アメリカの10年国債の利回りが4.5%を超えて上昇してきています。なかなか強烈な金利上昇になってきていまして、どこまで上昇するのか注目されている方も多いと思います。

 

現在9月25日の日本時間の夜ですが、今のところまだ上昇が一服した気配はありません。 1週間ほど前にアメリカの長期国債に投資するのはもうちょっと待った方がいいという私の考え方を解説しました。まだその考え方は大きく変わっていません。ただ、金利上昇の速度が早まってきていますので、クライマックスが近づいてきているのかもしれません。

 

長期債を買うとすれば、金利上昇が一服したという明確なサインが出てから、米国経済が本格的に悪くなりそうだというデータが確認できてからでいいのかなと思っています。まだ焦らなくていいのかなと思っています。 前日出したテキストで米国債を保有していますというコメントをたくさんいただきました。これほどたくさんの方が米国債に投資をしているというのは意外でした。今、米国債に投資をされている方は為替を除くと、含み損を抱えている方がほとんどだと思います。

 

で、この米国債投資で含み損を抱えているというのは個人投資家だけではありません。機関投資家も今たくさんの含み損を抱えています。 今回は債券の金利上昇局面で機関投資家たちはどんな状況にあるのか、今の個別企業の情報というよりは一般論のお話をしたいと思います。まず、債券に投資をしている機関投資家でどういう投資家が損を抱えているのか。いわゆるALM(アセット・ライアビリティ・マネジメント)をやっている投資家も今のような状況では損失を抱えている可能性があります。 ALMというのは、アセット・ライアビリティ・マネジメントの略で、要は負債に合わせた資産運用するということです。例えば、簡単に言うとだいたい30年後ぐらいに保険金の支払いが生じる保険契約の場合、お金の支払い、つまり負債の期間30年に合わせて資産も30年の債券を持つというような運用手法です。

 

このALMをきっちりやっている場合、通常、満期まで債券を売る必要がないので、保有している債券の価格が下がってもあまり気にする必要はありません。満期まで持つことを前提に、満期保有目的有価証券として会計処理をすると、途中の価格変動は損益計算書に記載する必要はありません。また、貸借対照表にも簿価で記載されますので、価格が下がっても関係ないということになります。 ただ、この会計処理を行う場合、一つ条件がありまして、著しく価格が下落している場合はこの会計処理ができないこととされています。著しく価格が下落した場合は、減損と言って損失を損益計算書に記載しなければいけないことになっています。

 

で、著しく価格が下落するというのがどういう状況かと言いますと、日本でもアメリカでも、30%以上価格が下落すると減損処理をするというケースが多いと言われています。つまり、30%以上価格が下落してくるとALM投資家でも減損処理が必要になってくる形になります。今、ご存知のように、30年国債では発行された時の価格の半値程度まで下落しているものもあります。債券の価格は満期までの期間が長くなるほど大きくなる傾向があります。ですので、10年国債よりも30年国債の方が今大きく価格が下落している形になっています。一番価格が下がっているのが2020年頃、債券の利回りが一番低かった頃に発行された銘柄で、30年債は5割程度、10年債は2割程度価格が下落している形になっています。

 

ですので、10年国債は3割以上価格が下落しているものはないと思われますが、それより長い債券で2020年頃買ったものを持っている投資家は3割以上の損失を抱えていて、今現存しないといけないということになっているかもしれません。 減損というのはあくまで年度末の時点で価格が下回っていた場合に行う必要があって、期中に安値にワンタッチするだけなら減損する必要はありません。ですが、3割以上下落してきてもっともっと価格が下がると大きな金額を減損しなければいけなくなるので、それは避けたいという考え方から3割の下落が見えたタイミングで売却してしまうという対応を行う投資家もいます。

 

3割の下落が見えてくると、普段はあまり取引することもなく満期まで持っているようなALM投資家も損失確定などの対応をしなければいけなくなる形です。 ちなみに、9月25日現在、あまり金利上昇要因になるような新しいニュースが出ていませんが、ニューヨーク時間で大きく金利上昇しています。これは四半期末を前にした機関投資家の投げ売りが出ている可能性があるのかもしれません。

 

 続いて、ALM投資家ではなく、投資信託などの債券インデックスに沿って運用しているいわゆるアクティブファンドと言われる機関投資家もいます。ベンチマークというのは、株で言うとS&P500だったり日経平均みたいなものですが、このベンチマークを基準に、パッシブファンドはベンチマークと同じような動きになるように、アクティブファンドはベンチマークを上回ることを目指して運用しています。アクティブファンドは金利が上昇すると予想する場合はベンチマークよりも満期までの期間が短い債券を増やすことで価格の下落を抑制したり、逆に金利が低下すると予想する場合は、満期までの期間が長い債券を増やしてより大きなリターンを獲得しようとします。

 

ですので、アクティブファンドは金利が上がっている時も下がっている時もどちらの場合もベンチマークを上回るように運用するので、今金利上昇局面だからといって大きな損失を抱えているということはないかもしれません。 金利上昇を予想してベンチマークよりも価格下落を抑制し、ベンチマークを上回るリターンを獲得しているところもあるでしょう。

 

ただ、今回の金利上昇は2020年から3年程度で10年国債の利回りが4%以上上がっていますが、これは歴史的に見ても大きな非常に早い動きです。多くのファンドマネジャーが経験したことがないような動きだとみられます。ですので、ベンチマークを上回る運用ができていないファンドが多くなってきているかもしれません。こうしたアクティブファンドの場合、リスクを落とすために損失を確定する場合、保有銘柄をベンチマークに合わせる形になります。ですので、それほど大きな取引を伴うものではありませんが、そうした動きもおそらく今のマーケットでは入っている可能性があるでしょう。 

 

今のところ、この夏以降の金利上昇で経営危機に陥るような金融機関が出てきたとか、そういった話は聞かれていません。ただ、そうした事態になってもおかしくないくらいの動きにはなってきていると思います。この辺り、また新しい情報が出てきましたら解説してまいりたいと思います。ということで、本日は米国債の利回りが大きく上昇している中で、こういう時は機関投資家がどういう状況になっているのかについてお話ししました。