甲骨文字百顆印 第五十一顆 / 白文・7mm角・新疆彩凍石
01 「問」という文字について
| 意 味 | とい・とう |
| 成り立ち | 会意文字。神聖な建物の門の前で言葉を発し、祈りや質問を捧げる樣子から「たずねる」を意味する。『門』と『口』の組み合わせで、門の内から口で問いかける形。 |
| 部 首 | 門 |
| 現代漢字の畫數 | 11畫 |
「門」の回で門を叩く話を書いたが、今囘はその門の前で口を開いて問いかけるという字だ。神聖な建物の前で神に問う、という起源を持つ。古代の人々にとって問うという行為は、人に尋ねる以上に神への祈りに近いものだったのかもしれない。
02 前シリーズでも彫った字
実は前の百顆印シリーズ、対義語二字熟語の方で「問答」を彫っている。
その時に書いたのが、一問一答とかあるけど結局一問多答しかないわけで、これも誰かの都合のために仕組まれたことなのかな、という内容だった。今読み返すと、あまり深堀していなかったなと思う。今囘はもう少し掘り下げてみたい。
字體が甲骨文字風に変わると、同じ字でも全然違う顔を見せる。前シリーズは小篆風で彫ったので、二つ並べると面白い比較になる。
03 一問多答という話
一問一答、という形式がある。
一つの問いに一つの正解を対応させる。試験でよく使われる形式で、シンプルでわかりやすい。でも現実の問いというのは、ほぼ全て一問多答だ。一つの問いに対して、立場や文脈や時代によって、複数の答えが成立する。
「一つの正解がある」という前提で育つと、答えが一つでない問いに直面した時に戸惑う。あるいは、誰かが提示した「正解」をそのまま受け取ってしまう。「鑄」の回で一次情報まで遡ることの大切さを書いたが、一問多答という視点を持つことも、情報を受け取る上で同じくらい大事だと思っている。
04 問い合わせの準備をしていたら自己解決した
問い合わせについて、最近改めて思うことがある。
問い合わせること自体は大事だ。でも、準備や事前調査の方がそれ以上に大事だと感じている。具体的に何を聞くかを整理しようとすると、聞くべきことが何かを明確にする必要がある。その過程で、自分が何を知っていて何を知らないのかが整理されてくる。
整理しているうちに、調べれば分かる部分が見えてくる。調べてみると、答えが出てくる。結果として、問い合わせ自体が不要になることがある。
これは珍しいことではなく、割と頻繁に起きる。問い合わせの準備をしていたら自己解決した、というのは経験として何度もある。
05 人に聞くことの手軽さと代償
人に聞くというのは、意外と簡単だ。
特にインターネットが整備された今は、検索一つで何かしらの答えが返ってくる。SNSで質問すれば誰かが答えてくれる。AIに聞けば即座に回答が来る。手軽さという点では、これほど便利な時代はない。
ただ、手軽に得た答えというのは、自分の中に定着しにくい。誰かに教えてもらった正解は、次に同じ問いに直面した時に思い出せないことが多い。自分で調べて試行錯誤した末に辿り着いた答えは、体に染み込んでいる。その差は、時間が経つほど大きくなっていく。
「基」の回で守破離の話を書いたが、基礎がないまま離から始まった自分が今まで彫り続けてこられたのは、試行錯誤そのものが蓄積されているからだと思っている。
06 考える癖の積み上げ方
考える癖というのは、急には身につかない。
でも、積み上げ方は難しくない。問い合わせをする前に、少し自分で考えてみる。調べる前に、まず自分なりの仮説を立ててみる。答えを見る前に、どういう答えが来るかを予想してみる。その一手間を続けていくと、少しずつ思考の筋肉がついてくる。
「繼」の回で、続けるとだんだん楽しくなるという話を書いた。考えることも同じで、続けるほど問いを立てることが楽しくなってくる。一問一答より一問多答の方が、考える余地があって面白い。
07 神への問いかけという起源
成り立ちに戻ると、「問」の起源は神聖な門の前で神に問いかける、という場面にある。
神への問いというのは、答えがすぐに返ってこない。待つ必要がある。あるいは、問いかけること自体が目的で、答えは自分の中から見つけるものだったのかもしれない。
今の時代、答えを外に求めることが増えた。でも本質的な問いへの答えは、外からは来ない。自分の中にしかない。神聖な門の前で問いかけた古代の人々が、実は自分の内側に問うていたとしたら、「問」という字の起源の解釈も少し変わってくる。
08 制作について
今囘も白文。字體は甲骨文字風で仕上げた。擊邊は入れた。
制作メモ
- 印 式:白文
- 字 體:甲骨文字風
- 印 材:新疆彩凍石(7mm角)
- 印 刀:刀匠印刀 三號
- 擊 邊:あり
門と口という二要素を7mm角に収めた。前シリーズで彫った「問答」の「問」と字體が変わるので、比べると興味深い。門の形をどう甲骨文字風に崩すかが今囘の工夫どころで、門らしさを残しながら彫った。
09 甲骨文字百顆印 これから
五十一顆目で「問」が加わった。
五十顆を超えて後半に入った。問い続けることが、このシリーズを動かしている力だと思う。一字一字に問いかけながら、答えが来ることもあれば来ないこともある。それでいい。問い続けることそのものが、積み重ねになっている。
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