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主人から貰った名を変えたいなどと無礼ではあるが、格太郎は助次郎と違ってわりと図々しいほうだったし、牛太郎も名のどうのこうのはあまりわからないので好きにさせた。
「じゃあ、俺は今日から七左衛門で」
 と、前から用意していたような素早さだ。
「お前も変えろよ」
 そう兄に促された助次郎だったが、難しい顔をして首を傾げた。
「しかし、せっかく旦那様に頂いた名だし」
 兄とは違って律儀な助次郎に、牛太郎は瞳を輝かせながら笑みを浮かべる。
「だったら助平郎にしたらどうだ」
「そ、それはあんまりじゃないですか、旦那様」
「似合いじゃんか」
 どこまでも助次郎に嫉妬している牛太郎。見る者によっては冗談とも本気ともつかない愉快そうな顔であった。
「どうして、俺が助平なのか、わかりません……」
 助次郎は理不尽を理不尽と理解できない好青年である。泣き出しそうな顔でうつむいてしまっている。それを見兼ねたのか、ただのでしゃばりなのか、黙って眺めていた新三が口を挟んできた。
「治郎助というのはいかがでしょうか?」
「はあ?」
 牛太郎はただのでしゃばりだと見た。
「なんだ、お前。偉そうに言い出したと思ったら反対にしただけじゃんか」
 せせら笑う牛太郎に新三はむきになって詰め寄ってくる。
「違いますよ! 頭の次を治めるの治に変えていますよ!」
「フン。ガキが考えそうなことだ。もうちょっと格好いい名前を付けてやったらどうだ」
「そこまでおっしゃるならば、殿のお考えを聞かせてくださいよ」
「ふむ。助平郎だな」
 助次郎は大きな溜め息をついた。
「もういいです。治郎助で」
 結局そうなった。無論、牛太郎はこの兄弟を七左衛門、治郎助などと呼ぶ気はさらさらない。
「姓はどうすんですかね、旦那」
 にたにたと笑いながら於松が言ってくる。
「姓も決めています。宿屋です」
 兄の七左衛門の言葉に、牛太郎は一瞬、声を失ってしまった。そのあと、鼻で笑った。
「宿屋はないだろ。宿屋は。シロジロだって一応は中島だぞ。本気で言ってるのかよ」
「はい。俺も弟も元は摂津の木賃宿の倅ですから。いくさのあおりを食らって焼けてしまいましたけど。オヤジもおふくろも死んじゃって」
「そ、そっか」
 いろいろと忸怩たるものがあるらしいが、深いところまでは聞かないことにした。
 身の上をあまり知ってしまうと、彼ら兄弟、特に治郎助に感情移入してしまう。それならば彩と一緒にさせて幸せにさせてやろうかなどと思ってしまわなくもない自分もいる。
 それよりも、太郎やあいり、さゆりや新七郎、彩といい、どうして親を喪った若者ばかりが集まって来るのだろう。齢も皆揃って二十前後。
 もっとも、太郎以外の皆はすべて戦乱の被害を受けた上でのことで、それだけ今の時代というのは業に満ち溢れている。
 高貴な身分の茶々や初、江にだって父親はいなく、一歩遅れれば母親でさえ喪いそうだったのだし。
 いや、そのことはもうやめよう。
「お前ぐらいだな」
 と、牛太郎は岐阜への道すがら、馬上から新三に言った。
「何がですか?」
 きょとんとした表情が似合う丸顔だ。
「いや、なんでもない」
 生意気ででしゃばりな少年だが、岐阜を出てから今まで、屁理屈めいた逃げ口上は言うものの弱音はあまり吐かない。むしろ、体質的に辛さの感覚がないのかもしれない。信貴山城に軟禁されていたのは新三も同じことであったが、それに対しての不平不満はまったくなかった。
 生意気さとでしゃばりさが抜ければ、使える人間になるかもしれないと牛太郎はちょっとだけ思った。
 牛太郎一行はのんびりと東進していき、岐阜 相关的主题文章: