
光とされていた者が突如闇とされる。そんな場面を見たことがあるだろうか?人々の勝手な理由で自身を悪と、闇とされる気持ちを理解している者は少ないだろう。いや、居ないのかもしれない。身勝手には身勝手で返す他無いだろうと砂漠の王はそう告げた。砂漠の王は怒り狂っている。その怒りを止めるとは砂漠の真ん中でオアシスを見つけるより難しいかもしれない。砂漠の王は大変珍しい生物を持っている。様々な生物が合わさった生物だ。キメラとでも言うのだろうか?そして王はとある者の手中に収まった。しかし存外悪くない。なにせこの男、狂っているのだ。悲しい程に狂っている。さて今日は、そんな怒りの王と狂った男の物語。それでは、始まり始まり。
男は楽しんでいた。この状況を、このゲームを。力のない自分が力のある者へとなれる。そして今では人を赤子のように扱うことができる。
「ああ、ここに居たのか。探したよ」
「クソ、もう追い付かれた…」
「ごめんね。君は………もう飽きた」
そう告げると彼は名前も知らない男を殺した。
「ん、あー…クラスのグループLINEか。切っておくの忘れてたなぁ」
彼の名は野村 礼二。ごくごく普通の高校生である。
「それにしてもこれで何人目かなぁ。そろそろ飽きてきた」
この精神状況を除けばというのが前提となるが。
「そろそろ参加者を探さなきゃいけないね。能力を使うとお互いなんとなく位置がわかるとかなんとかって聞いたけど全然わからないよ……」
ため息混じりにそう言うと礼二は歩き始めた。どうやら帰るらしい。
「殺すとしたら誰からにしようかなぁ……ちょろそうなのはアポローンだけど他と衝突してる間に逃げられそうだなぁ…オシリスは……未知数。まだ触れたくない」
なんと驚く事に礼二は他の参加者の情報を既に握っている。参加者には他の参加者の情報は一切与えられず与えられるのは他の百人にのみなのだ。しかし礼二は全員の顔と名前、そして素性や過去までも知っている。
「ん、あ来た来た。なになに?ヘルメスの所持者について続報……か。えーと、昨年の夏…丁度今頃じゃん。…が……から…………殺した…。」
聞こえるか聞こえないかの声で礼二は送られてきた文章を呼んだ。それを呼んだ礼二は目を輝かせた。
「なにそれ!めっちゃ面白いじゃん!えーと、しかもヘルメスの所持者は元々バトスピをしていたんだ。もっと詳しく情報を貰おう。そして……決めたよ。最初の獲物は敢えて最も手強いであろうヘルメスの所持者、水城 志穂だ!」
高笑いが虚空へ消えていく。誰もが寝静まるこの時間にこの場所でこの声を聞くことはできないだろう。
時は変わり朝方。彼の元へ一通のLINEが届く。
「誰だよこんな朝っぱらから……あぁ、あの人か。今度はなんだ?……………へぇ、こことここ。そしてこことここが繋がってるの。へぇへぇ面白いじゃん」
目を輝かせたまま彼は目を閉じた。そして頭の中で水城 志穂をどう殺すか考えていた。大衆の前で殺し見せ物にするか、ひっそりと殺すか。それとも………昨日得たネタを使うか。道はいくらでもある。そのどれか一本しか選ぶことができない。
「どうしよっかなぁ。でもあれだけ自信に溢れた奴を色んな人の前で殺すのも普通に良いよね。あーでも一人絶望しながら死んで欲しい気持ちもある。あーーー悩むなぁ…」
一般人の思考では到底思い付かない事を礼二は簡単に口に出している。それは全て本心だ。それ以外の何物でもない。だからこそこの男は恐ろしいのだ。破壊衝動等では済まされない。誰かの死を望むのが彼だ。しかしそれは自身への劣等感から来るものなのだ。自分は誰よりも劣っている。ならば人を全員殺せば自分が一番になれる。だからこそ強敵を殺す事にここまでの快感を抱くのだろう。
「さぁさぁそうと決まればこのデッキももう少し使ってあげないとね。あー楽しみだなぁ…あーあーてことで君は僕のテリトリーから出さないよ」
礼二は能力を使用した。しかし何も変化したようには見えない。
「さて、はやく向かってあげないとね。見つけられたら大変だ…」
支度を済ませ外に出た礼二は何かを探すかのように歩いている。時間はまだ5時を過ぎた辺りだ。勿論外に人はほぼ居ない。
「あ、居た」
「はぁはぁ、なんなんだよここ…どこを通っても戻される……」
「やっほー。セトの能力はどうだい?随分疲れてない?運動不足なんじゃない、おじさん」
「うるせぇよ!誰だ…てめ……お前は!?」
「うんうん。そうだよ。てことでバトルしようか」
「望む所だ!そのセトは俺が貰う」
「さぁて、やるか。まずは…光と闇全てを知る王よ、兄殺しの伝説を再びここに呼び寄せろ創界神セト降臨」
セトがフィールドへ現れる。その瞳は破壊と死を表したようなものだった。
「効果でデッキから3枚破棄する。内容はホコ、ストロングドロー、マントラドロー。だーもう。だからカードゲームは嫌なんだよ」
「な、何が起こったんだ……」
「あ?これは説明されてないの?それは教えてあげた方が良いよ神様。ま、僕には関係ないけどさ?スタートステップ…だっけ?」
慣れない手付きでバトルを始めた。初手はセトの豪腕神殿を配置し終わった。
「ネクサススタートか、これなら余裕だな。調査員フリック召喚。ターンエンドだ」
「あれ?終わり?」
「アタックしない方が良い場面もある。それだけだ」
「えー、アタックした方が良いって。まぁいいや。こい、ケルドマンド。デッキを4枚オープンするよセトの豪腕神殿…ナルミネスとアレックス」
やや不満そうな顔を残しながらセトの豪腕神殿と砂海王子ナルミネスを手札に加えた。
「ケルドマンドにコア全部乗せてターンエンド」
「ノルド、ラーテン召喚。ターンエンドだ」
「え、ほんとになにもしないじゃん大丈夫?」
「人の心配よりてめぇの心配するんだな」
「あそ。ナルミネス召喚、ラーテン破壊ね。豪腕神殿配置、バーストセットしてナルミネスLv4にしてターンエンド」
「さて、オッザニア、歌う調査員アーシア召喚。ラーテン召喚だ。オッザニアでアタックする。こいつの効果でBP6000になり1枚ドローする」
「え、ナルミネスと同じじゃん」
「ついでだ。ラーテンの効果でバーストは封じさせて貰うのと同時にノルドの効果で3コストのそいつは退場だ」
「とりあえず4枚オープンするよぉ。よし、タイフォームを手札に加えるよ。そのアタックは……ナルミネスでブロックしかないかなぁ」
「アーシアの効果で相手により破壊されたので1枚ドロー」
「うっわぁ強いなぁ…」
「それよりそのがら空きのフィールドを心配するんだな。このターンでお前は終わるんだよ」
「あれ、もうそんなに並んでる…これが速攻デッキってやつ?」
「調査員だ。覚えとくんだな」
「おっけー。覚えとく」
「はん、馬鹿かお前は。お前はここで死ぬんだよ!ノルドでアタックだ」
「ライフで受けるよ」
「フリックでアタック」
「………ライフで受ける」
「アーシア、行け」
「プ、アッハハハ」
「あん?何がおかしい」
「いや、ごめんごめん。知ってるよ。調査員デッキ。系統調査員を主体としたビートデッキ。それぞれの効果が調査員全員に共通で付与され出てくれば出てくる程その強さも増す。安さと安定した勝率で親しまれたデッキだよね?」
「ほぉ、知ってるんじゃねぇかよまぁもう遅いがなぁ!」
「実は伏せてるのはアレックスなんだよね。ラーテンとエウロー揃ったらほんとヤバかったんだけど揃わなくて安心したよ。知らないふりしてラーテン破壊したけど駄目だったね」
「エウロー…?おま、まさかこの状況をどうにかするカードがあるってのかよ」
「ギリギリだけどね?こんな事ならもう少し展開すれば良かったよ。フラッシュタイミング アクセル、海賊艦隊キャプテン・ウォルラス。コスト3以下のスピリット全てを破壊する」
「ぐ……ターンエンドだ」
「いやぁハッハ。怖かったぁ…ほんとに負けるかと思ったよ。じゃあ、反撃するね?」
「何が来るんだよ…」
「神々が恐れる巨大なる魔物。兄殺しの王に成り代わり現れろ!砂海嵐神タイフォームをLv4で召喚」
嵐と共に現れたのは神話に名高い魔物だった。かの有名なゼウスと死闘の末、死した魔物だ。
「調査員のデッキは主に3コストの調査員と6コストのアンタークが主軸。そしてタイフォームは相手のデッキを3枚トラッシュに置き3コストか6コストがあったなら回復する。後は、わかるね?」
「そ、そんなカード存在するか!インチキだろう!」
「うるせぇよ雑魚が。行け、タイフォーム」
タイフォームが動き出した衝撃で男のデッキが3枚トラッシュに送られる。調査員エウロー、調査員オッザニア、全魔神が送られた。タイフォームは回復する。
「そら続けて行くよ?タイフォームでアタック」
続いてトラッシュに送られたのは調査フリック、調査員見習いロロ、絶甲氷盾。
「さぁさぁもっともっと!タイフォーム!」
「くそ、頼む!防いでくれ!」
その願い虚しくトラッシュには調査員見習いロロ、調査員エウロー、逆転大陸だ。
「さぁもっと!もっと行くよ!タイフォームでアタック」
トラッシュには絶甲氷盾、全魔神が送られた。次のカードで全てが決まる。
「頼む!防いでくれぇ!」
あぁ、しかし今回は参加者に女神は微笑んだ。そこに見えたのは究極なる女王アンタークだった。女王の崩御と共に男の敗北は決まった。
「タイフォーム、やれ。どうせ死ぬんだ。最高の一撃をくれてやれ」
タイフォームはその声に応えるように力を込めた一撃で男のライフを砕いた。
「はぁ、情報屋にバトスピの情報も頼んで良かった……正直危なかった。……というかこのデッキ強すぎない?能力も強いしこれは勝ち確定かなぁ」