普段と変わらぬ街並み。しかしその中のたった六人の若者にとっとては、いつ死ぬかもわからない戦場だった。参加者に与えられた条件は四つ。一つ目は全員には能力を有するカード一枚が配られる事。二つ目はそれらを手段を問わずに奪い、全て集めること。三つ目は勝者には願いを叶える権利を与える事。そして最後に、バトスピで勝敗を決めた時にのみ、敗者のライフと魂は連動する事。これらが参加者が最初に神に与えられる知識だ。それぞれがそれぞれの願いの為に誰かを殺しきるその瞬間まで、このゲームは終わらないであろう。
時は深夜。誰しもが静まり返るこの場所で一人の男が様子を伺っていた。この男はこのゲームに選ばれた者ではない。しかしこのゲームの存在を知る男である。それ故男は参加者からカードを奪うことを目的としている。今狙っているのは赤き者。寮生活の高校生だ。実はこの男、もう既に後がないのである。裏社会に興味本位で首を突っ込み、そして命を狙われている。願いは勿論現状の解決であろう。寮という事もあり男は中々行動に移せなかった。何せ女子寮の警備は厳重だ。そして窓を覗いてもそこにいるはずの者は見えない。しかし遂にチャンスが舞い込んで来たのだ。出た、ついに外に出たのだ。
「フヒヒ、仕掛けたかいがあったぜ…待ってろよ赤きカード!今俺の物にしてやるからなぁ」
そう言うと赤き者の場所へ駆け寄る。そして、赤き者を押し倒した。顔立ちはかなり良い。このままあるいは…等と考えつつもまずは彼女のカードを探す。しかし異変に気付いたのだ。無い、感触が無い。感触も無く倒れこんだのだ。なにより自分がすり抜けてる事に気付いた。
「はぁ、やっぱりか」
少し離れた所から声が聞こえた。おそらく赤き者だろう。
「くそっ、てめぇ何をしやがった!」
「さぁ?なんだと思いますか?」
その声と共に彼女の姿は消えたのだ。正確に言えば消えたように見えるだけであろう。しかし男には状況を把握しきれずに固まってしまった。そのほんの一瞬の出来事だったのかもしれない。
肉を引きちぎる音と感触と痛み。男は首もとの激痛をこらえ察した。自分はここで終わると。男の敗因は恐らくはこのゲームの参加者を甘く見ていた事だろう。一人の少女に自分が殺される筈がない。そう高を括っていたのだろう。しかし現実は非情な物で、願いを叶えるチャンスと共にいつ命を襲われるかわからない状況な上に他の参加者も殺さねばならない参加者達の心は、このゲームが始まった時から汚れきっていた。参加者が信じられるのは二つだけ。自分と自分に与えられたこのカードのみ。
「……次の相手は不意討ちじゃ無理かもしれない。次はバトルしないといけないかもしれない。よろしくねアポローン……お願いね?私の相棒、超神星龍ジークヴルム・ノヴァ」
「ねぇねぇ知ってる?昨日の事件。なんでも男の人が死んでたのに何も証拠が残ってないらしいよ」
「しかも寮の近くなんでしょ?海も気を付けてよ?」
「うん。気を付けるよ」
ゲームの参加者が誰かを殺した時、それは神の権限により、直接見られない限り証拠となるものは全てこの世界から消え去る。勿論ゲームに関係ある場合のみだが。そして今クラスの中でもっぱら話題になっている事件、それの主犯がここにはいた。
七星 海、それが彼女の名だ。明るい性格でクラスの人気者。そんな彼女がつい数時間前、一人の人間を殺めていたのだ。このゲームは参加者の六人の他に百人にのみゲームの詳細が教えられている。これを参加者はあの日から二日経ってから伝えられた。おそらくなんの能力も持たない百人への救済措置、言わばハンデであろう。その知らせを受けた海はすぐに突然の自分へのストーカー行為に納得した。だからこそ対策したのだ。
(これで、最高でも残り百五人。まだまだ多いな…でも……)
笑顔の裏では次はどのようにして迫り来る相手を殺そうかと考えていた。最早彼女は今までの生活には戻れないであろう。
放課後、彼女は今バイト先にいる。こんな状況ではあるがバイトをしないと生活が厳しいのは事実である。襲ってきた者から奪うというのも考えてみたがそれでは安定しない。しかし参加者は人気者にでもなった気分になれる。一人をどうにかしてもまた次が来る。次も不意討ちでどうにかなるか?隠密行動を心掛けるべきか?それともバトルを強いられる相手か?それを見極めなければならない。
「……いらっしゃいませ。何かご用でしょうか?」
「昨日の一見は見ていた。俺は百人の中の一人だ。覚悟しておけ」
「………望む所よ」
男はニヤッと笑うとその場を後にした。恐らくはどこかで監視してるだろう。一気に緊張が高まる。自分の戦い方を早速誰かに見られていた。他に何人に見られていたか?あの男は何故わざわざ目の前に現れたのか?罠の可能性はないだろうか?罠だとしたらそれはどのような物なのか。様々な思考が交差する。気付けばもう勤務時間も終わっていた。寮へ帰宅している途中、バイト先で現れた男が姿を表した。
「よぉ、今帰りかい?一つ相談なんだが…」
男はゆっくりと話始めた。ポケットに入れていた手を出しながら彼はこう続けた。
「これでどうにかしても良いんだがよ?するとどっちかは死ぬわけだ。後味悪いよなぁ?どうだ?ここは一つ俺にそのカードを渡して元の生活に戻らないかい?」
怪しくニヤリと笑うその姿はまるで悪戯を思い付いた子供に見えた。そう、その程度にしか映らなかったのだ。
「昨日のを見ていたならわかるでしょ?そんなのとっくに捨てました。私は、私の夢の為に貴方を殺します」
「フン、そうかいそうかい。悪いが俺も叶えたい夢があるんでな」
二人の姿は急に消えた。正確にはバトルフィールドへと姿を消したのだ。
「ではまず参加者に与えられた特権を披露しましょうね。大いなる空に君臨するは我らが光。創界神アポローンをデッキから直接配置」
「んな!?そんな馬鹿げた話があってたまるかよ!」
男は激怒した。当然であろう。キーカードの一枚が相手は最初から準備されているのだから。
「これが私達参加者に与えられたもう一つの能力。自分のカードを最初から配置できる。むしろこれこそがメインですから」
「………チッまぁ良い。発動前に終わらせてやるよ」
「じゃあまず神託発揮ね。えっと、レガリア、ジークヴルム、アスカルディア!コア3つ乗せてスタート」
こうして海の先攻によりバトルは始まった。海は一月幼神ディアヌ・キッズを召喚、オープンしたのはリーディングジーク、超神星龍ジークヴルム・ノヴァ、滅神星龍ダークヴルムノヴァ、天槍の勇者アーク。ジークヴルム・ノヴァを指定し手札に加えた。
「はん、早速キーカードかい。まぁ良いさ。魂鬼、シキツル召喚」
男は紫を主軸とした速攻タイプのデッキだ。男は二枚目のシキツルを召喚しそのままフルアタックを仕掛けて来た。シキツルのアタックをディアヌキッズでブロックするが他二体はライフで受ける形になり海のターンとなった
「くぅ、速攻デッキか……とりあえずどうにかして耐えなきゃ……ドローステップ」
「お探しのカードは来たかい?ハハッ」
「うるさい!ちょっと黙って!今考えてるんだから!」
「あーそーかいそーかい!ハハハハッ考えても無駄だよ無駄ぁ!」
煽るように男は叫ぶ。実際男には敗北の未来が見えていない。勝てる。そう確信さえしている。
「いーや!行ける!勝てる!私とこの子ならね!ライトブレイドラを召喚。そしてディアヌキッズでアタック」
暫くの沈黙の後彼女は自信ありげに叫んだ。よほど自信があるのだろう。
「はん、そんな小型だけでどうともならねぇよ」
「フラッシュタイミングってね!魔界より現れるは竜種の王が一体 弱者の魂を喰らい君臨する。魔界皇龍ダークヴルム・レガリア煌臨」
地より底から禍禍しい何かが飛び出し、それはディアヌキッズに変わりその場に現れる。気付けば目の前にいたのは魔界を統べる一体の魔物であった。
「レガリアの効果でコアが一つしか乗っていないスピリットを全て破壊。つまり全破壊だよ」
「チッんなもん持ってやがったか。まぁ良いさ次で決める」
「レガリアがスピリットを破壊したからアポローンの神域でライフ一つをリザーブに置くよ」
「あぁ、持ってけ持ってけ。ライフだよぉ!」
続けてアタックしてきたライトブレイドラの攻撃も男はライフで受けターンが返ってきた。
「フン、フルアタックして良かったのかい?魂鬼、陰陽童、ガスミミズク召喚フルアタックで終いだ」
「って、思うじゃないですか。違うんですよねこれが」
負けそうな者の顔では無かった。それは勝利を確信した顔だった。
「レガリアはとても良い子なんですよ。コスト3か4のスピリットに煌臨したときはソウルコアをトラッシュに置かずに来てくれるんです。で、ディアヌキッズは3コスト。そして私の手札にはまだこの子がいる」
力強く出されたそのカードは男を絶望させるには丁度良かった。あぁ、そうだ。男の敗因はカードの効果を確認しない事かもしれない。いや、このバトルシステムでは無理かもしれないが。
「全ての希望、全ての光。私の声に応え現れし救世主!超神星龍ジークヴルムノヴァをレガリアに煌臨」
それは光であった。それは希望であった。天より降りた光は魔界の王を包み込んだ。目の前に現れたのは偉大なる救世主にして神の領域まですら達した龍である。その炎は全てを癒し、そして全てを破壊する。
「まだまだ行くよ!ヴルムと名の付くスピリットに煌臨したからライフを回復。その攻撃はライフで受けるよ」
「クソッ!ターンエンドだ。あんなの相手にしてられるか!」
ターンを開始しドローステップとコアステップを行う。しかしこれは最早意味のない行動である。メインステップでノヴァのLvが3に到達した。次に彼女はこう言うであろう。そう
「超神星龍ジークヴルムノヴァでアタック」
雄叫びが聞こえる。羽ばたく音が聞こえる。目の前にはあまりにも強大なソレがそこにはいた。
「ノヴァの効果を発揮。BP20000まで相手のスピリットを好きなだけ破壊。つまり全破壊だよ」
その炎は彼女にとっては希望の炎。男にとっては絶望の炎になったいた。止める術はない。ここまで来てしまえば彼女にすらこの結果は変えられない。
「アポローンの神域でライフをリザーブに置くよ。そしてこのアタックは勿論」
「あぁ、ここで死ぬのか。そりゃあそうだな。産まれて此の方良いことが一つもねぇわ。負けるよなぁそりゃ」
その後の事は海もよくわかっていない。男の死体はそこには無かった。時間もバトル中は止まっていたのか時計を確認したが特に進んだ気配はない。もしかしたら夢だったのてはないかと思うほどに。不安になりアポローンの能力を使用する。その場に海の姿は見えなかった。ホッとして胸を撫で下ろす。海は寮へ向かって歩きだした。
