勝利のために32 情報の非対称性を埋める困難1 | Drunk on Speech

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このサイトは慶應義塾大学英語会Chief of Speechだった作者が、今まで学んできたこと・感じてきたことを公開しているものです。

大学生向けのエッセイを次々と公開していく予定です。どうかみなさんのSpeech作りの参考にしていただければと思います。


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私達が他者と取引をするときはいつも、「情報の非対称性」という困難な問題が付きまといます。「情報の非対称性」とはすなわち、ある物事に対して各人が持っている情報には差があるということです。代表的な例として医療サービスをあげることが出来るでしょう。医師は医学という非常に高度な情報を持ち合わせており、患者にはそれに匹敵する知識がありません。

ここで問題になるのは、情報の非対称性下では情報優位な者がモラルハザードを起こすということです。これは簡単に言ってしまえば、相手に知識がなければ自分本位の行動をとったとしてもばれにくいということを示しています。例えば、医師としては自分の利益を最大化したいがために、不必要に過剰な薬剤を患者に提供します。患者には知識がないので、本当にその薬が必要なのかどうかの判断がつけられません。結果として、医師の利益最優先行動は表面化しなくなってしまうのです。

ESS界では、このような「情報の非対称性」に対する解決策として、モニタリング(Monitoring)という手段が非常に安易に使われている気がしてなりません。ここでいうモニタリングとはすなわち、「相手が悪いことをしていないか観察する」ということです。実際に相手をどのように観察するかには様々な手段があるのですが、多くのSpeakerは「自分で観察する」という最も困難がつきまとう主張を繰り広げます

「医師のカルテを常に見せてもらおう」とか、「つぶれる銀行が続出するので、銀行の行動を常に私達が監視しましょう」といったSpeechを皆さんも一度は聞いたことがあると思います。しかし、カルテの内容など素人の私達が理解できるはずもないし、銀行の健全性を測ることなどはプロでも難しい問題です。

もう一度思い出してほしいのは、このような問題は相手との間に知識や情報の差があるからこそ起こっているのだということです。そのような状況下で、情報の非対称性という問題を放置したまま、「自分で相手を監視しましょう」というのは、ことの本質をまるで理解していないということを表しています。たやすく独力で相手の行動を監視することが出来たら、そもそもこのような問題自体が起こらないのです。ですから、自分で監視するという解決策はほぼ100%無意味なものとなります。

『勝利のために32』
自分では監視することなどできない