「今、行っている能力者部隊養成プロジェクトはいよいよ

誘導兵器の管制訓練に入る、この取り組みの成功を前提に

アメリカはハワイ沖での合同軍事演習を提案している」

 

「何?それは俺達を…」

大田は不信の表情を浮かべた。

 

「我々は、アメリカ部隊と共に反乱勢力への陽動を行う事になる」
「何だ、陽動だ?それは俺達が連中のエサになるっていう事じゃ

ないのか!」
「不満か?だが、この機会に米軍内部の裏切り者をあぶり

出さなければ奴らはまた地下に潜るぞ、敵は能力者部隊を

有している。我々とアメリカの正規部隊が共同して奴らを倒す」

 

「そんな、敵がノコノコそんなところに出てくるのか?」
「来る、恐らくな」

小林は自信有り気だった。
「何故そう言える?洋一」
「幸平、敵のエサは俺達じゃない。この演習には視察がある」

 

「視察?…えっ!まさか…」
「そうだ、そのまさかだ。大統領は自分をエサにしてでも

敵を誘い出す腹を固めている」

「本当か?それは本物が来るのか…」

菊川も信じ難いという表情で小林を見た。
「本物のはずだ、裏切り者は何処にいるか分からん。下手な

小細工はすぐバレるさ、大統領は国防長官と共に確実にやってくる」

 

「それは…リスクが大き過ぎるな、正規軍の方の能力者部隊は

信頼出来るのか?」
「それは!」

真喜志1尉が立ち上がった。

「部隊には自分くらいの実力のメンバーは10名近くいました、

その中のだれが味方でだれが敵かは分かりませんが、その

後の補充で、やはり10名くらいの実動戦力を有していると

思われます」

 

「そうか、こちらと合わせて15名か」
「幸平、こちらのメンバーはまだ秘密だ。敵にはアメリカの軍艦

に食いつかせる」
「じゃあこっちは予備か?」
「いや、考え方によってはこちらがメインになる。エサに食いついた

敵をこちらが叩く、場合によってはエサごと殲滅する」

 

「おい、大統領はそこまでOKしてるのか?自分の部隊にも

同じ事を言って俺達をエサにするんじゃないのか?」
「俊之、疑い出したらキリがないぞ。俺達はこの機会を決して

逃してはならない、これが至上命題だ」

 

「そうか、エサ同士疑い合っても得るところは無いか…分かった。

真喜志1尉、こちらの部隊は実戦投入出来るのか?」
「大田3佐、それはこれからの訓練次第です。しかし、自分は

みすみす壊滅させられる部隊を実戦には送りません、養成には

完璧を期します」

 

「それはあと4週間で間に合うのか?」
「ダメなら自分と、課題をクリアしたメンバーだけで参加します。

最悪、自分だけでも出撃します」
「真喜志1尉!」

きみが立ち上がった。

「私達も全力を尽くします、決して美弥子さんだけを行かせる

ような事はさせません」

四人は大きくうなずいた。

「分かった、大統領がそれだけの決心をしているのなら

五島総理もためらわないだろう、我々は命令に従うだけだ。

真喜志1尉、今日からの訓練をよろしく頼む。但し、決して

無理をしてくれるなよ、我々が見て万全だと判断した時点で

政府には回答する。

最後の責任は全て私が持つという事を忘れないでくれ」

梅田が美弥子を見据えた。

 

「はっ、了解しました」
美弥子はうなずいて席に着いた。梅田が続ける。
「よし、ブリーフィングはここまでとする。各自、今後は訓練の

完了まで第2配備を維持する。取り立てて特別な動きをしない

ように」
全員が立ち上がった。
「敬礼!」

小林の号令で全員が敬礼した。

きみ達はCICに入った。
「さて、じゃあぼちぼちと始めましょうか」
「美弥子さん、これからどんな事するの?」

なっちが美弥子を見た。
「シミュレーションには変わりないわ、但し今日からは戦闘モード

を使います。こちらのミサイルを確実にターゲットに命中させて

下さい、各レベルは100%でなければクリアされませんので」

 

「えー、100%!」

なっちがびっくりした表情で叫んだ。
「なっち、こっちのミサイルがはずれるという事は相手の

ミサイルがこちらに命中する確率が倍になるのよ、一発の

はずれでゆきかぜが沈む事もあり得るわ。

私達は絶対完璧じゃないといけないの」
「うん、分かったママ」

 

各自のモニターには軍艦の映像が浮かび上がった。
「最初は軍艦ターゲットで行います、アトランダムにミサイルが

発射されるのでみなさんは迎撃攻撃を同時に管制して下さい。

基本的には敵艦の航行不能以上でクリアとなりますので、

ミサイルの迎撃だけで安心しないで下さい。

敵艦から発進する航空機、船舶は全て撃破して下さい」

四人はうなずいた。

 

途端に無数のミサイルが飛び交い始めた。
「うわっ、すごい数!美弥子さん、すごい数だよ!」
「なっち落ち着いて、まず飛んでくるミサイルを把握して。
ネ、

迎撃ミサイルが発射されるからなっちはそれを誘導してね」

 

なっちが目を閉じた。
「うん、分かった!ミサイルは20発ね、よし!」

迎撃ミサイルが20発の敵ミサイルを全て撃ち落とした!
「ヤッターッ!」

なっちがガッツポーズをとった。
「うん、その調子!なっち、ミサイルの数は増えていくけど

気にしないでね。最初に把握出来たら全弾撃破出来るから」
「うん分かった、ありがとう美弥子さん」

なっちは夢中になって画面に見入っていた。

ブリッジに戻った士官達は米軍の情勢について話し合っていた。
「洋一、今回お前が官邸に呼ばれたのは合同演習の件を

指示する為だったんだな」
「そうだな、こっちの部隊の目処が付いてからと総理が米軍に

釘を刺したらしくてな。だがきみさん達の経過が好調なので

喜んでたよ、俺達には大きな負担をかけると謝っておられた」

「まあ、だれかがやらねばならんからな。俺達が指名されたと

いう事はそれだけ戦力として認めて貰ってるという証拠だ」

大田は自分を納得させるように呟いた。
「しかし艦長、いくら大統領が来るといってもあまりに唐突では

敵が警戒しないでしょうか?」

 

「うん、俺もそれは考えていた。小林2佐、官邸では他の作戦

については話は出なかったのか?」
「いえ、何もありません。ひょっとしたら極秘で別の作戦が動いて

いるのかも」
「米軍以外の脅威となればロシア軍内部の反米勢力だろう、

いや、事によるとロシアそのものが最大の脅威かも知れんな。

 

ソ連崩壊以来の経済低迷を石油資源の輸出でようやく挽回

したと思ったら今度のエネルギー転換だ、国連での対立を

見ていても大人しくアメリカ陣営に取り込まれるとは思えない。

クウェートの犯人もロシア内部の反乱勢力という見方が有力

だからな」

 

「しかし幸平、表立って攻撃は出来んぞ。決定的な証拠でも

出てこなければ」
「そうだな、既にアメリカはそれを掴んでいるか、或いは…」

「うん?」

 

「そいつを造り出すかだ」

二人は顔を見合わせた。だが各国の首脳部も大統領の行動には
ロシアに向けて集約される一つのベクトルを感じているようだった。

この時、二人の不安は漠然としたものだったが、アメリカの世界戦略

を破壊しようとする大きな潮流は既に流れ出し始めていたのだった。

                                      

                                      つづく