
「ねー慎二くーん」
「どした?」
「慎二くんって定期的に飲み会してんだって?」
「あぁ。やってるぞ…来るか?」
「うん行きたい。てか料理とか作るから来てよ」
「そりゃあ有り難いな。んじゃあこれ終わったら皆に連絡してみるか」
「わーい、やったぜ」
「にしてもなんで急にそんな事言い出したんだ?」
「んー?別にぃ、なんか皆でワイワイ飲むのも楽しそうだなぁって」
「楽しいぞー。ただ家主になった奴は毎回苦労するからくじ引きとかじゃんけんで決めてるんだよ」
「確かに相当大変そうだねぇお、勝った」
「お、ほんとだ。やっぱ強いなぁ」
「何もでないぞぉ?」
この時、7月28日。8月14日の飲み会はこうして成立したのだ。その時の様子を日記を見返し思い返していた。現在8月18日。あれ以来飲み会メンバーとは定期的に連絡を取っている。
「あー、あー……やっほー聞こえる?」
「……はい、聞こえますよ」
画面の向こうから聞こえる声はいつものように落ち着きつつも少し明るい声で答えてくれた。
「あの…部屋入らないんですか?」
「あー、うん。聞きたい事があってね?こーき君さぁ…アルテミスって知ってる?」
「…………し、知ってますよ?狩猟の神アルテミスですよね?神話は詳しくないですがそのくらいならギリギリ」
「………ゲームの参加者とかじゃない?」
「えっと、意味がわからないのですが…」
「この前面白いゲームがあるって言ったでしょ?あれね、とあるカードを貰ってやるゲームなの」
「え………?志穂さんが?」
「私はヘルメスの能力を使う参加者。君はアルテミスを使う参加者。敵同士よね」
「そんな……なんで志穂さんが」
「でも、できればこーき君とは戦いたくない。いや、最後に戦いたい」
「僕も…今すぐは無理です」
「それならこれからお互い連絡の取り合いは無し。それで良いわね?」
「はい……それでは」
「ええ。最後に…生きてたら戦いましょ」
その言葉を残し志穂は連絡を切った。
一方幸輝はどうすれば良いのか分からずにいた。志穂が参加者なのは予想外だ。何をどうしたら良いのかわからなくなっていた。
「くっそ…どうすれば…………そうだ」
何かを思い付いたらしく幸輝は顔を上げる。
「志穂さんの敵は全員殺しておけば良い。どうせやることは変わらない。いつもと同じく見つけて…殺すだけ」
アルテミスの能力は索敵に非常に向いている。そして幸輝はとある事件をきっかけに死を望むことが多くなった。この二つが合わさり幸輝は敵を見つけては勝負を挑みそして、殺している。残念ながら未だにカードを持った参加者にも幸輝を倒せる者にも出会えてない。
「今日の獲物は…そこか」
月が出るにはまだ速い。しかし狩りの時間は待ってはくれない。幸輝は薄暗くなりつつある街中に消え去った。
暗くなりつつある街中を歩くのは必ずしも誰かを殺す為に歩いている者だけではない。海は友達と寮へ帰っている最中だ。
「やっぱりあのクレープ屋さんは並んでも行くべきだよ」
「いやでもあれに並ぶのはちょっと…」
「今日は時間がねぇ…」
海は他の二人の女子と共に寮へ帰る所だ。しかしこの帰り道も油断できない。特に何も知らない二人の近くだからこそ迂闊に能力を使えないのだ。
「あ、あれは幸輝君では?」
「え、まじまじ!?あのイケメン幸輝!?」
「二人ともがっつきすぎだって…聞こえちゃうよ?」
「むしろそのテンションでいられる海がわからない」
「あれか!中学から一緒だから見慣れたか!贅沢な奴め!」
「いやーなんか友達の好きな人が月野君だったから……そういう気持ちにならないというか…」
「ふーん。で、その友達は?」
「んー、今は別の場所にいるからなんとも。連絡も取れてないし」
「あらら、それはそれは。にしても海の中学時代の話ってあんまし聞いてないんだよねぇ…」
「あ、確かに!私全然知らないわ」
「それを言うと私も二人の中学時代の話知らないよ?二人は学校同じだったからお互い詳しいだろうけど」
「それじゃあ今日はその話でもしますかね…」
「良いね!どーせ明日も休みだし」
「二人は寝落ちするからなぁ…」
「し、しないように……気を付けます」
「無理しない程度によろしくね~」
楽しげに話す三人を一人の女性が眺めていた。彼女もまた百人の中の一人である。しかし数日海の観察をして襲うことを諦めた。単純に攻め入る隙が無いのだ。こればかりは寮生活と言うのを恨むしかない。しかし彼女が振り返るとそこには一人の青年が立っていた。
「……貴方は?」
「アルテミスの所持者だ。俺と戦え」
「どういう訳か知らないけどその挑戦、受けて立つわ」
「月夜に輝く我が神よ 何人たりとも逃しはしない。狩人はここに目覚める。狩猟の時間だ。創界神アルテミス、来い」
「それが噂の能力の一つ……か」
「なんだ。これの事を聞いてるのか」
「最近あいつから教えられたのよ。なんの気まぐれだか」
幸輝が今まで勝負を仕掛けて来た者は全員アルテミスがいきなり現れた事に対して最初に驚いた者が大半だった。そのため幸輝はこの反応が意外だったのだ。
「あいつ…ね、まぁ良いか。先攻後攻どっちが良い?」
「……なら先攻を貰うわ」
「好きにしろ。どうせ何しても変わらないし」
「……。スタートステップ」
静かにバトルが始まった。ドローしてきたカードを一瞥した女はニヤリと笑うとバーストをセットした。
「子の十二神皇マウチューを召喚。召喚時効果を発揮。自身のソウルコアをライフに置くことができる」
「チッ、緑かよ」
「緑だと何か不都合でもあるのかしら?」
「ないよ。さっさと進めろ」
「………?封印時バースト発動、古の神皇 神鳥のガルダーラを召喚、召喚時効果によりボイドから3コアをスピリットに置く」
天より現れし古より伝えられる神鳥。その恵みと加護は非常に大きい。その為降臨には自身の魂を命その物に封じ込める必要がある。しかしこれは元々邪悪なる悪魔を封じる手段だったのだ。その邪悪を再び封じるかの如く神鳥は空から舞い降りたのだ。
「初手にこれだけできれば上々ね。ガルダーラ、マウチューをLv2に上げてターンエンド」
「はぁ…スタートステップ」
幸輝の第1ターン。幸輝はバーストをセットしコマンド・コリーを召喚。召喚時効果でポラーナイト・ガルムを召喚。ポラーナイト・ガルムの召喚時効果でボイドからコア1個をポラーナイト・ガルムに置きLv2にしそのままアタックステップに移った。
「ポラーナイト・ガルムでアタックだ。ポラーナイト・ガルムの効果でこいつにコアを置く。さらにコアが増えたことにより回復」
「回復したところ悪いんだけどガルダーラでブロック。勿論破壊よ」
「充分だ。ターンエンド」
「スタートステップ」
第2ターン。白雲に茂る天翼樹を配置、古の神皇 神鳥のガルダーラをLv3にし、アタックステップへ移る。
「ガルダーラ、アタック」
「ライフで受ける」
その巨大な翼と爪、人が受けるにはやや大きすぎる衝撃を幸輝は正面から受けた。しかし神鳥の刃は未だ懐へしまわれてはいない。
「バトル終了時、相手のライフのコア1つをリザーブへ置くことで、ガルダーラは回復する」
「!?……くっそ。効果で割られる時も同等の衝撃かよ」
「辛いでしょう?私と戦った他の人もとても苦しそうだったわ。だから、出来るだけ早く死なせてあげるわ。ガルダーラ、アタック」
再びそれは翼を広げそして動き出す。もはやそれは神ではない。悪魔にも見えたそれは幸輝のライフを砕く。
「はぁ…はた迷惑な鳥も居たもんだ…」
「マウチューもアタック」
「ライフだ。持ってけ」
「ターンエンド。あなたの命、あと何ターン持つかしら?」
「少なくともこのバトルが終わるまでは続くさ。コマンド・コリー召喚」
オープンされたのはアルテミスの大樹神殿、アルテミックシールド、ゴットシーカー・ネガズボック
「ネガズボックを召喚、召喚時効果発揮。6枚オープン、その中の化身、界徒を持つスピリットカードを手札に加える。俺は月天神獣ファナティック・エルクを手札に加える」
「フフ、無駄よ。コストの低いカードを加えて召喚するのが一番だったわね。だって、あなたに次のターンは来ないもの」
「……。バーストを張り替える。闇輝石六将 機械獣神フェンリグを破棄しバーストをセット。ターンエンド」
「このままアタックステップに入るわ。ガルダーラでアタック。そしてフラッシュタイミング、超・十二神皇ゲイル・フェニックスZ 雷神速召喚。これで貴方のライフ全てを砕ききるわ。さぁ覚悟しなさいな」
「ああ、そうだな。恐ろしいカードだ。だから……凍れ」
フィールドが突然冷気を纏う。それは幸輝のバーストゾーンから発せられるものだった。
「凍れ。二度と目の前に現れるな。氷河の神皇アバランシュ・バイソンtype-0をコマンド・コリーに煌臨する」
この口上も何度目だろうか。どれだけ追い詰められた状況もこのカードがあるから余裕を持てる。どんなに辛くても…………。
「効果を発揮。お前のスピリット3体をデッキの下に戻す」
「そんなカードがあったなんて……。ターンエンドよ」
「スタートステップ」
ブロッカーは0こちらのフィールドには三体のスピリットがいる。残り二体を召喚すれば一応勝ちは見える。しかしそう簡単に終わる気がしない。どうするべきか…いや、アルテミスの効果も使えるんだ。ここは一度攻めるべきだ。
「月の加護が全てを護る。今ここに来たれ、月天神獣ファナティック・エルク召喚。そのままアタックステップへ移行する。ファナティック・エルクでアタック」
その声と共にそれは歩きだす。それは女神の加護を授かっていた。
「アルテミスの神域の効果により。ファナティック・エルクはブロックされず、そして白のシンボルを追加する」
「そんな効果が!?」
「このアタックは?」
「……ソウルコアとライフで受けるわ。………ぐっあああっ」
ソウルコアとは魂を形に表したような物だ。それを命として代用しそして砕かれればその痛みは語るまでもないだろう。想像を絶する痛みが彼女を襲う。
「……。コマンド・コリーでアタック」
「あー、あが…はぁ……。フラッシュ、タイミングッ!卯の十二神皇ミストラル・ビットを召喚。さらに重ねて、煌天凰ジオ・シルフィード煌臨。効果で煌臨を持つカード3枚までを召喚し手札を破棄して貴方の手札と同じ枚数ドローするわ」
「まだそんなカードが残ってたか…」
「風兎の神皇アニマ・ビット、雷速の神皇ゲイル・フェニックスV、起源神皇龍ダイオリジン召喚」
この状況でのダイオリジンは幸輝にとって非常にまずいカードだった。効果こそ発動しないが単純にBPが高く、そして幸輝は今バウンス効果を持つカードを手札に持っていない。
「チッ、ターンエンド」
「まだまだここからよ。 VをLv2に上げてアタック。煌飛翔発揮、2コスト支払い回復。さらにネガズボックを疲労させる」
「……使うしかないか。アルテミスの神技使用。このバトルの間、アタックではライフは減らない。その攻撃はライフで受ける」
「くそ、ターンエンド」
「さて……と」
一息つく。ボイドからコアが送られてくる。そしてデッキに手をかざす。今の手札では勝てないどころか負けてしまう。アルテミスの神域を使い続ければいつかはライフを削りきれるだろう。しかしそのためには耐える必要がある。そのためのカードが来ないことには何も始まらない。いや、全てが終わるのだ。そっと瞳を閉じる。ふとお節介な応援が聞こえた気がした。死際の走馬灯とやらが始まったのだろうか?幸輝はドローしたカードを確認するために瞳を開く。
「はん、どうりでな。お節介な友人を持つと困ったもんだよ」
「何を引いたのかしら?」
「なぁに、ただの形見だ。特別だ。見せてやるよ
生へ誘う案内人 もう一度俺に力を もう一度俺の前に現れろ 道化神トリックスターを召喚」
誰が予想しただろうか。一度は死した道化姫が神へと昇華した姿。その効果は手札、手元のカード全てを除外し新たに4枚ドローするという効果だ。1枚、2枚とドローしていく。そこには勝利に必要なカードが揃っていた。
「よし、来たな。バーストセットネガズボック召喚。ケリュネイアーを手札に加える。ターンエンドだ」
「こんどこそ終わらせてあげるわ。全員のLvを上げてVでアタック」
「バースト発動だ」
「く…またあれか」
「ご名答。氷河の神皇アバランシュ・バイソンtype-0をネガズボックに煌臨する。V、ダイオリジン、ジオ・シルフィードを返す。ついでだ。フラッシュタイミング、シールドコングのアクセルを使う。アタックステップを終了して貰うぞ」
「ターンエンド」
「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、メインステップ。白夜の宝剣ミッドナイト・サンをファナティック・エルクに合体。アタックステップ、アルテミスの神域でファナティック・エルクを指定。ファナティック・エルクでアタック。シンボルが増えるのでこれでトリプルシンボルのアタック」
「ライフで受ける」
一度に3つライフを削られる。その痛みを想像できるだろうか?例えるなら体の三ヶ所を同時に潰され再起不能にされる状態だ。それほどの痛みを受けても尚、ここでは意識を手放すことは許されない。終わらぬ戦い。終われば全てが終わる。それこそがこの戦いだ。悲しいことにここに立つ限りは意識を手放すこともできないが痛みや苦しみによって廃人になるような事もない。意識も理性もはっきりとした状態で痛みと死に向き合うのだ。
「バイソンでアタック」
「あああ……痛い、痛い……やめて……もうやめて!!!!」
「ブロックか、ライフか。選べ」
「もう、痛いのは嫌!嫌なの!手札、手札見てみてよ!防げるカードなんて何もないじゃない!」
カードばらまきながら彼女はそう叫んだ。溢れ出す涙と恐怖を隠す余裕など既に無かった。そのカードの中に幸輝はこの場面を覆せるカードを見つけることはできなかった。
「ライフ!ライフよ!ねぇ!はやく、はやく殺してよ!ねぇ!!!」
彼女の最後のライフを無慈悲にも砕く。その獣に意志はあったのだろうか?それはわかるはずもない。
彼女の死体は涙で最初の余裕を微塵も感じることができない有様だった。目に手をかざし幸輝はその場を立ち去った。
次の獲物を探す為に