クリストバルデの赤い鳥。
それは正しくは鳥の名ではない。
その名はララフレン家の歴代の姫君に
代々受け継がれて来た、赤い宝石の指輪。
カ・ラソーユ歴の半ば
ララフレン家の没落と共に
その名は歴史から消え去って久しい。
ぼくがその名を知ったのは
王立可学アカデミーの収蔵品目録の中に
その名を見つけ、ふとした興味をおぼえたからだ
もっとも可学アカデミーの収蔵とは名ばかりで、
主な目的は封印なのだか。
しらべてみると曰く付きの品で
出所もここに収まった経緯もはっきりとしない。
そこで、まあ、ぼくとしては
なんとなく
この赤い鳥に興味をもったワケだ。
まず、この指輪の名に冠する
クリストバルデとは古代ロニア語で
クリストートは生と死をあらわし、
バルディーヌは循環わあらわす
これらを繋げて語られる言葉は
ざんねんながら見つけられなかったが
何らかのサイクルをあらわす言葉ではなかろうか。
赤い鳥は宗教的に見て
神の使いとして、しばしば神話で語られる
赤は魔力をあらわす。
また赤を火と見るならば
それは不死鳥とも考えられる。
生と死の循環と
たしかに合致する見解ではあるけれども。
これだけでは
材料不足は否めない。
そこで、まあ、ぼくとしては
なんとなく
赤い鳥をこの目で見たくなったワケだ。
そうなるとまあ
可学アカデミーの収蔵庫へ
出かけて行かなくてはならないのだが
まぁ普通にたのんで見た所、門前払いをくらった。
まぁしかたないのだ。
なにせここは魔力の宝庫、
古代のぶっそうな品がごろごろしてる
目的は収蔵ではなく封印なのだ。
まぁなんにでも抜け道はあるもので
この大学で
あまりほめられない学生時代をすごしたぼくには
在学中に、この古い大学校内に
かつて使われていた隠された扉の
所在を知ることとなった。
それはぼくら仲間内だけの
知られざる知識として使われていた。
何に使ったのかはご想像におまかせするが。
ぼくらの卒業と共にそれらの知識は
受けつがれる事なく消えたのだか。
ぼくらは収蔵庫からあふれる
魔力を嫌ってけっしてそこには近づかなかった。
あの頃はまだ若かったのだ
もっとも
この年になってあえて収蔵庫に
踏み入ろうとするのは
このガラクタ発明家ぐらいだろうけど。
なんにせよ危険なのだ。
放課後の夕暮れに染まる校舎
すれちがう女学生にさりげなく挨拶をかわし
建築科のアトリエ棟の三階
ちょうど廊下のつきあたりを曲った
そこに並ぶ古いロッカーの一つ。
「ツクール専用」とマジックで書かれ
赤く塗られたロッカー。
そして鍵はかかったままだ。
学生時代の思い出があふれるが
感傷に浸っている時間もない。
すばやく鍵穴に鍵を入れ回す。
もちろん鍵はカチリと開く。
ロッカーを開けるとそこは一見
普通のロッカーなのだが
「ナルニア」と呪文を唱えると
奥の扉が開く仕掛けなのだ。
ちなみに「ナルニア」はぼくのアイデアではない。
ぼくはあの物語はどうもニガテなのだ。
「指輪」もまたしかり。
さてここからは
昔の思い出がたよりだ。
どんな仕掛けか魔法かはわからないが
この隠された通路は
先が見通せるぐらいまでは明るく
明かりが通行人の一歩手前をついて来る。
通路をどんどん下って行くと
むっとする魔力を感じで立ち止まる。
思い出した。この先の交叉賂を
左手に進むと収蔵庫だ。
にしてもこの感覚は何度味わっても
なれるものではないな。
魔力は基本的にはだれにでもあるものだが
ここにあるものは
それらをより巨大にするために
どんな手を使ったのか
あえて考えたくないような方法で編出された
歴史の大罪の集大成なのだ。
魔力の使い方から見れば左道。
黒とか灰色の。
それらは現在では禁術とされて
使うのは一部のバカ連中だけなのだが
ここには壊すことすらできない
それらの品々が山となっているのだ。
やばい。やばい。
めあての赤い鳥は割と簡単に見つかった。
その魔力の放出量が尋常ではないのだ。
これでは周囲の
できの悪い魔力では手出しできない。
品物に込められた魔力にも
知性や人格が込められた品もあるのだ。
それらの品は魔力で人を引きつけ
自らを所有させて
その人心をあやつるのだ。
ぼくは魔力を警戒しつつ
その指輪を観察する。
さすがは名家ララフレン家に伝わる品。
指輪の紋章には赤い鳥が羽を広げた姿が描かれていて。
赤い宝石が鳥の瞳となって輝いている。
これは美しい品だ。
サイズ的に女性用なので
ぼくの指にははまりそうこないが。
小指なら。うーんダメだな。
ぼくは時間を忘れて魅入ってしまった。
魔力に同調したのかもしれないが
うっすらと指輪の周囲に見えてくるものがある。
アッ!!
「これは!」
信じられないが
指輪の所有者、美しい姫の姿が見える。
いや、指輪に所有されているのか。
司祭でもつれてくれば
会話もできたかもしれないが
何かを訴えるような目で見つめられてもなぁ。
待てよ!
そうか、だとしたら罪な指輪だ。
この指輪はララフレン家で代々受け継げられて来た指輪。
これは代々受け継がれて来た
知識を引き継ぐための指輪なんだ。
死してもなおララフレン家の知識としてのこるために
この指輪の中に魂を封じ込めたんだ。
受け継がれるはずのララフレン家なき後も
この人の魂はまだ
この指輪に封じ込められたままなんだ。
時は巡るけど
還らないものもある。
ぼくはなぜだかわからないけど
・・・その人の指から指輪を引き抜いた。
それからはどうなったのかわからない。
目ざめてめてみると
指輪だけがのこされていた。
もう指輪から魔力は感じられなかった。
赤い鳥はぼくの手をすりぬけて消えた。
そうさ、
籠の鳥はぼくのこのみではない。
さて、かえろう。