Q&Aセッションのときに、自分の意見をサポートしてくれているサポーティングマテリアル(具体例・引用・データなど)にけちがつくことがある。例えば、「そんなに急激に患者の数が増えているとは思えない。そのデータはおかしいのではないか」などといったものがそうだ。
すると多くの学生は壇上でしどろもどろになって何も答えられなくなってしまう。しかし、何度も言っているとおり、「サポーティングマテリアル=自分の意見を形を変えて繰り返すもの」という原則になぞらえてみれば、そうなってしまうのは自分の意見に自信がないということなのだ。よって、このようなそぶりを見せてしまった出場者に対して、私が本選審査員だったら大幅な減点を行う。
それではサポーティングマテリアルにけちがついたときに、どういう点に留意して答弁を行わなくてはならないのだろうか。以下に主たる戦術を記載しておく。
1)まず第一に、そのサポーティングマテリアルが中立的な立場の人間から述べられたものであることを言わなくてはならない。これが信頼性を勝ち取る上で何より重要だ。
例えば、「原子力発電所は安全である」という意見に対するサポーティングマテリアルを用意するとしよう。この出典が「東京電力科学研究所」であったりしたら最悪だ。現実に原子力発電所を操業している東京電力が、「原子力発電所は安全です」と言っても全く信頼できない。
自分が引用しているマテリアルは中立的な主体によって述べられたものである点をまず強調しよう。逆に中立ではない主体によるサポーティングマテリアルは自分のSpeechの中に絶対に入れてはいけない。Q&Aで格好の餌食にされて、その時点でもう優勝は無いだろう。
2)次に、そのマテリアルの生みの親はその問題に対して非常に精通していて、その世界ではとても権威のある人だということも述べておくと良いだろう。過去の論文がよく引用されるとか、その問題に関しては国内だけでなく海外でも注目されていることなどを答弁できれば効果的だ。
図書館の中で適当に書物をぱくってSpeechを作ることしか能の無い人には想像もつかないだろうが、まともなSpeechを作って優勝している人は、サポーティングマテリアルの主体の経歴やその他の著作物なども調査している。さらに、少しでも必要があればコンタクトを取って彼らとディスカッションを重ねている。そのため、彼らのこの問題に対する精通度や周りからの評価などに対しても、具体的な話を持ってそれを論じることができる。
これらのことは社会に出たら当然のことだ。出典先についてはダイレクトな情報以外にも様々な周辺情報もキャッチするように努めるし、相手が許してくれるのであればアポを取って直接会いに行く。だから私はSpeechのアドバイスを学生に送る際は、こうした調査活動も積極的に行うようにと言う。いい加減、「図書館でぱくって→形だけSpeechにして→馬脚を現して→優勝できない」というESS Speech的欺瞞の世界から抜け出さなくてはならない。そんな中身の無いことを重ねて一体何になるというのだ?
ちなみに、私がこうしたアドバイスを行った後、真面目な学生はきちんと実行して優勝するし、不真面目な学生は何だかんだ言ってうやむやにして優勝カップを取り逃がす。きっと社会に出ても同じ事を繰り返すのだろう。
3)そして、その権威ある主体が行った調査方法は万全なものであることをアピールする。サンプル数・対象年齢・対象地域・対象期間などが必要かつ十分である点を主張するのだ。
そのためには、自分が使用したサポーティングマテリアルがどのように形作られたのかを事前にきちんと調査しなくてはならない。マテリアルの字面だけぱくってSpeechに引用している限り、こうした答弁は行えないだろう。
4)さらに、前回のエッセイで述べたとおり、「最後は自分の意見を形を繰り返して」答弁を終わる。サポーティングマテリアルにけちがついたから、その潔白だけ示して「ハイ終わり」とやるのは出来の悪いSpeakerのやることである。そうではなくて、自分の意見を形を変えて繰り返して終わることで、Speechを聞いている全員が君の意見に納得感を持つだろう。
この場合なら、
「以上より、サポーティングマテリアルは必要十分で全くけちのつくようなものではなかった」
とだけ言って終わるのではダメだ。そうではなくて、さらに、
「サポーティングマテリアルは必要十分で全くけちのつくようなものではなかった。それなのに通常の感覚と照らし合わせてみて自分の意見が異常に見えてしまうのは、事態が質問者の想像以上に急速に悪化しているからだ」
ということを述べてることができる。
そして、
「それゆえに自分の提案していることを今すぐ実行しなくてはならない」
と結べば、ケチをつけようと試みたQが出たことで、却って自分の意見の頑強さを示すことができるのだ。
例えば、「いじめの件数がこんなに多いはずが無い」とか、「自殺者がこんなにいるはずが無い」とか、「こんなにお金の無駄遣いが行われているわけが無い」とか、Qのバリエーションを挙げればきりが無い。
一見すると、サポーティングマテリアルにけちがつくQは恐ろしいものだ。しかし、マテリアル自体に関する重点的な調査を重ねることで、自分の意見に自信を持つにまで至っている人にとっては、こうしたQは自分の主張の正当性を再度アピールすることが出来るのでかえってありがたいのだ。
その境地に至ることが出来るかどうかは、真面目にSpeechを作ってきたかどうかにかかっている。何度も言うが、「図書館だけ→PHCSのお手盛り」という馬鹿げた手順でSpeechを作っている限り、そのゴールまでたどり着くことは絶対に不可能だろう。


