イタリア国債の利回りが上昇してきています。背景には欧州の中央銀行ECBが利上げを行ってきたというのも影響しているんですが、それだけではなくて、イタリアの国家財政の運営に対する懸念が再び高まってきていることも影響してい ます。先日、ギリシャは財政状況が改善してきて格上げされているという話をしましたが、イタリアは対照的な動きになっています。ということで今回はイタリア国債の利回りが上昇してきている要因などについてお話し したいと思います。

 

今動画を作っているのは10月3日で、欧州のマーケットが終わった後ですが、イタリアの10年国債利回りは現在4.94%となっています。これは2013年以来の高水準となっています。これは欧州の中央銀行ECBの利上げの効果でもありまして、イタリア特有の要因わけではありません。欧州の個別の国の国債の状況を見るときは、ユーロ圏で最も信用力の高いドイツ国債との利回りの差を見るのが一般的です。例えばイタリアの場合、今イタリアの10年国債の利回りは4.94%、ドイツは2.97%となっていまして、その差は1.97%となっています。この差が拡大するとイタリア国債の利回りが相対的に上がっているつまりイタリア国債が個別の要因で価格が下落しているということになります。

 

で、このドイツとイタリアの利回りの差なんですが、今年の6月に直近の最低水準となります1.55%程度まで低下した後、上昇傾向が続いています。つまり、イタリア国債が売られているという状況です。ただ、今の1.97%という利回り差は決して高水準とまでは言えないレベルで、昨年は2.5%まで拡大した場面もありました。2010年代の欧州債務危機の時はこの利回り差が5%を超えて拡大していた時期もありましたので、今の水準は決して危機的な状況ではありません。ですが、このこころイタリアを取り巻く状況は徐々に悪化してきていて、それをこの国際利回りが織り込む形で利回りが上昇している形になっています。

 

ではなぜイタリア国債の利回りが上昇してきているのか。これはイタリアの財政収支が悪化する見込みになってきているというのが一つの要因です。9月28日にイタリア政府が発表しました財政報告書によりますと、2023年の財政赤字はこれまでGDP対比4.5%という見通しでしたが5.3%に拡大するとされています。また、2024年はこれまで3.7%の赤字でしたがこれが4.3%の赤字に拡大し、財政赤字をGDPの3%未満に抑えるという目標を設定しているのですが、この目標の達成が2025年から2026年に後ずれするとしています。こうした財政状況の悪化というのが国際価格の下落利回りの上昇に影響を与えている形になっています。

 

ではなぜ財政状況が悪化しているのか。一つの要因は経済成長率が低迷していて、税収が伸びていないことです。イタリアのGDP成長率は2023年第1四半期がプラスの0.6%でしたが、第2四半期はマイナスの0.4%に落ち込んでいます。イタリアの消費者物価指数は2023年9月時点で前年比プラスの5.7%と高水準にとどまっています。この背景にはもともとロシアへのエネルギー依存が高かったことなどから電力価格が引き続き高水準で推移していることなどが影響しているとみられています。新型コロナでも大打撃を受けてからまだ本格的には回復できていないと言えるでしょう。そして、中国人によるブランド品の購入などが期待されていたほど伸びていないということで中国経済の低迷の影響も受けているとみられています。そしてこうした経済の低迷を受けて住宅改修に対する税優遇措置を導入することも国家財政が悪化する要因になるとみられています。

 

ただ、イタリア国債が売られている要因はこれだけではありません。ECBの金融政策への懸念もイタリア国債が売られる要因になっています。というのは、ECBが行ってきたPEPP(パンデミック・エマージェンシー・パーチェス・プログラム)というものがあります。これは要はコロナパンデミックの時に経済を支えるために行われた量的緩和のことです。コロナのロックダウンでは、経済・財政状況の脆弱な国ほど耐久力がなく、金融市場が混乱する状況が発生しました。これをPEPPプログラムで買い支えるという対応を行った形です。ですので、このPEPPでたくさんのイタリア国債が買われた形なんですが、今ECBが量的引き締めをやっている中でこのPEPPで買った国債も保有を減らしていくべきだという議論があります。PEPPで買ってきた国債は財政状況の悪い国の国債が多く、つまりイタリア国債がたくさん含まれています。ECBがこれらの残高を減らしていくということになればイタリア国債の買い手が減って価格下落、利回りの上昇要因になります。こうしたPEPPをめぐる問題もイタリア国債の利回り上昇に影響を与えている形になっています。

 

去年の10月にメローニ氏が首相になった時、お金を使いまくって国家財政が悪化するんじゃないかとか、そんな懸念が高まっていました。ですが、市場の予想に反してメローニに首相は堅実な財政運営を行ってきています。ただ、それでも財政状況の緩やかな悪化が避けられない状況で、イタリアのメローニ首相が難しい舵取りを迫られていることが伺えます。

 

イタリア国債の話から少しそれますが、9月に人口6000人ほどのイタリアのランペドゥザ島という島にわずか1週間余りで島民の2倍以上の移民が上陸したということで大変注目されました。今年9月15日までにイタリアではすでに12万6000人の移民が到着していて、昨年の2倍のペースになっています。この背景にはアフリカでの政治的な不安が影響しているということです。これを受けてメローニ政権はEU各国に受け入れを呼びかけましたが、フランスはこれを拒否し、ドイツも受け入れ不能だとしました。そして、ドイツが地中海を渡ってくる移民の海難救助を行う慈善団体に資金提供を決めたことについて、イタリアは驚きを隠せないと抗議しています。イタリアとしては、海難救助を行う慈善団体が移民を連れてきているという考え方です。確かにそれもそうなんですが、救助しないと地中海で死んでしまうので、慈善団体が助けるしかなくて、その慈善団体は船に乗せて近くの島に行くしかないので結局イタリアに行くしかないという状況で非常に難しい状況になっています。ドイツ、フランスも移民反対派の政党が支持を伸ばしてきている状況で、移民を受け入れますとなかなか言えない状況でイタリアにしわ寄せが行っているという形になっています。メローニ政権としては、もともと移民廃絶を訴えて首相になった立場なので、経済状況も厳しく、いいところがないといった状況の中、移民問題に関してさらに強硬姿勢に傾ていき、EUとの対立を深めていくことになるかもしれません。イタリアに対して移民にひどい扱いをするなと言いつつ自分たちは移民を受け入れません、そんなドイツやフランスを中心としたEUに対してメローニ首相としても怒り心頭と言ったところでしょう。

 

財政の話に戻りますが、この時期、季節的に来年度以降の予算・財政運営に焦点が当たりやすい時期でもあり、イタリア国債が売られやすい時期でもあります。とはいえ、ドイツ国債との利回り差はまだ2%も超えていませんので、そこまで切羽詰まった状況ではありません。ですので、イタリア国債が大変なことになっていると騒ぐほどではなく、こうした状況の中でイタリアとドイツやフランスの関係が今後どうなっていくのか、そうした部分に注目していきたいと思っています。