飛び出して出迎えてくれたエブリンは、赤いカールヘアーではつらつとした3歳の女の子。
彼女がここにいるはずがなかった事以外は、普通と異なる事は何一つ無い。
彼女の家族のリビングルームで訪問者とおしゃべりし、Pharrell Williams の“Happy.” という曲に合わせて彼女の足がくるくると回る。
⬇︎Pharrell Williams
彼女の姉ジョセフィンは脊髄性筋萎縮症第1型(SMA1)を患っていた。
それは、乳児を徐々に麻痺させる遺伝子疾患だ。
彼女は生後15ヶ月で亡くなった。
エブリンは予期せず授かった。
第2の悲劇が起こる確率は1/4であったが彼女の両親は出産する決断をした。
まもなくエブリンは2014年12月に産まれた。
夫妻は遺伝子検査により彼女も同じSMA1を患っている事を知り、打ちのめされた。
「私達は“彼女を可能な限り長く愛していく”という対処方法を身につけていた。」と彼女の父親Milan Villarrealは言った。
しかしその晩インターネットで必死に検索し、彼らはオハイオ州での臨床試験について知り、Eメールを送信した。
生後8週目の時、エブリンは決定的に欠乏しているタンパク質を体内に産生するための遺伝子治療を受けた。
そして、今、他の健康な幼児とさほど変わりない姿で彼女はここにいる。
しかしながら、彼女は太ももが弱く正常に走ったり飛び跳ねたりする事ができない。
彼女は早歩きやダンス、文字をなぞる事、スポンジのブロックを投げる事、小さな椅子を運ぶ事、そして彼女の母親エレナの膝に登る事はできる。
夫妻は第一子を失った事による傷心の後で、エブリンがハイハイし、歩き、話した事を驚いて見ていた。
「奇跡そのものだった。成し遂げていく事の全てがお祝いだった。どんな些細な事でも彼女が何かを出来るようになる度に私達はワインのボトルを開けて祝福した。」と父親のMilanは言った。
エブリンが参加した臨床試験の結果は、遺伝子治療研究者達を驚かせるとともに、かつては最も荒れていた分野のうちの一つにおいて、最も劇的な成功を記録した。
2歳までに亡くなると考えられていた、SMA1を患う15人の乳児は全員、20ヶ月以上(1歳8ヶ月)まで生存し、その殆どは体を起こすことができる。
今週のThe New England Journal of Medicine (NEJM).の報告によると、1人の男児はエブリンのように歩いている。
SMA1に対して最近承認された薬(恐らく、Spinraza(→次記事)のこと❓…でしょうか)は同じような効果を得られたが、それは4ヶ月毎に脊柱へ注入する必要がある。
この遺伝子治療の処置は一度きりとされ、そして静脈への注射という簡単な方法だ。
「私は致命的な疾患における遺伝子治療において、これほど良い結果を今までに見た事がない。」と最近の臨床試験を率いたコロンブスにあるNationwide Children’s HospitalのJerry Mendellは言う。
このニュースは、遺伝子治療の飛躍を運命付けた。
先月、米国食品医薬品局(FDA)の諮問委員会により承認された、遺伝子疾患に対するかつてない処置は米国政府が遺伝子疾患に対して承認した初めての遺伝子治療となる。
先月、ある組織がNEJM(The New England Journal of Medicine:200年以上にわたる歴史を有し、世界でもっとも権威ある週刊総合医学雑誌の一つ)において、遺伝子修復された患者自身の幹細胞を移植することにより悲惨な脳の病気を止めることができると報告した。
ヨーロッパで市場に出ている遺伝子治療は、致命的な免疫不全を患う子供を治療した。そして他の開発中の物は、血友病患者が血液凝固剤から離脱するのを手助けした。
しかしSMA1における研究は、静脈に注入された新型ベクター(治療用遺伝子を運ぶウィルスの殻)の、いわゆる“血液脳関門”を通過して中枢神経系へ積載物を運ぶ事ができるという能力を証明した事により、新たな道を切り拓いた。
過去において、神経疾患への遺伝子治療による試みは、大抵冴えない結果に終わっていた。
また、時にはベクターを届ける為に患者の頭蓋骨にドリルで穴をあけねばならなかった。今科学者たちは、中枢神経系に遺伝子治療を及ばせるための明確な成功を収めた。この結果はウィルスが血流に乗って体内を巡る事が、遺伝子治療の臨床試験に参加した青年が死亡した18年前の(この分野に混乱を投じた)事例のように別の悲劇を引き起こすという恐れを払拭した。
この新たな治療法の明白な安全性と成功は、小児の神経又は筋肉における希少疾患に対する治療として、静脈又は脊椎へ注入する方法で遺伝子治療を採用しようとする他の研究者達を勇気付けた。
そして、それは成人における一般的な障害であるパーキンソン病においてさえも。
「この事は、とても注意深かった分野において全く新しい概念を幕開けさせた。」とFederico Mingozziは言った。
彼は最近ペンシルベニアのフィラデルフィアにあるSpark Therapeuticsという遺伝子治療の会社の科学分野での主任フランスの非営利…
「人々は、これを幅広く多くの人や多くの病気を包含し得る新型の薬の画期的な出来事として振り返るであろう。」とチャペルヒルのノースカロライナ(UNC)大学の遺伝子治療研究者スティーブン・グレイは付け加える。
最初、動物による研究段階であった時、神経疾患を遺伝子治療により治療する事は簡単だと考えられていた。
1990年代には、研究者達は特定の代謝性障害をもつように設計されたマウスの新生児の脳に、欠損する遺伝子を運ぶウィルス・ベクターを注射した。
その結果は「衝撃的な程、大変良かった。」とミズーリ州セントルイスにあるワシントン医科大学のマーク・サンズは振り返る。
「しかし、マウスの脳は小さい」と彼は付け加える。
「0.5gの重さであるマウスの脳から1000gの子供の脳までいかにして、拡大させるかという事が挑戦だった。比率として2000倍の違いだ。どのようにそれを働かせるか。」
研究者達はそれができない事が判明した。
1996年、チームはカナバン病という脳疾患を患う2人の子供の頭に治療用の遺伝子を含む十分な粒子を注射した。
この研究は論争の的だった。そして患者も助からなかった。
同じ研究者の内の数名は後に、頭蓋骨の6ヶ所に穴を開けアデノ随伴ウィルス(AAV)として知られる、明らかに無害なウィルスから作られるベクターを注射する方法により、もう13名のカナバン病患者を治療した。
同じようなAAVの臨床試験は、小児期の遺伝子異常による深刻な脳障害であるバッテン病のために行われた。
しかし、どちらの治療も病気を遅らせるのにそれほど役立たなかった。
2種類の脳内物質の欠乏により深刻な障害を負った台湾人の子供にただ一回の臨床試験を行った研究者達は、意義深い利益を報告した。
しかし、他の疾患における結果は曖昧だった。
猿での研究は、AAVベクターが注射された場所から遠くまで広まらなかった事を示唆していたので、脳細胞は新たな遺伝子を充分に受け取る事ができなかったようだ。
「様々な勇敢な努力を行った。しかし、科学は理想的ではなかった。」とグレイは言う。
全く違うアプローチが神経疾患において唯一、堅実な大当たりをもたらした。
研究者達は患者から血液幹細胞を抽出し、修正されたHIVウィルスを使って新たな遺伝子を結合させて、患者の体内に細胞を戻した。
それから、それらの細胞の内のいくつかは脳に移動し、必要とされるタンパク質を産生するグリア細胞と呼ばれるニューロンを支持する細胞を形成した。
15人の男児において、NEJMで先月発表された研究によると、この“ex vivo(生体外の)”遺伝子治療は、副腎脳白質ジストロフィー(ALD)と呼ばれ、ニューロン周辺のミエリン鞘を破壊してしまう致命的疾患の進行をストップさせた。
イタリアの遺伝子治療研究者達は、脳疾患である異染色性白質萎縮症の若い患者に対して行われた同様の治療が、これに匹敵する結果をもたらしたと報告した。
しかし、体外での遺伝子治療は、分泌タンパク質の欠乏に起因する脳疾患において、最もよく機能する。
移植された細胞は、他の神経細胞がピックアップするために分子を攪拌する事によって、代わりに機能する。
多くの疾患にとって、欠損するタンパク質は細胞の中で動く。
そしてそれを必要とする全ての細胞は、ベクターを受け取る必要がある。
(原文の方はまだまだ続きますが、力尽きましたすみません)
"Dravet Syndrome Foundation"より
アップロード 日時 : 2018/08/22