうした問題に特別な情報を入手することはまず不可能でしょう。機関投資家も同じようなものです。

 

投資家同士のネットワークみたいなものだったり、著名な方とのコネクションができると色々な情報が入ってきますが、こうした情報の多くが直接売買のアイデアになるような確かな情報というのはまずありません。かなり怪しい情報ばかりです。そんな怪しい情報法でプロの投資家は売買をしたりすることはありません。 ですので、こうした知性学的な問題に関して基本的に機関投資家も個人投資家も持っている情報に違いがないというか、プロも資産運用を行うにあたっては公開された情報だけを使うという意味で状況は同じです。優秀な機関投資家はこういう怪しい情報を元に売買をしたりすることはありえませんので、そういう意味では個人投資家もこうした知性学的な問題をやたらと深読みしたり、陰謀論的なことを考えたりする必要はないと思います。 

 

一方で、実際に起こっている国際情勢の大きな変化については、投資家は敏感に感じ取った方がいいでしょう。これは中長期的な世界経済に大きな影響を与える問題です。今回のイスラエルで起こっている戦争、アメリカの世界でのプレゼンスの低下というものが大きく影響しているのは言までもありません。 イスラエルをサポートするアメリカですが、アラブ圏の国においても一定のプレゼンスを保つことで、2000年代前半頃まではある程度バランスが保たれてきました。2010年代に入ってオバマ政権以降ぐらいから、そのプレゼンスの低下が顕著になってきて、アラブ圏の国のアメリカ離れが進む中で、中東諸国の関係性に変化が生まれてきているというのが問題が起こっていることの背景にあります。 このアメリカのプレゼンスの低下ですが、アメリカの政府の財政状況の悪化がその1つの要因にもなっています。

 

今アメリカの政府の財政状況は、リーマンショックの後に悪化した後、新型コロナでさらに悪化しそしてウクライナ戦争の戦費が重み、今回の戦争でまたさらに費用がかかるという状況になっています。 アメリカの世界でのプレゼンス低下が根底にある中で、さらにその状況が悪化しているということ、これは知性学を見ていく上でも、経済を見ていく上でも非常に重要なポイントになると私は考えています。ですが、マーケットへの影響として、財政悪化ですぐに金利上昇といったことにはならないでしょう。おそらく、知性学的な問題は一時的にはリスクオフという形で、債権の利回り低下で反応する場合が多く、財政悪化による金利上昇は中長期的な影響として出てくる形になるでしょう。