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淵へ向かうこの者の足を、止めよ――」

 声に合わせて同じ動きで円舞を為す若い巫女たちは、高比古が横たわる寝板の周囲をぐるりと囲み、息を合わせて舞い歩く。彼女たちが砂を踏む音や、声の響きが、夜の海風に妖しく染みていた。

 それを背にして手仕事を続けながら、狭霧は何度か、巫女たちの口から驚愕が囁かれるのを聞いた。

「おお、死が移りゆく。これはなんとしたことか……。出雲の民は、死を操るすべをもっているのか――」

(きっと、形代(かたしろ)の契りのことだ)

 畏怖ともつかないため息を耳で感じるたびに、狭霧の手さばきはさらに慎重になった。

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(やっぱり――。祈るだけじゃ、死は止められないのよ。早くしなくちゃ。高比古の時を止めたところで、代わりに日女(ひるめ)が――)

 薬師として学び始めて一年になるが、このあいだに狭霧は、礎(いしずえ)となる技の数々を習った。薬草の見分け方や育て方、飲み方や塗り方。草花から油薬を取り出す方法に、包帯の用意の仕方や巻き方。それから――薬のつくり方。

 薬のつくり方だけは、みずからの手で成し遂げたことがなかったが、心得は高比古から教わった。

『薬っていうのは、身体の中の弱ってる部分をもとに戻してやるものだろう? まず、なにが足りないのかを見つけてやらなくちゃ駄目だ――』

 狭霧は、そばに置いたままの火悉海(ほつみ)の肩布から意識を逸らすことができなかった。

(わたし、この毒を消したいの。これを打ち消すものはなに? 足りないものは――、どうすればいい……)

 気が遠くなっていく気分だった。狭霧の意識はたしかに目の前にある世界を離れていき、意識のすべてで毒を向いた。

 ああ、ついに毒の世界に足を踏み入れた――そういう幻を感じながら、手はふらりと薬草に伸び、仕事を続けた。
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 やがて、出来上がった貝の肝の汁にいくつかの薬草の汁が混ぜられ、熱しても構わないという胸の声に従って、火にくべて――。

 でも、そのうち、そばで働く紫蘭(しらん)が泣きごとをいった。

「もう無理です、姫様。薬をつくってもどうにもできません。だって、我々がつくっているのは毒です。これは毒を殺す毒で、死の力が溜まった汁です。たとえうまく仕上がっても、再び命を奪いかねないものを、高比古様の口に入れるわけにはいきませんよ。形代の契りが二度目にも効くかどうかは、わからないのですよ」

 紫蘭は気が昂ぶったように、目に涙を浮かべていた。

「こうなったら、もう隼人の巫女の手にゆだねましょう。このまま時を止めて、高比古様を出雲へお連れしましょう。神野(くまの)の大巫女にお伺いを立てれば、もしかしたら――」

 紫蘭は幸運にすがるようだったが、狭霧は叱声で咎めた。

「そんなことをしたら、出雲に着く前に必ず日女が弱ってしまうわ。ここから出雲までは三十日……ううん、風が悪ければ、ふた月かかるかもしれないのに」

「ですから、姫様。だってこれは、薬というにはあまりにも……これは、毒です」

 高比古の身体を蝕(むしば)む亥殺しの紫毒を追いやろうとつくっていたのは、毒の効き目を打ち消す、真逆の効き目をもつ薬水だった。貝の肝を基としたその汁は泥水のように濁っていて、気味の悪い色をしていた。特別な霊威をもたない狭霧にも、その薬水には強い負の力を感じた。それはたしかに毒だった。

 狭霧は、そばに置いた毒針をじっと見下ろした。

「でも、出雲の大巫女様に、この毒を消すことはできるのかな。この毒は、出雲にはないものからできたものよ。この毒を打ち消すものだって、きっと南の大地にしかないと、わたしは――」

「ですから、姫様……」

 巫