イギリスのスナク政権が2030年にガソリン車ディーゼル車の販売を0とする目標を2035年に延期すると発表しました。これは以前からそうなるだろうとお話ししてきている問題で、特に驚くような話ではないんですが、これについては現実的な政策で、私は一定の評価ができるのではないかと思っています。

 

この脱炭素政策におけるイギリスの迷走がこれで終わったわけではありません。このほかにもGDPがマイナス成長に陥ったり、相変わらず混乱した状況が続いています。

 

スナク政権がガソリン車ディーゼル車の販売を0とする目標を2030年から2035年に延期した件について、スナク首相は2030年に実施することが国民の経済的負担が大きすぎるという認識を示しました。その通りだと思いますが、これに対して当然延期すべきではないと言っている人たちもいます。延期に反対する人たちは2035年に延期したところで国民の負担はそれほど変わらないと主張しています。確かに5年くらい延期したところで負担がそれほど変わらないというのもその通りだと思います。ただインフレなどで生活が苦しい国民が非常に多い中で、負担の大きい政策が先延ばしされたということで、どちらかというと国民は好意的に受け止めている印象で、大きな混乱はないように見えます。

 

こうしたスナク政権の意思決定の背中を押したと思われるのがイギリスの経済成長率です。9月13日に発表された2023年7月のGDPの成長率は、事前のエコノミストの予想が前月比マイナスの0.2%でしたが、結果はマイナスの0.5%となりました。これはイギリス政府や中央銀行の想定を下回る結果で、これから冬に向けて景気後退が深まる可能性が高まってきています。

 

医療部門がGDPの成長率を押し下げた最大の要因であることは驚きます。イギリスでは医師や看護師などの病院スタッフ、そして救急隊の隊員もストライキを頻発しており、病院が稼働できないとか、医療行為の予約キャンセルが相次いでいることが、医療分野の経済活動が滞る要因になっています。病院にかかれないということだけで驚きますが、それが国全体でGDPの成長率を押し下げる規模で起こっているということ、日本の感覚だと信じられないことです。

 

ただイギリスではこれがもはや驚くことではなく、公的医療にそこまで期待していないというのが実情です。現在、人口6500万人のイギリスで、医療待機者が730万人もおり、保守党政権は手術を18ヶ月以上待っている人をまずは1万人減らしましょうと言っている状況です。この辺りの話は以前からこ言ってきたことですが、脱炭素どころじゃないというのがお分かりいただけると思います。

 

一方、インフレの方は9月20日に発表された情報によれば、8月の消費者物価指数は前年比プラスの6.7%で、予想の7.0%を下回りました。昨年は11.1%まで上がったところから上昇率が徐々に下がってきている状況です。ただまだ十分に高い水準にありますので、国民生活は引き続き厳しい状況にあります。

 

イギリスは昨年以降先進国で最もひどいインフレに直面しており、小売店での窃盗が急増しているということもあります。アメリカの一部の州で起こっていることと似ていますが、警察が少額の窃盗を取り締まらないというのがあって、それが窃盗増加させているというのもあります。警察の方としては政府の財政が厳しい中で、テロや殺人などより危険な犯罪への対応を強化しなければいけないため、窃盗を取り締まる余裕がない状況になっています。大手小売店などでは数千億円という規模で被害に遭っていると言われており、民間警備会社のサービスが拡大する要因にもなっています。少額の窃盗が捕まらない、少額の窃盗なら問題ないみたいな社会になってきて、自分で窃盗できない人のために窃盗を代行するサービスを提供する会社まで現れているということです。

 

経済状況の悪化を表す指標は他にもあります。イギリス政府が発表した2023年8月のイングランドとウェールズの企業の倒産件数は2308件となり、前年同期に比べて2割増加しました。主な倒産の要因は売上高の減少と借入コストの増加だとされています。インフレ抑制のための中央銀行の利上げが経済に下押し圧力を加えているのがわかります。

このように、イギリス経済が悪化してきている状況が明らかになっています。脱炭素を進めることは国民の負担を伴うことですが、長期的に見れば脱炭素を進めることが将来的な利益とコスト削減につながると主張する人たちもいます。ただあまりにも大きな痛みを伴うような政策は現実的に実施するのは難しいでしょう。2035年への延期でこの問題が片付いたわけではありません。これからも国民の負担を伴いながら、それでも脱炭素は進めていくでしょう。