絵里さんと僕はリビングへ駆け込んだ。

 

「ママ、タブレットミラーを開くよ」

「いよいよ時空トンネルの出口、駿と潤の行先が現れるのね」

 

女神ディアナが、まるで結界を張ったかのように潜んでいた所が判明する。

 

数分前、車内で眺めた手鏡の映像では、二頭のペガサスがコバルト・ブルーの水しぶきをあげて飛び出した。


白い岸壁も、チラリと映っていた。自然を司る女神だけに、人里離れたグレイト・ネイチャーな場所を選んだのかもしれない。

 

おっ、二つ折り横長のB4サイズのタブレット・ミラーには数枚の景色が現れた。
メダイコールを付けた女神ディアナ捜索隊メンバーの視線だが…。
 
「嘘っ。暗いよ、真っ暗じゃん!」
「フフフッ。パパ、現地は夜だったのね」

あららっ、勝手にグレート・ネイチャー、癒しの風景を想像して期待していたから、拍子抜けしてしまった。

三日月と、どうやら捜索隊が照らすライトの灯りが、現地を把握する頼みの綱だ。

暗闇に目が慣れていくにつれ、周辺が分って来た。

 

時空トンネルの出口は、砂浜のない岩石海岸だ。海岸は緩やかな丘陵地帯に、囲まれているようだ。ところどころ、白っぽい崖が見える。この付近は、石灰岩質なのかもしれない。

何処だろう?

 

「アンナちゃんね、怪我はしてないけれど。搬送最中、余り振動を与えない様に、ハハッ…メルクリウスから伝えて」

 

おっと、場所の特定が目的じゃない。メルクリウスに頼み事をしている方は、間違いなく女神ディアナだよな?そうであれば、無事に発見された訳だが、緊急事態が発生してやしないか?

 

「ディアナ頼むから笑うな。ハハハッ、違う違う、寝たまま振り向くな、腰も痛めるぞ。愛犬の搬送は向こうに任せて、じっとしてくれよ」

 

なんてこったい!

女神捜索隊は二手に別れて、ディアナと大型犬の緊急対応に追われてる。

ワンちゃんは、ディアナの愛犬だな。


現地は夜だ、かつ岩石海岸での作業だ。捜索隊は各自がライトを身に付けて、慎重に進めているはずだ。しかし笑いが込み上げているのは、何故だろう。

 

「ディアナ、全身の力を抜いて、私とメルクリウスに体を預けて下さい。でないと私達だって、アハハッ…腰を痛めます。まして私は、笑うと腹の傷に響きますから。ハハハッ」

 

「ガイウス、ハハハッ…ごめんなさいねえ。でもアナタの痛みも、分かるわあ。アタシもお尻が痛い、腰の方まで波及してる。痛みって、姿勢や動き方に連動して、強弱があるわね」

 

臀部痛を訴える女神ディアナは、あろうことか波打ち際の潮だまりへ両足を浸けたまま、抜けられなくなったようだ。
しかも上半身を斜めに立てた、妙な姿勢だ。

メルクリウスが、ディアナの体を起こしている。

術後のガイウスは左側から、二人が勢い余り倒れ込まないよう、ディアナの体を支えている。

 

救助する二人は、左右どちらかの耳介付近に、ヘッドライトを巻いて点灯している。正面から照らしたら、ディアナが眩しい。

ああヘッドライトの位置で、つい笑ってしまうのか。ディアナと愛犬は、命に別状はないって証拠だから、まずは一安心。

 

ディアナの手元にはランタンも点灯しているから、凸凹した岩場周辺、視界は確保されている。波も穏やかだ、ザブーンと被ってしまうのは避けられそうだ。


ディアナは上半身は右側を下にして、かつ傾斜をつけて横になっていた。そうか、臀部痛を軽減するためだ。

体の下には見覚えのある、体圧分散用の青い低反発マットや、その下には厚手のタオルが敷いてある。

 

ディアナは飾りのないシンプルな、こげ茶色のワンピースを着ている。

長いワンピースの丈をたくし上げて、海水に両足を浸けていたようだ。臀部痛に加えて、海水に濡れたワンピースの裾が重たくて、抜けられなくなったんだろうか?

 

しかし、ディアナの行動は妙だ。なぜ人けのない夜の海、波打ち際の潮だまりへ、臀部痛を推してまで両足をつけていたのだろう?

 

「ハハハッ…ハーアッ。一応、腰にはコルセットを巻いていた、膝もサポーターを付けていた。無防備だった、まさかの臀部を痛めるなんて。油断は禁物ね」

 

痛みの影響だろう女神の小さな声は、風と波の音で聞き取りにくい。

うっかり大きな声を出すと患部に響いて、痛みが増すはずだ。腰痛持ちの僕も、度々経験している。

 
「トルコのエフェソス遺跡、あの円形劇場で尻もちを付いたなんて。それでなくてもローマ街道を始め、石畳はすり減ってますから滑りやすいですよ。気を付けて下さいな」
 
ミラについて相談を持ちかけるはずのガイウスは、逆にディアナを慰めた。
女神が履いていたのだろう、平底のローマン・サンダルが、ライトに照らされた。一応、中敷きは敷いてある。

どうやらディアナはエフェソス遺跡で、ドスンとやってしまった、それが臀部痛の原因だ。

エフェソス遺跡って…確かトルコに現存する古代都市、古代ローマでは州都だったはずだ。頭の中にローマ帝国の地図が、ぼんやり浮かんだ。
 

「勝利の女神ニケのスニーカーを履き潰すほど、長旅、巡礼をご苦労さま。でもねえ、俺みたいに旅の途中で、オサレなニューモデルに靴を買い変えなさいよ」

 

今度はメルクリウスリウスが冗談めかしつつ、ディアナを労った。

なるほど、女神は巡礼の旅に廻っていたのか。

 

 「ニケの前は、バツが悪くて素通りしたわあ。ニケも観光客に紛れた、アタシに気が付かなかったみたい」

 

ニケとは、エフェソス遺跡にある「勝利の女神ニケ」、女神の像を指しているだろう。


ディアナがニケに対してバツが悪い、さらに相手も気が付かなかった、どう言う意味だ?

僕はライトに照らされる、ディアナの全身を改めて注意深く見つめた。

 

そうそう…メルクリウスも、女神ディアナを探して飛び回った。

それこそドイツクのサンテンから、ウィーンはカルヌントムからその先まで。女神と親しい動物にも、協力を依頼した。

 

ガイウスとアレスも、ネミ湖付近まで出かけて、行方不明のディアナを追った。ひょっとしたら互いに、似た様なルートを通っていたかもしれない。

それでも女神の行方は掴めなかった、エネルギーを感じ取れなかったんだ。

 

巡礼の途中で、女神ディアナの身に何が起きたのだろう。果たしてミラの病状と、魔法が溶けて生まれ変わりへ進んでいる変化を、女神に相談できるだろうか?

 

「パパ。ディアナは尻もちを突いたあと、臀部が痛い。尾骨付近を、骨折しているかしら?画像を撮らないと、はっきりしないけれど」

 

僕が黙ったまま考え込んでいたら、絵里さんがディアナの診断を予測した。

 

「尻もちから、骨折のパターンはありうるね。でも臀部痛を抱えた上で、夜の海で、無理な姿勢で足浴は妙だよね」

 

鎮痛剤を、飲んでいるかもしれないが。普通は痛みの軽減を優先するでしょう。ナースの十八番、足浴は、病棟では主に下肢の血行改善の目的で行うかなあ…。

ディアナも長旅による足の疲労を改善、天然のタラソテラピー効果を、期待したのかもしれない。

 

僕らのメダイ・コールは、息子達が身に付けている。捜索隊のメンバーと、直接会話できない。ミラーには僕らの姿も映らない、ライブ配信を眺めるのみ。聞きたい事は山ほどあるから、ちょっとジレッタイ。

 

「ママ。僕はディアナの全身を観察してたんだけど。女神の様子で、一番不可解な事があるでしょう?」

臀部痛や、夜の海で足浴をした事情よりも、女神にとっては深刻だろう。画面を眺めながら、おそらく絵里さんも、感覚を研ぎ澄ましてきたはずだ。

 

「うん、分かってた。女神ディアナから、神々しいエネルギーを全く感じない。一体、どうしちゃったのかしら?」

 「やっぱり、そうだよね」


最初一目見た時、ディアナご本人かと疑ってしまった。女神ディアナから、神々のエネルギーが伝わらない。


救出作業中のメルクリウスでも、天上から光が降り注ぐような、パワーを放ってる。神格化を控えたガイウスも、多少なりそれを放っている。

 

ところが今のディアナには、神々のエネルギーが枯渇している。

ディアナが女神だと知らない誰かに、駿と潤の「ホームステイ先の、面倒見のいいお母さん」と紹介したら、信じてしまいそうだ。


ブロンドの髪はバッサリ、ベリー・ショートカットだ、その影響なのか「人間女性」っぽく見える。

 

疑問は多々あるが、女神ディアナの救助ばかりに注目してはいられない。

ディアナの愛犬を、担架に乗せて搬送するメンバーも奮闘していた。

波打ち際からやや離れた、丘の上に続く崖道のような、小道を進んでいた。

 

折り畳み式の担架を運ぶのはガタイのいいマルスと、彼と上背がほぼ同じガレノス先生だ。

二人もヘルメットに付いたライトを点灯して、進んでいた。潤が先頭を歩いて、ランタンで足元を広範囲に照らしている。

万が一、足を踏み外したら岩場に転落する可能性も否めない、慎重に進んで欲しい。

 

「バッカスさん、駿!先にディアナの愛犬アンナちゃんから、フォロ・ロマノーへ搬送して下さいって」
潤が丘の上に向かって、左手を振った。
 
彼はややサイズの大きなバック・パックを背負っている、多分ディアナの物だろう。潤は腕を振る余裕があるし、パック・パックは見た目もダボダボしてる、中は軽そうだ。
 
「潤、了解だよお。準備は万端だ」
「ペガサスも2頭、応援に来てくれた。4頭立てのストレチャーに、アンナちゃんを乗せるだけ」
バッカスと駿は、ワンちゃんの搬送準備を整えていた。
 
既に丘の上にはペガサスが4頭、待機している。ストレッツチャーの四隅を、それぞれの胴体にベルトで固定するタイプだ。担架にはスライディングシートが敷いてある。
シートのまま、アンナちゃんをストレッチャーへ移動すればいい。
 
岩石海岸は凸凹して隆起が多い、救急車も入れないだろう。ペガサスは比較的、足場の安定した、かつ離陸しやすい丘の上を、待機場所に選んだようだ。
 

「アンナちゃんはディアナと旅をしているうちに、飲食が取れなくなった。アポロさんの神獣クリ二ックへ、夜間救急で診察を頼んで下さい。バッカスさん、お願いします」

 「うん、分かった」

潤がワンちゃんの状態を、簡単に告げた。


首輪にはディアナのシンボル、三日月の飾りが付いている。グレーとホワイトの短毛でスリムなボデイ、何処となく柴犬に似ている。

 

そうそう、ディアナの双子の弟アポロは医療の神様だ、「神獣医師」の資格も取っていたっけ。

 

「神獣クリニック・アポロ」

通販ぺガサリオンのサイトやカタログに、広告が載っていたなあ。夜間診療、救急対応も受け入れていた。人間界の動物病院並みに、設備は整っている様だ。神獣のフォローも、神々は力を注いでいる。

 

「よし、焔の鷲よ。ユピテルとウエスタに、女神ディアナの経緯を報告しておくれ!でケンイチさんにクリニックへ、診察の一報を入れてもらって。僕らはペガサスと共に戻るからさあ!」

 

バッカスは慣れた手つきで、焔の鷲を両手で抱き上げると、夜空へ放った。酒神の被るヘルメットにも、ライトが付いている。焔の鷲の姿を、はっきり照らした。駿もランタンで、鷲の動きを追っている。ここでまたしても、僕は思い込みに気が付いた。それは焔の鷲についてだ。

 

「ねえママ、焔の鷲は全身がコバルト・ブルーだったなんて、思いもしなかった。綺麗だなあ」

「ええ。光に照らされると、鮮やかに煌めいている。時空トンネルの出口で見えた、水しぶきと同じ色ね」


稀に見る美しさを持つ焔の鷲は、急上昇しながら、スッと時空へ姿を消してしまった。

 

さて、ペガサスが搬送するストレッチャーの四隅にある、小型のライトも点灯して準備万端だ。

丁度、息子達のスイミング用のリュック、ゴーグルとキャップが、ライトに照らされている。


今回は使わないだろうが。普段から飲み物やプロテインバーも、準備しておいて良かった。想定外の事態って、本当にいつ起こるか分からないな。

 

緊急事態にはネロとチェトラの他に、二頭のペガサスが助っ人に駆けつけていた。

ぺガサリオンの社員だろう。4頭は社名のロゴが付いたヘッドライトを、額に巻き付けている。


僕はあるグッズが、気になっていた。女神ディアナがベリー・ショートカットへ変身、ヘルメットや社名ロゴ、神獣クリニックの広告も、大いに関係している。


「ママ。女神ディアナは通販ぺガサリオンから、防災グッスをプロデュ―スしていたよね。話題に出た腰のコルセット、膝のサポーターは別売りだよ」

 

このカタログ写真では、女神ディアナはロングヘアだった。まだ直接、お目に掛かってはない。だから僕のイメージでは、ディアナは金髪のロングヘア、かつ多才だった。

 

「そうそう、捜索隊が使っているヘッドライトやヘルメットも全て、防災セットの備品。折り畳み式の担架と低反発マット、ペガサスが搬送できるストレッチャーも、ディアナのプロデュ―スね」

 

絵里さんはスマホから「通販ぺガサリオン」のサイトを開いて、該当ページを表示してくれた。


ページにはロングヘア、白シャツを着た女神ディアナのモデルさん風な姿と、防災グッズを入れたバック・パックの写真、プロデュ―スの切っ掛けになったエピソードが載っている。

 

…太古の時代に遡り、わたくしはライフワークとする巡礼の途中で、度々、緊急事態に遭遇してきました。この経験から、防災への意識を高めてまいりました…

 

時は紀元前、ディアナはエフェソスに建てられた自分の神殿、「アルテミス神殿」の視察中に起きた。「ゴオオーッ」、あろうことか、神殿放火事件に巻き込まれた。

 

またある時は。

「ドカーンッ!」、あやうく遺跡もろとも、吹っ飛びそうになった。内戦が勃発した。

 

…自然災害も、遭遇しました、例えば地震や津波。そこから生活環境の変化に伴う、感染症の発生も目撃してきました。

各地に祠や神殿を持つ神々は、巡礼箇所も数知れず。だからこそ、非常時の備えは大事だと思いませんか…

 

女神ディアナはこんな経緯を経て、様々な防災グッズをプロデュ―ス、リニューアルしてきた。


ぺガサリオンの協力、もと皇帝侍医ガレノス先生と、双子の弟で医療の神アポロ監修だ。当然、医学的な知識も学んだ。

 

防災グッズは医薬品や、携帯用食品も備えている。今回の巡礼の旅にも、持参したはずだ。

なおさら臀部痛を抱え、しかも夜の海で妙な体勢で足浴を行っていたディアナの行動、背景が知りたい。

 

…一太、絵里ちゃん。聞こえてるかな?倫太郎です…

 

ここで自宅で配信を見ている親友が、声を掛けてくれた。親友夫婦の姿は、もちろんミラーに映っていた。

 

…既に、感じていると思う。女神ディアナアから、神々のエネルギーが消えているだろう?他にも訳があって巡礼の途中で、予定を変更した。トルコのイズミルから、巡礼の最終地点マルタ島へ渡ったんだ…

 

やはり、僕らも感じていた通りだ。女神ディアナは、神々が持つエネルギーを消失していた。

 

…だから人間の中に、溶け込んでしまった。そうとは知らずにいた仲間の神々、私達も含めて、女神ディアナが放っているだろう、エネルギーばかりに注目、意識を集中していた。結果、存在をキャッチできなかったようです。女神の方も、仲間が探している事に気が付かなかった…

 

親友夫婦のお陰で、女神ディアナの身に起きた異変が、徐々に分ってきた。


女神は結界を張ったかの様に、潜んでいたのではない。神々が持つエネルギーが枯渇して、逆に行方を掴めなかっただけだ。亜子ちゃんの言うように、存在をキャチできなかった。


それが原因の一つとなり、ディアナは巡礼の予定を変更してゴールのマルタ共和国へ渡ったようだ。


乏しい知識だけど、マルタはシチリア島の下方に位置したな。ローマ帝国に含まれた時代よりも、さらに遠い昔、人間が文字を使う以前の時代から、多くの神々と人々が行き交った場所だ。シチリア島と同様、海洋貿易の中継地点でもあった。


「駿、潤、ありがとうねえ。バッカスとガレノス、後を頼みます」


丁度、アンナちゃんが搬送された。ペガサスには、アレス以外のメンバーが乗っている。


潮だまりから救出されたディアナは、離陸したレスキュー・ペガサスへ、手を振って見送っている。


ここでワンちゃん搬送メンバーの動き、配信は自然と終えた。この先は任せて安心、メダイ・コールからのメッセージが含まれそうだ。

 

さて次はディアナの番だ。

サンダルを履いた女神は、やや前傾姿勢で、心持ち左右に体を振って、ヨロヨロ歩いている。

ディアナの体はメルクリウスとガイウスが、左右の脇の下から腕を入れて支えている。

 

もちろん、麻痺がある様な歩行ではないが。臀部痛だけにしては、体の重心がブレて不安定な歩行だな…。

 

丁度アンナちゃんの搬送を終えたマルスが、崖道を引き返している。おそらく術後の創痛を抱えたガイウスと、交代するつもりだろう。

 

ここで倫太郎が、巡礼の予定を短縮せざるを得なかった、女神ディアナの状態について、話しを続けた。

 

…女神ディアナは去年のF1オーストリア・グランプリを観戦した後、巡礼に出た。スタートはカルヌントゥムのアウレリア街道から、ドナウ河を東へ進んだ…

 

僕はテーブルの下の隙間から、「通販ぺガサリオン」のカタログを取り出した。


今月号のカタログ、最後のページには現代の地図と、「全ての道はローマに通ず・古代ローマ街道」帝国マップが載っていた。

「我らが海」、地中海との位置関係も同時に掴める。滅多に無いけど、こんな時に便利だ。

 

因みに神々の世界も人間同様、「通話注文派」と「ポチる派」がいらっしゃるそうで。希望者にはカタログも定期的に届く。


いづこも同じ、カタログはマニアにとって家宝。まあ我が家も然り。

 

さてマニア倫太郎によると。

女神ディアナの巡礼は、かつてローマ街道が敷設された付近に沿って、ローマゆかりの都市、遺跡を中心に廻る予定だった。

 

地中海沿岸を下りエジプトへ、そのままアフリカ大陸を地続きで行き、カルタゴ、現在のチュニジアを経由して、シチリアからマルタ島へ渡る行程だ。

 

カルヌントムをスタートした女神ディアナは、まず黒海を目指して進んだ。

ドナウ河の終点までたどり着いたあとは、南下した。

 

そのまま黒海に沿って進み、コンスタンティノープル…現在のイスタンブールから、トルコへ入った。ここでローマ帝国の代名詞、水道橋…ヴァレンス水道橋の下を歩いた、アンカラ、ペルガモンなど古代都市を訪れた。

 

かつてアナトリア地方と呼ばれたトルコ一帯は、実はディアナにとって、ゆかりの深いエリアだ。

女神ディアナのもう一つの顔、「豊穣の女神アルテミス」として崇拝された場所だ。

 

エフェソス遺跡には、かつて巨大なアルテミス神殿が建てられた。ローマ帝国が誕生する以前、紀元前7世紀だ。

現在は柱と遺構しか残ってないものの、その巨大さで、世界の七不思議の一つに含まれる。
大きさは、いかにアルテミスが、崇拝されていたか。その証だろう。

…アナトリア地方で生活していた多くの民族が、地母神として崇拝していた女神が、のちにギリシア文化と融合して女神アルテミスとなった。


やがてローマ帝国の州都も置かれた。ゆくゆくキリスト教が、信仰の中心にシフトするけれども。ディアナにとってアナトリア地方はルーツの一つ、巡礼となると思いもひとしおだろうね…


古代ローマを愛してやまない倫太郎は、いつぞや聖書をぺガサリオンで購入した。旧約と新約が合体してる、あの分厚い物だ。

 

オタクの親友によると、確かに女神ディアナ…アルテミスのルーツで、「地母神を崇拝していた民族」は、旧約聖書では「ヘテ人の全地」なんて表現で、何度か登場しているそうだ。

 

チョイと脱線するが…二頭立てチャリオットを、最初に製造した民族がヘテ人だ。後にローマ帝国では4頭立てにパワーアップした、女神ディアナは防災グッズのストレッチャーを閃いた。

 

で、話しを戻すと。アルテミス崇拝が盛んだったエフェソスも、やがてキリスト教が中心になったその証拠として、弟子のパウロが綴った「エフェソスへの手紙」なる物も、聖書にあるそうだ。


僕もディアナのルーツについては「通販ぺガサリオン」のカタログ、防災グッズをプロデュ―スした切っ掛けから、断片的に理解していた。まさに、アルテミス神殿放火事件とかね…。


だから倫太郎の説明、時代背景やエフェソスに関して、それなりに理解はできる。

 

…で、アナトリア地方の一部までは、女神ディアナの巡礼も順調に進んでいた。ところが南下するにつれて、なかなかシビアなエリアが多いだろう?…

 

「うん、倫太郎の指摘通りだ」

僕はミラー画面に、返事をしていた。


それこそ「ドッカーン!」、過去ディアナが経験した事象が、現代でも起こっている。


治安が安定しないエリアは、生活環境に直結する。日本では発症しない感染症も、流行している。


清潔な水、飲料水が確保できず、例えばコレラなどの流行を招いている。

コレラの治療は、難しくない。

経口補水液か輸液、必要時は抗生剤の投与だ。


そもそもワクチンがあれば、充分予防可能なんだ。悲しいかな、然るべきワクチンが普及しない・できないって。僕も医療従事者の一人として、歯がゆい事態だ。

 

…女神ディアナはシリアからレバノンへ、そしてヨルダンからイスラエルに進んだものの。

シビアな情勢を、目の当たりにしているうちに。女神は我が身の変化、一番大事な神々のエネルギーを失いつつあると気が付いた…

 

「ゴルゴダの丘があったとされる、聖墳墓教会も廻ったのね。ディアナに直接、お目にかかってはないけれど。巡礼をライフワークにする女神らしい行程を、予定していたのね。やむを得ない事態だもの、旅の変更は仕方ないわ」

 

絵里さんが呟いた。

ディアナの真摯な姿勢は、胸を打つ。

 

僕らが配信を見逃していた数分間、ディアナは巡礼の経緯を、仲間にサラっと打ち明けていた。メダイ・コールを通して、共有していた。

 

「倫太郎先生。アタシに代わり、説明をありがとう」

ここで女神ディアナが、バトンタッチした。


「複雑な事情を抱えるエリアを巡るうちに、自分の存在意義が分らなくなってきた。アタシは自然やお産、豊穣と多産を司る女神なのに、務めを果たしてない、自分を責めていたな…」

 

女神ディアナはガイウスと交代した、マルスに左脇を支えられている。

ノースリーブのざっくりしたワンピースから覗く細い両腕、浮き上がった鎖骨が目立つな。巡礼の途中で、痩せてしまった様だ。

 

「役目を果たしてないからこそ、巡礼を続けていたものの。徐々に神々のエネルギーを失って、抜け殻の様な状態になっていた。

このままじゃ、消滅するような危機感に襲われて。一旦、冷静さを取り戻すために、ルーツのエフェソスへ戻ったの」

 

 「フフフッ。だからって、勝利の女神ニケ像の前を素通りする必要はないのに。筋を通すところは、僕が崇拝した大昔から変わってないですね。貴女らしいですよ」

 

ガイウスはやや離れた位置で、夜空を見上げている。おそらく女神を搬送する手段を呼んだ、もしくわ到着を待っているのだろう。


「半ば現実逃避したようなアタシにとって、9月のエフェソスは、いつも以上に暑く感じた、堪えたわ」

エフェソスに戻ったディアナは、ゆかりのある土地で、失ったエネルギーを蓄えるつもりだった。
仲間の女神ニケも、エネルギーを失ったディアナに気が付かなかった。

自分のアルテミス神殿跡や、古代ローマ時代には多くの人々が利用した知恵の宝庫ケルスス図書館、一部分が残る、エフェソスの水道橋を訪れた。太古からの空気、自然のエネルギーを全身に浴びた。

 

エフェソスに戻ってから数日たったある日。
ディアナは、パナユル山の斜面に沿って建てられた、巨大な円形劇場に腰かけて物思いにふけっていた、回復後の今後についてだった。
 
そうこうするうち眩暈や、ズキズキ脈を打つような強い頭痛が発生した。どうやら熱中症を、起こしている、女神は判断した。
 
ディアナは防災グッズをプロデュ―スしているだけあり、医療の知識を備えていた、それが功を奏した。アンナちゃんを待たせている裏山は、日陰が多い風も吹く、とにかくパナユル山に戻ろう。
 

女神は立ち上がったものの。

フラついてしまい、そのままドスン…。石づくりの通路に、臀部を打ち付けてしまった。

 
「眩暈も起きていたけれど。実は旅の途中から、足の裏が痺れたり痛かった。熱中症を越した時は、余計に両足へ力が入らなかった」
 
ははあーん、どうやら足裏の痛みも、転倒を引き起こした一因の様だ。
女神によると足裏の痛みは、ゴリゴリするような痛みだという。大袈裟に表現すれば、鋲内のカリガ・サンダルの裏を、うっかり軽く踏んでしまったようだと。

履いている平底のサンダル、スニーカー、どちらの場合でも症状は現れていた。だから臀部痛並みに痛い、女神は顔をしかめた。
 
臀部と足裏の痛みは、整形外科のフォローになるだろうが。特に足裏の痛みに関して、日内変動や、痺れ具合と場所など、もう少し具体的な情報が欲しいな…。
 
ただ妙な姿勢で、足浴をしていた理由は分った。足裏の痺れと痛み、症状の改善目的だった。

ディアナ曰く、この付近は海水の温度も比較的高い、要は本当に天然のタラソテラピーを試みていた。臀部の負担を軽減するため、上半身は傾斜を付けて横になっていた。
抜けられなくなったのは、案の定ワンピースの裾が水に濡れて重くなった、かつ変な角度で足浴していた影響だった。

なにより、海は生命を育む。ディアナは出産も司る女神だ。海水で足浴しながら命の鼓動を感じて、自分のエネルギーに変換していたのだろう。
 

「円形劇場で尻もちを突いたあと、あまりにも痛くて。四つん這いのまま動けなくなっていた。意識が遠のいたら、今度こそアタシは消滅しちゃいそうだった」
 
ここで救世主が現れた、日本人観光客が助けてくれた。運よく経口補水液のゼリーや首に巻けるスカーフ付き保冷剤、ハンディタイプの扇風機を持参していた。
これらを、わけてくれた。
 
ディアナは症状が落ち着いてから、アンナちゃんを待たせていた円型劇場の裏山、パナユル山に戻った。
 
「アンナちゃんと木陰で休んでいたら、彼女からメッセージをもらったの。国境を超えてくれて、ありがとう、でも無理しないで。わたくしも協力していますから、ってね」
 
ディアナとほぼ同じライフ・ワークを持つ方の、優しいアドバイスを女神は素直に受け入れた。

その方が息子の弟子と共に、晩年を過ごしたと言われる家が、エフェソス遺跡の近くにあるそうだ。
 
「アタシには自由がある。シンプルで当たり前な事を、改めて感謝したわ」

とはいえ女神ディアナは、神々のエネルギーを失っていた。時空トンネルを開く、タクシー・バタフライを呼ぶ力も残ってなかった。
メッセージを送信できるシンボルの弓矢も、親しいニンフへ預けていた。 
 
「仕方なく、イズミルまで戻った。そこから飛行機に乗って母なる大地、巡礼のゴールへ到着した。マルタは様々な神々と人間が暮らした痕跡と、美しい自然が調和して残る。原点のような場所ね」
 
マルタは女神ディアナ・アルテミスのルーツと、何かと関係の深い土地だ。だからこれまでも、度々巡礼に訪れていた。

かつて聖パウロもローマに戻る途中、船が難破してマルタに漂着した。彼はしばらくの間、マルタで過ごしている。パウロの像が立ち、聖書にも綴られている。
 
「神獣も動物、不思議と飼い主と体質が似るのよね。まして、長い付き合いだもの。愛犬アンナちゃんはアタシの様に、疲労がたまって飲食が減っていたの」
 
共に巡礼を廻っていたアンナちゃんも、神獣のエネルギーを失いかけ、疲弊した。
愛犬はディアナが少しばかり狩猟を行った、大昔から、お供をしてきたそうだ。ディアナが水浴びを習慣にしていた時代からの、仲だった。
 
「ディアナは愛情深いよ。でもエネルギーを消失している上に、防災グッズの中味をほとんど寄付してしまったら。肝心な時に自分と、それ以上に大事な愛犬へ使えないだろう」
 「心配かけて、ごめん」
マルスの指摘は女神ディアナの性格を、的確に表現してる。

ディアナはせめて携帯食料や医薬品くらいならばと、防災グッズの中身を、とあるキャンプ地に置いてきた。

ただ足裏の痺れや痛みは、既に悩まされていた。念のため末梢神経障害による症状を改善する薬、鎮痛剤は残しておいたそうだ。身体の症状は、先取りメッセージだったのかもしれないなあ…。
 
「マルタで、母なる大地の鼓動を感じていたら、エネルギー回復まではいかないけれど、集中できそうだった」

ディアナは、一か八か手鏡を使ってSOSを出したところ。小さな声を、焔の鷲がキャッチしてくれた。
 
ディアナによると、もともと鷲は鋭い聴覚を持つ。守護神ウエスタの焔と、最高神ユピテルのシンボルから誕生した鷲は、超感覚にも優れていた。だからディアナのSOSを、キャッチできた。

例の彩雲の正体は、アンナちゃんを膝に乗せて、潮だまりで足浴するディアナの姿だった。
女神のシンボル、鹿では無かった。
 
昼間ディアナが、マルタの海岸線を眺めていた記憶、コバルトブルーの海や白い岸壁が、時空トンネルの出口に、一瞬現れた。
焔の鷲は捜索隊を運ぶ、ペガサスやタクシー・バタフライへ、出口を示していたそうだ。絵里さんと僕も、垣間見たシーンだ。
 
「ガイウスとミラの、主治医の先生がた。この度は、何かとお騒がせしました。ガイウスの手術やミラの病気、もろもろ報告は受けました」
 
女神ディアナが前ぶれもなく、話題を変えた。
絵里さんと僕、画面越しでは倫太郎と亜子ちゃんも少し慌てて、お辞儀していた。
 
ディアナは焔の鷲から、ガイウスとミラについて詳細を聞いていた。もちろんミラのインスリノーマと肝臓転移、記憶障害についても。
 
その伝達方法が「潮だまり」だった。
この辺りは、海水の温度が高いだけでなく、色はコバルト・ブルーだから透明度が高い。焔の鷲は、海水をスクリーンの代わりに、利用した。

超感覚に長けている焔の鷲は、病棟へ面会に来る女神ウェヌスやミネルヴァ、真紀子さんだけでなく、絵里さんと僕の記憶にもアクセスしていた。
それらを、潮だまりのスクリーンへ映した。
その結果、足浴の時間が長引いた。

例の彩雲を眺めた時が、焔の鷲が記憶へアクセスしたタイミングだった。僕の場合は当直室の窓から、そして家族と共に眺めた車内だった。
 
「ミラは病気の発症と同時に、アタシの魔法が溶けて、生まれ変わりへ進んでいる。今現在のアタシは、魔法をかけ直すパワーが無い。でも回復後トライしても、二度目となると効果は難しいかなあ…」

過去、魂の流れを変更したのだから、元に戻る勢いを止めるとなると、相反するエネルギーがぶつかり合う可能性があるらしい。
 
「ディアナ。どうにかなりませんか?貴女の様に、巡礼に廻れません」
「まあまあ焦らないで、ガイウス」

眉根を寄せるガイウスに対して、何故かディアナは首を横に振った。

 
「とりあえずね。ミラを生まれ変わりへ進める役目を担ってる、豪語する彼らはスルーして。特に一太先生!薬師如来のマントラなり、般若心経を唱えるもよし。
とにかく彼から、注意を逸らして。そうする事でミラの急変は、回避できるでしょ」
 
うわっ、不意打ちだ。
「ええと、承知しました。たっ確かに急変対応へ、集中できます」

僕の声は多分、女神には届かない。でも、しどろもどろに返事をしてしまった。
絵里さんは、クスクス笑ってる。
 
昨日、血管造影室の出来事は鮮明に覚えている。絵里さん以外、僕を含めたスタッフは「彼ら」によって、ドナウ河のほとりならぬ、三途の河へ誘われかけた。

彼らの狙いはミラの急変だ、そのまま心肺停止へ持って行きたいようだ。
ある意味、自然な流れよね…。
 
「絵里先生の様に、彼らに注目しない!名曲、聖杯への厳かな行進も、この時だけは耳を傾けちゃだめよ。他のスタッフにも注意喚起して、仕事に集中してね」
 
女神ディアナの対処方法は、当たり前でシンプルすぎやしないか?本当に彼らを、回避できるのかな。正直、インスリノーマが肝臓に転移しているミラの全身状態は、急変のリスクは高い。
 
「一太先生、病院も多くの人々が、時代を超えて行き交っている場所でしょう?先生方だって、ミラの状態を維持して下さっている。だからミラは短期間の内に、生まれ変わりへ進まないはずよ」

なるほど確かに病院も、女神の指摘したような場所だ。僕の疑問は、ディアナへ筒抜けだったな。


週明けの半ば、ミラは今後の治療方針についてのI・Cを予定している。

ディアナはそれまでに病院を訪れて、ミラと面会するつもりだと告げた。

 

そして女神は、えっちら、おっちら…おぼつかない足取りで、アレスとメルクリウスの力を借りながら、タクシーバタフライへ、うつ伏せで横になった。


進行方向と逆の体勢だから、アレスが同乗して女神を支えた。

 

3頭のバタフライは、金色の翼を広げた。

鱗粉を散らしながら海上を飛行して、吸い込まれるように時空トンネルへ消えてしまった。

 
後から、息子達から聞いた。

バタフライの送迎を希望したのは、ディアナだった。うつ伏せでも寝ごごちのいいシートでの搬送…小さな我がままを、お願いしたそうだ。
 
さて興奮冷めやらぬ、女神ディアナの波乱万丈だった巡礼の旅は幕を閉じた。

絵里さんと温かい珈琲を飲みながら、一息ついた。

 

しかし僕は、怒涛の当直明けだ。
カフェインの効果も太刀打ちできない、睡魔に襲われた。
いつの間にかソファで、寝落ちしていた。

 

…リンタローと亜子ちゃんは、羨ましがるぜ。カフェ・グレコへ、連れてってもらったんだ!…


…でね昔フランツ・リストが、座った席に着いたんだ、ユピテルの透視だよ。多少の誤差はあるだろうけどさ…

 

無事に帰宅した息子達は、最高神と守護神の案内で、ローマの街を巡ってきたようだ。頑張ったご褒美は、なんとも羨ましい。


リビングでは女神ディアナ捜索隊の、お土産話しに花が咲いている。僕はとてもじゃないけど、起きる体力が、もはや残ってない。

半分聞き耳、失礼します。

 

…カフェでね。聖杯への厳かな行進を、ヘッドフォンで聞いたけど。僕は過去へ向かって行進した、前世の続きが頭に浮かんだよ。

皇帝ガイウスさんの大型船に乗って、エジプトからオベリスクを運んでいるシーンだった。僕は元々、大型船を漕いでいたみたい…

 

へえ前世の駿は、ネミ湖の船に乗る以前は、大型船の船乗りだったのか。

 

…フォロ・ロマーノの見学では、特にウエスタ神殿や巫女の家が、僕のルーツだから懐かしくなった。その後、チルコ・マッシモ(戦車競技場)に立った時も、懐かしかった。ガイウスさんが戦車に乗せてくれたら、他の前世の記憶が蘇るかもしれないよ…

 

潤の前世の一つは、ウエスタの巫女だ。戦車競技場に立ったら、記憶はさらにその先へ、トリガーしたようだ。

 

駿と潤は時空トンネルの往路で、古代ローマ人時代の前世を眺めた。復路は、真っ白な空間だったらしい。


息子達も前世の時代から、神々やガイウスと深く関係していたようだから。偶然を装い、女神捜索隊に選ばれたのかもしれない。

 

…時空トンネルの出入り口は、選ばれる。今回は音龍寺の裏山とマルタだったねえ。紐解いていけば、共通する何かを暗示しているんだよぉ…

 

バッカス、僕は幾つか浮かんでるよ。医療従事者であり双子の父親としてね。未来へ向けて、僕が貢献できる物に、気が付いたよ。

小さな事から、日々取り入れていくよ。

 

…座禅会を終えた絵理奈が、音の泉をスケッチした。写真を送ってくれたんです…

 

音龍寺で座禅会を終えた絵里奈ちゃんは、音の泉をスケッチしていた。息子達を乗せたペガサスが、飛び込んだ後だった。


スケッチは、なんと潮だまりで足浴する、女神ディアナの姿だった。

音の泉に、透けて見えていたらしい。時空トンネルが、開いていた証しだな。

 

…絵里さんの妹さんは光や水、キラキラしたものに反応する。アンジェルマン症候群の特徴が、才能となって開花したんじゃな。そうさのお、4代目皇帝クラウディウスも、ハンディを乗り越えて、傾いた国を整えた方じゃ…

 

そうそう皇帝クラウディウスは、ポリオ(急性灰白髄炎)を患い、後遺症が残ってしまった。現在日本ではワクチンの普及で、ポリオの発症はほとんどない。

 

古代ローマの神々は、勤勉なクラウディウスが政治手腕を秘めている、お見通しだったのね。

もちろん、クラウディウスのハンディを受け入れ、共に国を立て直した仲間達がいた。


彼の皇帝就任が、家系を継ぐなど、現実的な事情は否めない。


それでも異なる民族と、宗教の共存を考えたローマ帝国って。当時の発想としては、やはり寛容だったと思うし。僕も違いを認められる、人間でありたい、改めて思う。

 

因みに駿が輸送に携わったであろう、「皇帝カリグラのオベリスク」は、クラウディウスが港湾工事、埋め立てに再利用した。


現代のフィウミチーノ空港、またの名をレオナルド・ダヴィンチ空港付近の、防波堤工事に大型船を埋めた。

で「皇帝カリグラのオベリスク」はバチカンに残っている。

 

さて今の僕が、日常生活から「聖杯」を連想するのは、もはや自然な成り行きだろう。

まして女神ディアナの巡礼のゴール、発見場所はマルタだものねえ…。


何かを検索しようものなら、つい好奇心にかられて「マルタ騎士団」を探すだろうし。

息子達が飼いたがっているワンちゃんは、フワモフな「マルチーズ」だ、なんたる偶然…。



いやはや「聖杯への厳かな行進」は、スルーできるだろうか?

特に「聖杯の動機」は音が上がっていく、耳にしてしまうんだ。


ジャーン…聖杯が現れました…ようやく「彼らの」願いが叶いました。

僕にはどうしても、こう聞こえてしまう。

 

やれやれ。

当直明けの昼寝は、夢うつつでも、頭の中はカオスなんだよなあ。

 

 

長文、お時間を割いてお読み下さり
どうもありがとうございました
 

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