きみ達の誘導兵器管制訓練も2週目を終わろうとしていた。

 

四人はシミュレーションの課程をほぼ終了し、次週からは

いよいよ実弾を使用した実戦訓練に入ろうとしていた。

 

「よし、なっち、最終過程終了。よくがんばったわね!」

美弥子がなっちのモニターを覗き込んで肩を叩いた。
「うーん!ウワー…やった?アハッ、ヤッター!」

なっちが立ち上がった。

 

「なっち、おめでとう」

なっちの周りにきみ達が集まってきた。
「美弥子さん、これで実戦訓練に移れますね」
「はい、ひなさん。みんな、よくがんばりました!」
「みんな、よくがんばったね、おめでとう。

真喜志1尉、艦長に報告だ。CICも改装に掛かるぞ」
菊川と美弥子はブリッジに上がって行った。

 

「ねえ、改装って何?」

なっちがナッキーに尋ねた。
「えっ?CICにも大型スクリーンを取り付けてシミュレーションを

リアルモードにするのよ」
「リアルモード?…」

なっちはまだ実感が湧いてこないようだった。

ブリッジでは梅田がCICからの報告を受けていた。
「艦長、シミュレーションは全て終了しました。全員合格です」
「そうか、菊川3佐いよいよ実戦訓練だな」
「はい、ここまでは非常に順調でしたが、今後は他の艦との

連携が重要になってきます」

「俊之、それは任せとけ。訓練中の新兵達もデモンストレーション

こなせるようになっている、模擬弾を飛ばして精々派手にやってやろう」

小林が片手でガッツポーズをしていた。
「ああ、来週からはCICにキャプテンシートを移す、お前も

籠りきりになるぞ」

 

「リアルモードスクリーンか、実戦感覚で戦場が見られるんだな。

真喜志1尉は体験したのか?」
「はい、自分は戦闘機に乗ってましたのでCICからの画(え)は

見ていませんが、コクピットからの視点やミサイルからの視点を

再現出来ます」

 

「そうか、スクリーン担当は?」
「しばらくは自分がやりますが、順次きみさん達に渡していきます。

これはスクリーン担当と管制担当の呼吸が重要ですので、きみさん

となっちゃん、ひなさんとナッキーでペアにします。
菊川3佐は緊急時の状況判断をスクリーンから行うようにお願いします」

 

「うん、イージスシステムがダウンした時の最後の望みの綱だからな。

しかし、あの四人の肩には300名の人命が掛かる事になる」
「いや、俺達が背負ってるのは数千万人の国民の命だ。決して

られる訳にはいかん」

小林が言い切った。菊川と美弥子は顔を見合せてうなずき、

梅田と小林に敬礼してCICに戻って行った。

 

「さて、引越しの準備でもするか」

梅田が立ち上がった。
「艦長、自分も手伝います。幸平、頼む」
「了解、ブリッジの事は引き受けた」

大田が敬礼し、小林は梅田と共に歩き出した。

 

「小林2佐、艦長室へ行こうか」
「はい、分かりました」
艦長室に入ると梅田はソファーに深く腰を下ろした。
「艦長、」
「うん?まあ掛けろよ」
「はっ、失礼します」

二人はテーブルを挟んで向かい合った。

「艦長、先日お話した件ですが…」
「うん。なあ副長、」
「はい、」
「我々は軍人だ。政府の命令を守り、目の前に現われた現実を

分析して最善の作戦を立て、それを着実に実行する。

分かりきった事だがこの繰り返ししかないんだ。それで被害が

3割を超えたら躊躇なく撤退する、損害を無視して突撃するのは

現代の軍隊ではない」

 

「はい、良く承知しています」
「アメリカがどのような世界戦略で今回の作戦を遂行するのであれ

我々は既定の作戦通りに行動するだけだ。敵と向かい合った時、

こちらの攻撃が通用しなければ速やかに撤退する。

 

その命令は俺かお前が下す事になる、ゆきかぜの安全を最優先させろ。

この艦は今沈んではならんのだ、何があろうと、だれを犠牲にしようとな」

 

「分かっています。では艦長、アメリカの世界構想の事は?」
「我々が考慮する必要はない、それは政府の仕事だ。

…俺はな副長」
「はい、」

 

「俺はな、運命とかを結構信じる方なんだ」

 

「はあ、」
「俺の親父は海軍にいた、まあただの2等兵曹だったが。

俺は5人兄弟の末っ子でな、うちは代々軍人家系で父と伯父も

海軍に任官していた。二人とも最終的に特攻隊に志願し伯父は

沖縄で戦死したんだ。親父も特攻出撃を翌日に控えていたが

昭和20年8月15日、終戦によって命を拾った。

 

伯父の事は親父からよく聞かされたよ。親父はよく述懐していた

自分などより伯父が助かっていた方がどれ程戦後の日本の為に

なったろうとな。二人とも真に国を思う心優しい人だったんだ。

 

あの戦争は若者を無駄に死なせ過ぎた、現在の日本は表面上
繁栄しているようだがその実体はどうかな、国を誤ったかつての

歴史を再び繰り返そうとしているのではないか…

いや、これは言葉が過ぎたか…。

 

親父が助かったから今の俺がある、そして伯父の犠牲があったから

今の俺達があるんだ。バトンを受け取った俺達は次の世代にこの国を
この世界を引き継いでいかないといけない、これはもう運命だよ。

 

人間の遠い祖先が何処からやって来たかは大した問題じゃない、

俺達は次の若い連中に、希望の持てる舞台を残してやらないと

いけないんだ」

 

「分かりました、現在の自分達は目の前の課題にこそ取り組ま

なければならないという事ですね」
「そうだ、大国が自分の都合で世界を動かそうとしても、大衆を

置き忘れた政治をするならそれは間違いだ。

五島総理はそれをわきまえてギリギリの線でアメリカと渡り合っている

我々は信頼出来る政治からの要請を果たす立場にいる。今は精一杯

この課題に取り組もうじゃないか」

 

「艦長、では敵の能力者部隊からの攻撃があれば」
「出来る限り迎撃する。しかし、敵の方が上手なら逃げるしかない」
「はい?」
「真喜志1尉には注意しろ、あの娘は自分に責任を背負い込もう

とする傾向がある。間違っても特攻などさせてはならない、責任は

全て俺が取るから隊員の命と、このゆきかぜを守るんだ」

 

「分かりました。しかし、今度は我々も互角に戦えると思います」
「うん、それは期待してるよ。あの5人姉妹は良いチームだな。

しかし、この能力者騒ぎが収まったら東京に戻す、あの娘達を

軍人になどしてはならんのだ」
「あの娘達を内閣官房付にしたのは総理の?」
「ああ、真喜志1尉のようなケースは悲劇だ、出来ればあの娘も

故郷の島に戻してやりたいな」

小林は梅田の決心に自分の心の迷いも晴れたような気がした。

戦いは迫っている、自分にはやるべき事が山積しているのだ。

 

(「よし、仲間を守ろう、このゆきかぜの仲間を」)

目の前でうなずく梅田の姿が、小林にはより大きく映っていた。

 

                                    つづく