偉大な日本の経営者を挙げろと言われたら誰を挙げますか。多くの人が松下幸之助氏や本田総一郎氏を上げると思います。かれらは日本屈指の企業を育て上げた経営の神様です。そして、彼らは経営の神様であると同時に、人間についても驚くほどの洞察力を持っています。それらは「語録」という形で出版されています。一度読んで見るとよいでしょう。
Speechについても同じです。自分Topicについてより深く理解するということは、その周りを取り巻く人間をより深く洞察するということなのです。しかし、残念ながら、多くのSpeaker達は自分がテーマとしてあげている事柄に関わる人達の事を何も知りません。本や雑誌に載っていること以外は何も知らないのです。
こういったSpeechにはある1つの共通点があります。それはKey Wordが抽象的で曖昧なものになっているという事です。例えば、「情報が少ないために問題が起こっている」、「多くの困難を乗り越えて幸福になる」、「十分に相互理解がはかれたら問題は解決する」などがそうです。テーマになっている問題に対して、実地の取材などを怠っているため、所詮他人事のような抽象的な言葉に終始してしまうのです。
こういう状態で大会にやってくるとQAで次々と馬脚をあらわされてしまいます。「それではどんな情報が必要なのですか」、「多くの困難とは何で、その後の喜びとはどんなものですか」、「十分な相互理解とは具体的に何ですか」などと聞くと、「うーん」と唸ったまま黙ってしまいます。その問題を取り巻く人達と深く接していれば、具体例はいくらでも出せるのに、そうしていないから黙ってしまうのです。その時点でもう優勝は出来ません。
世の中には様々な苦難を抱えた人達がいて、Speakerはそういう難問題をテーマにします。しかし、実際にその人達の生の声を聞き、その人達の生活に触れることなしに問題の具体的な詳細を見極めることなど出来ません。見極めることが出来ないから、具体的な情景がSpeechに浮かんできません。浮かんでこないから、誰がやっても同じ抽象的なSpeechで終わってしまうのです。
その人達の立場に立つ第一歩は、その人達のことを理解するという事です。人間の事を知ることが出来なければ、熱い思いは沸いてこないのです。
『勝利のために20』
人間を知り、熱い思いをたぎらせる
キャッチボールをしていて受けたボールをあなたはどうしますか。受けたボールはすぐに相手に投げ返さなくてはなりません。そうしないと、キャッチボールが続かないのです。
コミュニケーションにしても、仕事にしても、受けたボールをすぐに返すことは大原則です。しかし、Speechとなると、ボールをどこかにしまってしまう人が非常に多いのです。
大会でコメントをしていると、ほとんど全員と言ってよいくらいのSpeakerが、「今度Rewriteが終わりましたらまたコメントを頂けませんか」という台詞を口にします。よほどひどい人で無い限り、私は時間があればその人のSpeechをもう一度見てアドバイスをしてあげたいと言います。ボールを投げたわけです。しかし、ボールがどこかに行ってしまうことが多いのです。
受けたボールをすぐに返さないということは、ボールが返ってくるのを待っている忙しい相手の時間を奪っているということです。また、ボールが返ってきたとしても、次の大会の超直前では、すでにボールを受け取る体勢をやめてしまっていますから、投げ返されたボールはデッドボールになります。素早くボールを投げ返すことによって、相手にどんどん時間をあげていかなくてはならないのです。
逆に、ボールをすぐに返してくれる人とは、次々と会話が広がって、その人のSpeechはどんどん良くなっていきます。一見すると何回もやり取りをすることは手間がかかるように見えますが、結局はすぐにボールを投げ返す方が、Speechの改良に要するトータルな時間は短くなるのです。
一方、「見てください」と言っておきながら、全く反応が無い人には、それだけで悪印象がついてしまいます。前の大会と次の大会でJudgeが同じだったときなどは、その時点でもう優勝の階段から転げ落ちてしまいます。
同じシーズンで2回目のSpeechというものは、改良前の9割よりも、改良後の1割が判断されて優勝するという例が少なくありません。ですから、自分が納得したコメントを噛み砕いて、すぐにボールを投げ返した人には、次の大会で優勝のチャンスが広がるのです。
『勝利のために19』
改良後の1割でチャンスを手にする
お蔭様でこんな私でも、年間に渡って様々な大学からレクチャーやジャッジをお願いされることがあります。レクチャーには本当に様々な人が参加してくれるのですが、「この子はイケルな」と思わせる人にはある共通点があります。それは、彼らは「必死にメモを取っている」ということです。
本当にこれから伸びていく人は、ただ単にメモを取っているのではありません。講師と阿吽の呼吸でメモを取るのです。聞くべきところはEye Contactをしっかりととり、メモを取っている最中にはじっくりと耳をすませながら話を聞いてくれます。レクチャーの中に3人でもそういう人がいると、こちらは安心して話を進めることが出来ます。
メモを取るということは考えるという事です。その講義やコメントの中で、何が自分の心に響いたのか、それをどういう風に応用することが出来るのかを考えながらメモを取っているのです。ただ単に感心して頷いている人には無い集中力を持っているのです。
私はいつも色々なところに筆記用具を入れています。それも数本持ち歩いています。ペンは無くなりやすいので常に在庫を抱えておく必要があるのです。紙にはありとあらゆる物を使います。メモ用紙が無い時は、レシートやティッシュに書くときもあります。先輩Judgeと飲みに行って面白いアイデアが浮かんだ時は、箸袋にメモしたこともありました。
私はJudgeに呼ばれた時、毎回それとなく主催者に、「未来のChief候補って誰なの」という事を聞きます。そしてその人のコメントを聞く態度をじっと観察します。
一見して容姿も華やかで、荒削りで豪快なことをSpeechにしている人は、Judgeの話も真剣に聞かず、メモも取らないことが多いです。そういう人が未来のChief候補とされているESSは、翌年必ずと言っていいほど低迷します。
逆にパッと見は地味でも、自分のSpeechを良くするために一生懸命メモを取る人が未来のChiefになるESSは、そこからどんどん飛躍していきます。そういうChiefがいるESSは様々なアイデアをどんどん蓄積していくからです。
本当に貴重なアイデアというのは、欲しいと思ったその瞬間に捉えないと自分の手からするりと零れ落ちてしまいます。「後でまとめておけばいいや」と思った瞬間、もうそのアイデアとはお別れなのです。
『勝利のために18』
本当に欲しいアイデアは、欲しいと思ったその瞬間に捉える
営業マンがお客様との関係を長期にわたって持続するためには何が必要でしょうか。それは、お客様にとっても営業マンにとっても相互に利益的なアイデアを提案してあげることです。一度はぼろ儲けの契約をもぎ取ったとしても、それが自分にとってもお客様にとっても利益を増加させるものでなければ、契約は単発で終わってしまいます。
Speechに関して言うと、「相互に利益的なアイデアこそ長続きする」という視点がほとんど見られないのは非常に残念です。例えば、「障害児と触れ合おう」とか「老人に対してボランティア活動をしよう」というのは、年間30本ほど登場するメジャーなTopicです。メジャーなものこそ独自の視点を加えることが出来れば評価も高いのですが、ほとんどの場合が似たり寄ったりの内容になってしまっています。
これらのSpeechに一貫してあるのは、「弱者は守られるべきだ」という思想です。しかし、それはあまりに当然のことなので、それだけではOriginalityがほとんどないのです。
それではOriginalityを加えるにはどうしたら良いのでしょうか。それは、弱者と触れ合い、助け合うことで、私達も彼らから何かを得ることが出来るという相互利益的な視点を付け加えることです。しかし、ほとんどのSpeechでは、「障害児の笑顔が何よりの励みです」とか「老人がありがとうと手を握ってくれたのはとても嬉しかったのです」といった、万人が思いつくような当たり前のことしか述べていないのです。
この様な言葉しか出てこないのは、そのSpeakerがボランティア活動などの表面しか捕らえていないことに起因すると思います。本当に深く彼らに接していたら、皆が思いつく当たり前のこと以外にも、自分の生活に響く何かを示すことが出来るはずです。
もう1つ重要な視点は、「彼らから学んだことをどの様に普段の生活に生かしているのか」というものです。彼らから貴重な何かを学んだとしても、それを普段の生活に生かすことが出来なければ、長続きしないのです。聴衆を引き付けることも出来ません。
弱者と接することの大切さは、以上の2つのステップを具体的に提示して初めて語れるものです。ちょっと単純に感動したといっても、他人は動いてくれないのです。
『勝利のために17』
学んだことは日常でも生かす
やり手の営業マンと普通の営業マンの違いはどこにあるのでしょうか。一番大きな違いは、既にお客さんとなってくれた人達から、新しい未開拓の白地のお客さんの情報を聞き出せるかどうかだと僕は思っています。
実はやり手の営業マンは自分の力だけですべての契約を取ってきているわけではありません。「30代で未婚の男性を探しているのですが」とお客さんに言うと、お客さんが知り合いの男性を連れてきてくれるのです。お客さんが営業マンの営業マンとして活躍してくれるのです。これも普段から既存のお客さんを大事にしていることの賜物なのでしょう。
Speechについても同じことがいえます。優勝を逃す人は、Topicが決まったにも関わらず、不明な点や不足している点があるといって、自分の殻に閉じこもってしまうのです。
実は図書館でいくら調べても出てこない情報というものは、0次情報であることが多いのです。0次情報とは活字になる前の情報のことです。その道の人に聞けばすぐ分かる情報のことをいいます。
不思議なもので、どうしても活字になっている資料が無かったり、どこに資料があるのか分からない時でも、達人に聞けばたちどころに問題が解決することがあるのです。
ここで重要なのは、「このネタはあの人に聞いても専門外だから分からないだろうな」などといって、情報を発信するのをやめてはいけないということです。何もあなたの知り合いが達人である必要は無いのです。あなたの知り合いの知り合いが達人である可能性を放棄してはいけません。
普段からあなたがきちん礼節を持って接している人達は、あなたが困っていると聞けば必ずあなたのために走り回ってくれます。あなたが自分のSpeechを発信することで、人の輪がどんどん広がり、かけがえのない財産を作ることが出来るのです。
自ら情報を発信するということは、他人の頭脳にリクエストを投げるという事です。素晴らしいSpeechを作るには、他人の頭脳をも利用することが必要なのです。
『勝利のために16』
他人の頭脳を利用する
