
「そらっ、いっけ。よぉしやっと殺せた…まったくぅ、てこずらせちゃってさぁ?」
彼女は今実際に誰かを殺してるのではない。FPS視点のゲームをプレイしているのだ。相当やり込んでいるらしく味方からはかなり信頼されている。
「いやぁ、はっはっ!良いねぇ!楽しいねぇ!何を思ってるんだろうねぇこいつら。味方は何をしてるんだって怒ってる?それとも、それともぉ?」
「……姉さんは本当に好きですね」
ボイスチャットで誰かと通話しているようだ。そこからは一人の男性の声が聞こえる。
「こーき君も好きでしょう?こういうの」
「えぇ、まぁゲームは好きですけど」
「でもねぇ、私もっと面白いゲーム見つけたのよ」
「へぇ、なんですかそれ」
「ま、君にはできないよ。開始することすらできない」
「新規ハードなんて出てましたっけ?」
「チッチッチッ違うんだなぁ。殺しだよ殺し。ちょっと知り合いからの頼みでね。やることになったんだけど」
「……ちょ、は!?なんですかそれ。てかそんなこと大声で…」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。嘘かほんとかわからないのよぉ?本当かもしれない。でも嘘かもしれない。現に私達は今殺し合いのゲームをしているし」
「で、本当だとしてなんでそんなこと…」
「まー知り合いからの頼みとしか言えないなぁ」
楽しそうな声で彼女はそう告げた。通話相手の彼には到底理解できない内容だったであろう。しかし彼女は楽しんでいる。そう、とある願いの為に。彼女の名前は水城 志穂。大学生だが今は長期の休みである。
「二時の方向、5m先に潜伏してたスナイパーいますね。二人で落としますか?」
「んー、そうするかぁ。じゃ右から回り込んで。私は正面から行くから」
「了解。移動開始します」
「はぁ、実際に銃を握りたいなぁ……っとそんなんじゃ当たらないぜっと」
「射程圏内に入れたんでもう少し耐えてください」
「りょーかーい。って横からも来たし。乱入の相手するからなるはやでよろしくー」
「もう倒しましたよ。今そっち向かいます」
「おっけー。こっちももう少しで片付くからあそこの高台集合で」
「了解です」
画面に向かい怪しく頬笑む彼女を誰かが狙っていた。彼女の住むアパートからかなり離れた場所に彼女の憧れた物を持って。しかし彼女は既に気付いている。というのも何度かこの銃口は向けられている。その度に彼女の能力により既の事で回避した。これは常に命を狙われていると言う強迫観念がなくては到底できなかった事だ。つまり普段ならその弾は彼女を貫いていた。それゆえ彼の指には焦りが乗っていた。しかし焦ろうが落ち着こうが関係ない。彼が見ている彼女は他の誰にも見えないのだ。
「よぉし勝った勝ったいやあ途中拠点取られて焦ったわぁ」
「その取られた拠点は貴方の判断ミスで取られたんですけどね」
「うぐ、悪かったって…とりあえずちょっと用事あるから今日は落ちるねー」
「わかりました。僕も眠いので丁度良いです」
「…………よし。それじゃ、そろそろ目の前に出てあげるかね?ヘルメスの能力があればまぁ、死なないでしょ」
そして家を出た直後である。凄まじい音を立てて窓ガラスが割れた。しかし構わず目的地まで彼女は向かった。普通ではあり得ないスピードで。
一人の男が満足そうに座っていた。ようやく対象を殺したのだ。そして目当てのカードも今から回収に向かえば間に合うであろう。そう立ち上がった刹那彼は絶句した。生きている。いやそれより目の前にいる。殺したはずの水城 志穂が。
「どうだったかな?私のヘルメスの能力は。いやぁ神経使ったよぉ。離れれば離れるほど難易度は上がるしずっと休まず使ってたからねぇ」
「な、どういうことだ……」
「ま、そのお陰でここにこんな速さで着いたんだけどね?それはそれ。これはこれってことで」
男は急いで銃を持ち変えた。近距離に向いている物に変えそして撃った。しかしそれは本物ではなかった。撃たれたはずのソレは彼に向かってゆっくりと歩きだしそして目の前で止まったのだ。
「わたしぃ、残念な事に武器とかないのよねぇ。ね、ほら。これで殺してあげる」
これとはバトスピの事である。もし彼女が武器を持っていたら彼は確実に死んでいた。それに逆転のチャンスを得たのだ。赤子のように頷いた彼を見て本物の志穂はさぞ面白かったのであろう。どこからともなく笑い声が聞こえた。そして次の瞬間、二人はバトルフィールドへ姿を消したのだ。
「アハハッここがバトルフィールドかぁ。へぇ凄いじゃんここ!」
「は?来たこと無いのか…」
「ないない。ずっとスナイパーが張り付いてから他の奴等も来なかったしねぇ?」
「……そうか」
「それじゃあ、まずはぁ…
駆けろ 偽りの守護神!どうか私の死の世界までの旅に付き合っておくれ?創界神ヘルメスッ」
偽りの守護神と例えられたそれは堂々とその場にいた。しかし男には偽りの守護神の意味も死の世界までの旅の意味も理解できない。
「さて、色々言いたいことはあると思うけど何も言わせないよぉ。スタートステップ」
全ての疑問を解決することを許さないかのように始まった志穂のターン。このターンはヘルメスの竜巻神殿を配置しバーストをセットしてターンを終えた。
「緑……か。スタートステップ、コアステップ、メインステップ」
男は手札を強く握るとそのままリューマン・クロウとリューマン・スカイソードを召喚。しかしリューマン・スカイソードの効果の恩恵を受けることはできなかった。男はフェイタルドローを使用しターンを終えた。
「01サジットかしらね?懐かしいわねぇ。その頃まではバトスピやってたのよ。あーも本当に懐かしい。あの頃も楽しかったわぁ」
「命を賭けたバトルに随分と余裕だな」
「余裕?ないない。ただ、最高に楽しいだけよ。パキラフォックスを召喚、召喚時効果でコアをリザーブに置く。そしてライオアイアースを破棄してバーストセット。ターンエンド」
「コアブーストを主体としているのか。ならば速めに決めなければな。天槍の勇者アーク召喚」
「そもそも01サジットってアタックしてなんぼのデッキでしょうが。さっきアタックしなかったのは何を警戒してかしら?」
やや不機嫌そうに志穂は言う。志穂のプレイスタイルはどちらかと言うと素早く大型のカードをだしそのカードで蹂躙する事を楽しむ傾向にある。それ故その準備の間にライフを削ることは彼女にとっては当たり前の事なのだ。
「もしかして…まだサジットは来ていないとか?」
悪戯っ子のような笑顔で男を見つめる。男は無言で立ったままだ。無言は肯定と判断したのだろうか。志穂は嬉しそうにした。
「そうよね、そうよねぇ!?速くアタックして速くサジットを出してそれで一気に相手を追い詰める。私ならそうする!私なら絶対にそうしてた!つまりその手札にサジットはいないって事よ!」
男はため息混じりにバトルを再開した。ライフを一つ支払いそれを呼んだ。黒い稲妻と共に正義とはかけ離れたそれを。
「黒皇龍ダークヴルム召喚」
「ダークヴルム……ちょっと読めなくなってきたわねぇ」
「バーストをセット。ダークヴルムでアタック。BP5000以下のパキラフォックスを破壊だ」
「あらら、せっかく可愛いのに。ライフで受ける。そしてバースト発動!」
その言葉と共に志穂のバーストゾーンに火柱が立ち上がった。その中でバーストが発動する。
「燃え盛れ 私の怨みの炎、焼き尽くせ 命ごと全て!四十四代目異牙忍頭首シシノビ見参」
フィールドに現れたシシノビは志穂の方を向き跪いて見せた。その後シシノビは男の方を向き火柱で男のフィールドをスピリット全てを焼き尽くした。
「良いわねぇ、口上通りに動いたりするのはポイント高いわねぇ。やっぱ忍者はこうじゃないと」
楽しそうな志穂とは対称的に男の顔は歪んでいた。
「さって、スタートステップ」
志穂のドローはあまり良い物では無かった。そしてバーストの変更等で手札も少ない。
「さぁてどうしようかなぁ……」
「どうした?手札が悪いのかね?」
不敵な笑みを浮かべ男は聞いた。その顔が志穂の不安を煽る。
「そうねぇ…ほんっとこの手札はまずい。んー…ここは賭けに出よっかな」
「ほぉ、命を賭けたゲームで賭けに出ると?良いのかね?そんなことをしても」
相変わらず不気味に笑う男。この命を賭けた戦いで有利なのは間違いなくこの男だろう。この男が今まで殺してきた人間の数は数えきれない。それゆえこの男には心の余裕がある。反対に楽しそうにしている志穂の心は恐怖で溢れそうになっていた。
「賭けに出ないと駄目な時もあるのよ。それに運負けとかそんなのケア次第ではなんとかなる場合が多い」
平気な顔をしながら男に言う志穂だがその指は誰にも見えない程小さく小刻みに震えていた。
「よく運負けしたって言う奴は何処にでもいるけどさぁ?その運負けだってある程度のケアはできるのよ。それもできない雑魚がワーワー騒いで…」
「……君がゲームでの戦いに対して素晴らしい実力と精神の持ち主なのはわかった。しかしこの賭けで負ければどうなるか……わかるか?怖くないのか?」
男は笑顔で不安を煽る。何せ命を賭けた戦いなのだ。男は心を壊す勝ち方を選んだ。不安を煽り続けそして彼女が壊れるその時まで男の口は止まらないであろう。
「怖いわよ。怖いし楽しい!最高の気分よ!どうせ私の願いなんて死ぬのと大して変わらないもの!いつ死んだって変わらないじゃない!」
震える指で志穂はタケノコッカースパニエルを召喚しアウェイキングビーストを使用した。竜巻と共にデッキがめくれる。そのカードはヘルメスの竜巻神殿、四十四代目異牙忍頭首シシノビ、七大英雄獣高速神王オデュッセイバー
「来たわね私のキーカード
駆け抜けろ どこまでも、永遠に!myfavorite七大英雄獣高速神王オデュッセイバー」
強風と共に現れたそれは持ち主を守るかのように止まり、そして眼前の男を睨みつけた。
「シシノビとオデュッセイバー、ヘルメスの竜巻神殿をLv2にしてオデュッセイバーでアタック」
「ライフで受ける」
「アウェイキングビーストの効果、このカードの効果で召喚したオデュッセイバーでライフを削ったなら更にライフをトラッシュへ送る。続けてシシノビでアタック」
火柱がデッキを包み、そしてデッキを2枚オープンした。その中に忍風を持つものはいない。七大英雄 疾風王アキレウザーと英雄獣タイガー・ネストールだ。
「ま、召喚はできないわね。でもこの2枚は手札に加える」
「ライフだ。そしてバースト発動。選ばれし探索者アレックスだ。1枚ドローし君のアタックステップは終わる」
「あっそ。ターンエンド」
「さて、コアも充分だ。リューマン・クロウ、エグゼドラを召喚。そしてこいつを呼ぶ」
太陽にも似たそれは突如現れたのだ。全てを破壊するかの如くそれは現れた。
「灼熱よ、全てを消し去れ!アルティメット・サジット・アポロドラゴン召喚だ」
「ようやくキーカードのお出ましねぇ?良いわねぇカードゲームはこうじゃないと!」
「ネオ・ダブルドローを2使う。アルティメットがいるので3枚ドローする。アーク、リューマン・スカイソードを召喚する。そしてバーストセット」
大量展開と共に男はアタック宣言へと移る。
「いけ、サジットWUトリガーだ」
「…ヘルメスの竜巻神殿とタケノコッカースパニエル」
「どちらもヒットだな。オデュッセイバーとスパニエルを破壊する。そしてシシノビに指定アタックだ」
「あらら…また全破壊…」
「すぅ……はぁ……すぅ…」
ここに来てはじめて志穂が目を閉じた。今までは興奮気味にそこに立っていた志穂だが今はたても落ち着いている。そしてそっとデッキに触れた。
「スタートステップ、コアステップ、ドロー…ステップ。……ん、神は私の味方だこりゃ」
すると今度はこれ以上にない程の微笑みをもらした。
「あ、いや。あれが神だとすると味方では無いかな?まぁいっかー、英雄獣タイガー・ネストールを召喚。召喚時効果でトラッシュ全てを除外するわ。3枚につき1体重疲労するから2体重疲労ね」
エグゼドラとアレックスを封じ込め残りのブロッカーを3体にまで持っていく。
「しかしまだアタックは通らないぞ?」
「わかってるわよそんなこと。もう一度力を貸してね。オデュッセイバー召喚、Lvを上げてそのままアタック!」
咆哮を上げオデュッセイバーは男の元へ駆け抜ける。主を守るべく、主を救うべく。
「界放を使うわよ、2体を手元に戻す。更にヘルメスのコアを一つボイドに送ってそのカードを1ターン封じ込める」
リューマン・クロウとリューマン・スカイソードを手元に送る。これにより男のフィールドに残されたブロッカーは1体だけとなった。
「ヘルメスの竜巻神殿の効果でアタックステップの終了は認めないから大人しくしてなさいな」
「くそっ、アークでブロックだ」
「ヘルメスの神域の効果でオデュッセイバーを回復する」
志穂は手を止めた。このアタックで最後になるだろう。しかし悲しい目をしてこう男に聞いた。
「貴方、殺し屋よね?」
「……そうだが、何か?」
「なんで殺し屋になったか、聞いても良いかしら?」
「なに、簡単な事だ。それでしか生きる道を知らなかっただけだ」
「そう……誰かを殺す事は自分を殺す事と何も変わらない。いや、変わっちゃいけないのよ」
その悲しい目は誰に向けられたものか男には理解できなかった。一つ言えるのは、自分ではないということだけだ。
「貴方は人を殺しても何も思わない?」
「満足感が残るな。何度も言うが俺はそれしか知らない」
「そ。私はねぇ、人を殺した人は…いや命を奪った人間は同じく自分も殺してると思ってる。仕事で仕方ない場合もあるし生きるために必要な事もある。けれどそれを普通と思った段階である意味死んでるのよ……心が」
「それを俺に話して何になると言うんだ?何も解決はしないだろう。それとも今になって怖じ気づいたか?」
呆れたように男は聞いた。先程までの不敵な笑みはなく、ただ真っ直ぐに志穂を見ている。
「いーえ。別に怖くはないわ。正しくそれなんだから。今さら躊躇なんてない。けれど……その死んだ後の人間がどうなるのか気になっただけよ」
「そうか。ならすまんことをしたな。反面教師にもなれていないだろう」
「……貴方、随分と落ち着いてるわね。今から死ぬのよ?」
「最初からまともな死に方をできるなどと思った事はないさ」
「あっそ。で、名前は?」
「名乗る必要が思い付かないが」
「不公平じゃないのよ。私だけ知られてるなんて」
「………猪戸 蒼大。覚える程の名じゃない」
「猪戸…蒼大。覚えておくわ。オデュッセイバーでアタック」
「………ライフで受ける」
「あーあ死んじゃった。そうね、人を殺した奴が死人なら死人を殺した私は何かしらね?」
そう呟きながら志穂は足元の拳銃を幾つか持ち上げカバンに入れた。
「アハハッ これは貰ってくわよ。殺し屋さん?」