街中で一人、未だにこのゲームを躊躇する男がいた。
「はぁ…なんでこんな事になってるんだ」
この男の名は守崎 弘人。このゲームへ参加を命じられた一人だ。
「人を殺してまで叶えたい夢なんて……くそっ、あるかよそんなもん。誰かの命を奪うなんて……無理だ…」
最近増えている原因不明の死。これはこのゲームのせいだろう。こんな物のせいで数多くの人が死んでいる。中には学生も混ざっていた。その数は大体30人に到達するだろうか?
「はぁ飲み会かぁ……気分が乗らないし今酔うと怖い」
彼はとある大学生だ。今は長期の休みである。今日は飲み会に誘われていた。しかしゲームのせいで乗り気にはなれないのだがかなり前から決まっていた話を今更断れる筈もなく、仕方なく向かっていた。

「来ましたよー」
「お、やっと来たのか。遅いぞ」
「あー、守崎君じゃんやっほー」
「我らがアイドルのモーリーじゃーん」
「きゃーもりっち~」
入ると共にこの様子である。普段なら楽しい時間も今は苦痛でしかない。
「はいはい、佐藤さん三浦さん遠藤さん落ち着いて……あれ、宿主の水城さんはどこに」
「あー、なんかキッチンに料理忘れて来たって言ってたから今戻ってくると思うけど」
「あれ、全員集合してたの?ようこそ~」
「水城さん、おじゃましてます。ごめんね、初参加なのに家借りちゃって」
「まぁまぁ。気にしないで。私から参加したいって言ったんだからこのくらい任せときなさい」
「なにより志穂ちゃんの料理旨いんだよマジで」
「いきなり呼び捨て…だから慎二は男女関わらず人が寄らないんだよ?」
「ズイズイ行く方が案外良いぞ?」
「まぁその辺の話は今度聞くよ」
「あぁ、今度聞かせてやるよ。それじゃあ全員集まったという事で!8月14日、第七回一日おじゃまします飲み会 乾杯!」
彼に続き全員が乾杯!とグラスをぶつけ合う。念のため言っておくが勿論彼らは成人している。
「そういえば水城さんと慎二君ってどこで知り合ったの?確か今回二人がメインで企画してくれたよね?」
「あー、俺がやってるゲームを志穂ちゃんがやっててな。それで話すようになったんだよ」
「へぇ、どんなゲーム?」
「聞かない方が良いと思うなぁ私は」
「まぁ確かにあんま言わない方が良いかもしれねぇな!」
「えー?気になる気になる~」
「えっと、慎二がやってるって事は銃を使うやつだっけ?」
「なんで知ってるんだよお前……」
「この前家行ったときに見つけた」
「え、こわ……」
「もりっちストーカーの才能あるね」
「ストーカーかぁ……あぁ、私の家もやられるのかしら…」
と言いながらニヤっとする彼女と笑う他のメンバー。弘人は少しだけ気が緩んだ。何処かの店ならいざ知らずこの家の中なら安心だろうと。
「え、でもてことは水城さんもそのゲームしてるんだよね?」
「あ、確かにそう言う事だよ!上手いの?」
「上手いなんてもんじゃないぞ。日本サーバーでは有名人の一人だ」
「トッププレイヤーじゃ~ん。凄い!」
「ちょっとぉ、軽く引かれるやつなんだからそんなペラペラと喋らないでよ…」
「まぁ大丈夫だろ多分。あーでもさっき見た部屋はヤバイかもな?」
「ドア閉めてたはずなんだけど目を離した隙に全員で探検しちゃってさぁ…」
「あーでも私の部屋とかジャニーズのポスターで溢れてるし変わらないって」
「変わらない……って事にして飲みましょうか!」
「いぇーいそれが一番平和だよ~」
「あ!ヤバイレンジにまだあるんだった!取ってくる」
「どんだけ作ったんだよ!……てか忘れるなよ!」
「いやぁ、でも本当に美味しいねこの料理」
「かわいくて話も面白くて料理もできる……あぁ、良い嫁さんになるぞアイツは」
「いやお父さんか…。はい、お待たせ。後からもう少し出てくるから男二人は頑張るように」
「お、おう。覚悟しておくわ……」
「右に同じく……」

何時間経っただろうか。誰もわからないまま眠りについていた。たった一人を除いての話だが。弘人の前に一つの人影が現れる。そしてそれは何かを探していた。しかしお目当ての物は見つからなかったのだろう、すぐに何処かへ消えていった、チッと舌打ちを残して。探し物はおそらくカードだろう。しかしそれはここにはない。弘人はイシスの能力を一度も使った事がない。それゆえ能力の本質を彼は全もって知らない。そもそもこのゲームを嫌がっているのなら必要のない物だ。しかし、本当に……本当に夢が叶うのなら彼には叶えたい夢が一つだけある。ずっと気掛かりだったものが一つだけある。しかし人を殺してまで叶えたいとは思わない。自分の身勝手な理由で誰かを殺したいとは微塵も思わないのだ。しかしあの時言われた、自分にその気が無くても他の全員はやる気だった時やる前にやるしか方法はない。この言葉がどうしても頭から離れない。こうしてる間にも他の参加者は自分の持つカードを探しているのだろうか。その恐怖心がより一層彼の心を蝕んで行く。夢の中ですら、弘人はそんな恐怖に震えていた。しかし今日はお酒のお陰かあまり気にならない、気が緩んでいるのかもしれない。それでもここで位なら大丈夫だろう。

誰かのアラームが聞こえ弘人は目を覚ました。キッチンから物音が聞こえる。弘人は音の方向へ向かっていった。そこでは志穂が朝食の用意をしていたようだ。志穂は少し驚きと警戒の病状を見せたが寝起きの弘人にはよく判別がつかなかった。
「あれ、守崎君…ごめんねぇ起こしちゃった?」
手に持つ包丁を強く握る志穂だが少し間を置き握る強さを元に戻した。そしてまた振り返り何かを切り始めた。その瞬間、弘人の視界には違和感が生じた。その違和感が何かはわからない。しかし確実に何かが増えた気がする。
「いや、誰かのアラーム音で起きただけだよ。水城さんもはやいね…」
「まぁ早めに起きるのがもう体に染み付いててねぇ。今朝ごはん出来上がるから待っててね」
「あぁ、うん。ありがと。志穂さんは凄いなぁ…普段は誰も起きなくて昼位まで全員潰れてるから…」
「アハハッ。誉めても何も出ないぞ~?」
「いやいや、本心だよ本心」
「そう?なら良いけど」
眩しい程の笑顔をしたと思えば今度はニヤリと弘人を見つめる。弘人は少し困惑しながらも他の皆を起こしに戻った。そこには幸せな空間と朝食の良い香りが広がっていた。