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緊張した顔で
手術室から出ていく若い医者の
後ろで
僕と談笑している
白いヒゲのおっさんは

テキサス州
ヒューストンメディカルセンターの形成外科部長の
ジェラルド・ジョンソン先生

20年ほど前
彼は時代の寵児だった

臍からパイプを差し込んで、そこから内視鏡を入れて、乳房の裏側にポケットを作り
そこに
小さく丸めたシリコンの袋を挿入し
パイプを通じて
シリコンの袋に生理的食塩水を注入する
トランス ウンブリカル ブレスト オギュメンテーション(内視鏡を用いた経臍式豊胸手術)を開発したんだ

彼の手術方法は
時代の流れに
ドンピシャと
乗っていた

素晴らしい発明でも
時代の波に遅れていたり
逆に進みすぎても
ビジネスとしては
うまくいかない

その点では
申し分ない発明だった

彼の手術は
シリコンの袋(生理食塩水入り豊胸プロテーゼ)を使わないと不可能なのだ

生理食塩水入りプロテーゼは
ライバルの
シリコンゼリー入りプロテーゼより
手触りが不自然で人気のないプロテーゼであった

ジョンソン先生の娘婿は生理食塩水プロテーゼの会社を経営しており
ジョンソン先生も多額の出資をしていた

シリコンゼリー入りのプロテーゼ会社に市場を奪われ
彼らの会社は青息吐息

しかし
幸運の女神は存在する

瞬くまに
青息吐息会社は息を吹き返し
シリコンゼリー入りプロテーゼの会社は倒産する

幸運の女神の手口は
実に巧妙だ

もちろんジョンソン先生のアイディアがあってのことだが

一番は
幸運の女神のつくる
時代の波だ

時代の波が
ジョンソン先生に
いかに幸運をもたらして行くか
今から解説する

豊胸手術に限らず
あらゆる手術は
肉体にメスを入れ
傷あとをつける

いかに綺麗に切るか
綺麗に縫うかが
外科医の腕の見せ所

内視鏡を使う手術は
当時
最先端の
「最小限の傷痕」手術だった
でも 最小限であろうと
傷は傷だ

臍は臍帯が脱落したあとにできた瘢痕
瘢痕は傷痕そのもの

傷痕につけた傷痕は
ないのも同然

臍から
内視鏡を入れるというアイディアは
まさに
コロンブスのタマゴ
しかし
アメリカのセレブの豊胸手術のほとんどを
ジェラルド・ジョンソン式が占める可能性はあったが
アメリカの美容外科の患者さまは
以外と保守的なんだ
新しい手術方法は
しばらくは観察の対象になるのが常

ところが
マドンナが手術を受けたのを公表してからは
内視鏡を用いたジョンソン式が
豊胸手術の王道になったのだ

手術キットはジョンソン先生のファミリーカンパニーが独占

ライバルのシリコンゼリー入りプロテーゼの会社は沢山存在した

そのなかでも
最大の会社は
ダウコーニング

巨大企業
マイクロソフトもグーグルもめじゃない
世界企業
美容医療産業のモンスター
本気で怒らせたら
ジョンソン先生の会社なんか
一瞬で吹き飛ぶ

しかし
吹き飛んだのは

ダウコーニング社

女神の悪戯

明日 解説する

しばらく 待ちなさい