甲骨文字百顆印 第三十顆 / 白文・7mm角・新疆彩凍石
01 「傳」という文字について
| 意 味 | つたえる |
| 成り立ち | 形聲文字。『亻(人)』と音符『專』の組み合わせで受け渡す意。甲骨文字では人・絲卷き・右手の象形で構成されており、絲を絲卷きに卷き付ける動作を、人から人へぐるぐる囘すことに例えて「傳える」となったとされる。 |
| 部 首 | 亻(にんべん) |
| 現代漢字の畫數 | 6畫 |
| 舊字體の畫數 | 13畫 |
| 甲骨文字の畫數 | 13畫ほど |
現代の「伝」はわずか6畫だが、舊字體の「傳」は13畫。甲骨文字も同じくらいの畫數だ。現代字への簡略化でずいぶん情報が削ぎ落とされた字の一つで、甲骨文字まで遡ると人と絲卷きと手という三つの要素が揃って初めて「傳える」という動作の全貌が見えてくる。
02 絲卷きと箱のイメージ
今囘は文字を枠の中に收めた。
絲卷きというのは、箱や容器に入って保管されているイメージがある。傳えるべきものが、きちんと收納されている感じ。そういう直感から、枠を入れることにした。前囘「尿」でガタガタになった枠の反省を踏まえ、今囘は丁寧に彫るよう心がけた。
成り立ちを知ってから改めて字を眺めると、人が手で絲卷きを持ち、次の人へと手渡している情景が浮かんでくる。情報というのは、昔も今も「手渡し」のものだったのかもしれない。
03 傳わるかどうかは、受け取る側の問題でもある
傳えたいことを自分の意思通りに傳えたい、とは思っている。
でも、傳わるかどうかというのは、発信する側だけでコントロールできることではない。受け取る準備が整っていないこともあるし、そもそも受信できる状態にない場合もある。タイミングの問題もあって、今じゃない、という時には、どれだけ丁寧に傳えても届かない。
これは相手の問題というより、そういう仕組みだと思っている。傳わらないことを相手のせいにしても、状況は変わらない。
04 聽き方も、受け取り方も、千差萬別だ
「聽」の回で、聞くと聽くは別物だという話を書いた。受け取る側についても、同じくらいの多様性がある。
話を聽いて理解する人。文字や圖を見て理解する人。實際に手を動かしてみないとわからない人。感覚で受け取る人。どれが優れているという話ではなく、ただそれぞれに得意な受け取り方がある、というだけだ。
だとすれば、傳える側が相手の受け取り方に合わせていく必要がある。同じ内容でも、話すか書くか見せるか體驗させるか、方法が変わるだけで届き方がまるで違う。これを面白いと思うか、面倒だと思うかで、コミュニケーションへの向き合い方が変わってくる氣がする。
05 魂をデザインするという話
人のエネルギー體が肉體を持つ時、ある程度自分自身をデザインしてこの世に來る、という考え方がある。
「宿」の回で肉體は入れ物だという話を書いたが、それと同じ文脈だ。どんな體を持ち、どんな感覚を得意とし、何に氣づきやすいか。そういったことが、生まれてくる前からある程度決まっているとすれば、聞いて理解する人とやってみて理解する人がいるのも、ただそういう設計になっているということになる。
であれば、傳わらないことへの苛立ちというのは少しお門違いで、相手の設計に合った傳え方を探すのが、傳える側の仕事なのかもしれない。
06 口傳というものの重み
今でも、文字や映像に殘せないものというのが確かにある。
師匠から弟子へ、親から子へ、口頭でしか渡せない何か。雰圍氣とか、呼吸とか、その場の空氣感とか。甲骨文字が生まれた時代から、人は何かを後世に傳えようとしてきた。文字という形で殘すことへの強い意志が、あの小さな字の中に詰まっている。
一方で、どれだけ精巧に記録しても傳わらないものが必ずある。だからこそ、口傳という形が今も生き続けているのだと思う。絲卷きをぐるぐる囘すように、人から人へとつながっていく。
07 制作について
今囘も白文。字體は甲骨文字風で仕上げた。擊邊は少し入れ、枠も入れた。
制作メモ
- 印 式:白文
- 字 體:甲骨文字風
- 印 材:新疆彩凍石(7mm角)
- 印 刀:刀匠印刀 三號
- 擊 邊:あり
- 備 考:枠入り
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13畫ほどの甲骨文字を枠付きで7mm角に収めるのは、このシリーズの中でも密度の高い一顆になった。人・絲卷き・手という三要素をそれぞれ判別できる程度に殘しながら、全體のバランスを取るのに時間がかかった。
08 甲骨文字百顆印 これから
三十顆目で「傳」が揃った。全體の三分の一だ。
傳えること、受け取ること、そして傳わらないこと。一字を掘り下げながら、コミュニケーションという行爲の複雜さについてずいぶん考えた。甲骨文字百顆印は、彫りながら思考する時間でもある。残り七十顆、引き続き一顆ずつ積み重ねていく。
あぁ、、、そうやって引き継いでいくんですね、、、(*´▽`*)
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