日本人は金融リテラシーが低い、この話、日本人だったら多くの方が一度は聞いたことがある話だと思います。日本人は金融リテラシーが低いからリスク資産に投資をしていない。金融リテラシーを高めて資産形成をすべきだ、こうした考え方がほとんど何の疑いもなく当たり前のように信じ込まれているような気がします。ですが、日本人は本当に金融リテラシーが低いのでしょうか。私はそんなことはないと思っています。

 

今、貯蓄から投資へと言われて資産形成をすること、リスク資産への投資をすることがあたかも正しいこと、社会にとってもいいことであるかのように言われていますが、これは個人にリスクを負わせて金融機関にリスクが偏りすぎないようにしたいという政府の思惑があること。このチャンネルでは以前からお話ししてきています。そして、そもそも日本人が金融リテラシーが低いという話も、そうした思惑の中で語られている、金融機関や政府にとって都合のいい話だと私は思っています。

ということで、今回は日本人の金融リテラシーについてお話ししたいと思います。まず、これまでにもお話ししてきたことの繰り返しになりますが、なぜ政府が貯蓄から投資へを進めたいかについて簡単に振り返りたいと思います。

日本は銀行を中心にいわゆる間接金融で発展してきた国です。間接金融というのは国民は銀行に預金をし、銀行がリスクを取って融資をする形で世の中にお金が流れていく仕組みです。一方、直接金融というのは個人が直接リスクを取って有価証券などに投資をすることで世の中にお金が流れていく仕組みです。

 

欧米の社会は直接金融を中心に発展してきた一方で、日本などのアジアの国の多くは間接金融を中心に発展してきた国が多くなっています。日本は1990年のバブル崩壊以降、銀行が不良債権をたくさん抱えるという問題が起こりました。間接金融中心だとどうしてもリスクが銀行に偏りやすいそうなると金融システム不安みたいな問題にもつながりやすいこうした経験から個人にリスクを取らせることで、銀行にリスクが偏りすぎるという問題を改善しようと考えたわけです。これは日本だけではなく、韓国など他のアジアの国でも同じような対応を取ってきています。で、個人にリスクを取らせれば不況になって個人が大損を抱えても金融システム不安になることはありません。銀行が破綻しそうになると政府としては救済しなければいけなくなりますが、個人なら自己責任ということで助けなくてもいい。これが「貯蓄から投資へ」を政府が進めようとしている意図です。

 

「貯蓄から投資へ」を進めることがあたかも経済にとっていいことのように言われますが、間接金融と直接金融、どちらが多い方がというのは必ずしも言えるものではありません。どちらにしてもお金が流れていくのは同じで、要は誰がリスクを取るかの違いしかありません。

 

今、政府は「貯蓄から投資へ」を進めたいわけなんですが、そんな中で金融機関の人たちなんかがよく言うのは、日本人は金融リテラシーが低いということです。これいろいろなところで言われていると思いますが、本当にそうなんでしょうか。日本人が金融リテラシーが低いかどうかというのは検証したものというのは私は見たことがありません。

 

私はアメリカ人やイギリス人をはじめ、欧米の人たちと付き合ってきて、肌感覚として日本人が金融リテラシーが低いというのは全然感じていません。ただ20年ぐらい前はちょっと状況が違っていたと思います。確かに20年前は日本には金融リテラシーが低い人が多かったように思います。

 

あくまでこれは私の肌感覚的なものですし、平均的なレベルを探るのは難しいですが、私の印象ではイギリス人やアメリカ人にも負けていない。それどころか、むしろもっと詳しい人もいると思います。

 

そもそもなんですが、イギリスなんかで生活していると、日本人の方がイギリス人よりもリテラシーが低いとか知識が乏しかったり、計算ができなかったり、そんなことはまずあり得ないことです。私の子供が日本の学校では算数なんかは苦手な方に入るかもしれませんが、イギリスの公立学校だとエース級にできる子供になります。イギリスとかアメリカでは確かにすごくできる子はいるんですが、平均的なレベルはこれは大人でもそうで、こんな計算もできないのみたいな大人が欧米には結構多いのが実情です。なので、金融面においてもイギリス人やアメリカ人が日本人よりもレベルが高いというのは私はないのではないかと思っています。

 

ドルコスト平均法なんてイギリスやアメリカの大半の人はいくら説明しても理解できないのではないでしょうか。ではなぜ欧米人は日本人に比べて、投資をしている人たちが多くてすぐに退場させられずに残っているのか。これはアメリカを中心に、経済が成長してきたというのが大きいと思っています。日本は1990年以来、日経平均株価は高値を更新できていないわけですが、アメリカのS&P500なんかは30年前と比べて何倍にもなっているわけです。これだけ上がってきたわけですから、成功した人たちも多いわけです。

 

ちなみにイギリス人なんかも同じ英語圏の国ということで、アメリカの株に投資をしている人も少なくありません。そして、そもそもコツコツ資産形成をしている人が少ないというとも、欧米人に投資をしている人が多い理由かもしれません。そもそも日本と違って二極化がひどくて、お金を持っている人はめちゃくちゃ持っていて、持っていない人は全然持っていない社会です。持っている人はお金に余裕があるので、投資なんかも余裕でできますし、一方お金がない人たちも一発逆転を狙って投資をしたりします。コツコツ貯蓄をするような中間層があまりいないので、この辺りが中間層の多い日本と大きく状況が異なるところです。

 

ですので、欧米人で投資をしている人が多いのは、彼らの金融リテラシーが高いというのが要因ではないというのが私の考え方です。ただ、金融市場で戦う上で、欧米人と比べて日本人に欠けている部分が、私は一つだけあると思っています。それは、金融市場では全ての参加者が敵でいつ守られるかわからないというマインドです。これ、日本人の弱いところだと私は思っているんですが、欧米人は普段の生活から身につけています。欧米では玄関を開けて家を出た瞬間から何が起こるかわからない世界です。普通にドラッグをやっている人もいれば、そういう人たちが家の前で喧嘩を始めたり、車上荒らしは日常茶飯事、街を歩く時は携帯を出さないように気をつけなければいけませんし、レストランで食事をしていても物を盗まれる恐れがあります。常に注意をしていないと騙されたり、順番を抜かされたりして不利益を被ることになります。

 

日本に帰ると、街中でやたらに周りをキョロキョロしている人みたいな感じになってしまいますが、海外では常に自分の周りに危険が迫っていないか注意をしていなければいけません。こうした危険がない日本で生活している日本人はあまりに無防備です。以前に比べて金融商品に関する知識を持っている人たちは確実に増えていますが、それでもまだどこかで、人に頼ろうとしている金融機関の営業マンの言うこと、FPが言っていること、テレビでエコノミストが言っていること、それに流されやすいという傾向があると思います。こうしたところが日本人に欠けているところではないでしょうか。投資の世界では常に信じることができるのは自分だけです。自分自身を信じて投資をするというそのマインドが日本人には欠けているように思います。

 

ということで、私は日本人が金融リテラシーが低い、これは政府や金融機関にとって都合よく作られた話ではないかと思っています。ただ、それがあたかも真実であるかのごとく広まっていること、大きな会社や知識をたくさん持っている人たちが言っていることを真実だと思ってしまう日本人の傾向、これが日本人の弱さで金融市場で戦う上では仇となる可能性があると考えています。