官邸では突如起こった異常事態の対応に追われていた。

 

当初は関西以西の発電所トラブルと考えられていたが、

ゆきかぜと同様、次々と入ってくる外電が韓国や中国、
ベトナムやフィリピンの異常を伝えていた。

 

「利倉さん、やはりゆきかぜからの問い合わせ通りですね。

日本から順に西へ発電機のトラブルが発生しています」
「それは、中継衛星というより発電衛星の方のエラ-の可能性

が高いな、果たして只の事故かそれとも何者かの破壊工作か」

利倉の表情は苦痛に歪んでいた。

 

今までは日本や米軍自体を狙った地域的なテロで止まっていた

ものが発電システム本体に介入したとなると、防衛手段を取ろう

にも自分達には手が出せなくなる。

 

「ゆきかぜの方は大丈夫ですか?」
「はい、向こうはまだガソリンで動いてますからね、混乱に乗じた

攻撃等も無いようです」
「よし、国内のエレカーについては警察に対応させて下さい。

発電機の方は一般家庭で電力会社と併用しているところが

殆どですから危急の事態にはならないでしょう。

 

東日本では流言蜚語による犯罪に備えて下さい、西日本が

ノーザンに襲われているなどというデマが電話回線を麻痺させる

かも知れません。NTTには事前連絡を」

 

「分かりました。既に警視庁、消防庁、関東電力、NTT東日本等

には緊急対応を指示してあります、総理が官房長官時代に準備

されたマニュアルが毎年更新されて立派に今でも生きています。

関東一帯は大地震が来ても48時間以内に機能を回復出来ます
よ」
「流石ですね、しかし今回は敵の実力行使もあり得ます。陸自の

方は?」
「東部方面隊には防衛出動の待機命令が出ています、これは

官房長官がいち早く動かれましたね」

 

「そうですか、総理はこれから緊急閣議です。場合によっては

次の米軍とのハワイ演習も中止かも知れませんね、影響が

出るとすれば今日中にアメリカ本土の米軍にも問題が発生する

はずですから、今後の演習等は全てリセットされる可能性が

高いですね」

 

「利倉さん、今回の異変はその為の陽動でしょうか?」
「いえ、もし意識的なものならもっと効果的なやり方をするでしょう、

衛星に手を出すというのはホワイトハウスへのデモンストレーション

ですよ。世界を握ったと思っているアメリカ首脳部への」

 

「大統領からは何か?」
「まだ何も言ってこないですね。ただ、衛星が狙われたのなら

次に一番危ないのが、」
利倉はその先を言わなかったが、安倍には予想がついていた。

ただ、その場合犯人は自分の顔が世界に知れ渡るリスクも背負う

事になる、敵にそこまでの覚悟があるのかは安倍にも定かでは

なかった。

その時、内線が鳴った。
「利倉副長官、官房長官からです」
「はい、利倉です。はい、総理がですか?分かりましたすぐ行きます」
「利倉さん、総理が何か?」
「種子島に、ロケットを飛ばせと」

 

「何ですって?国産ロケットで確かめろという事ですか…まあ、

総理らしいですね(笑)」
「はあ、長官が止めているようですが、私も行ってきます」

利倉はそのまま部屋を出て行った。

 

安倍は少し呆れながらも自然に笑顔が沸いてきた。
「よし、各国の大使館、領事館に最大限の情報収集を指示しろ

特にイラク、エジプト、ドイツ、フランス等これから影響が予想

されるところにだ」
「はい、分かりました」

 

「やはりアメリカの出方かな、総理じゃないがOB大統領が原因

究明にどこまで動くかだな」

安倍は直接宇宙へのアプローチが出来ない日本の立場に苛立ち

を感じていた。その意味では五島総理のせっかちさも理解出来ない

ではなかった。

 

「そうか、アメリカとの繋がりと言えば」
安倍は今日技本から報告が上がってきたあるものについて

今の内に確かめておこうと動き出した。
「技本の来栖開発官を呼べ、それから幕僚長だ」
「はっ、こちらへですか?」
「うん、そうだな…よし地下の災害対策室だ、来栖には今日の

報告の資料を持ってくるようにと伝えろ」
「分かりました」

 

15分後、官邸地下の災害対策室には利倉と安倍、来栖開発官

と統合幕僚長の大蔵が顔を揃えた。
「利倉さん、総理は如何でした?」
「はあ、自分で視察に行くと言われたので長官が慌てたらしい

のですが、ちょうど大統領からホットラインが入ってそれどころ

ではなくなりました」

 

「えっ、大統領から?」
「ええ、アメリカ本土は影響が出ていないという事で、基本的に

演習は行うという方針を伝えてきたようですね」
「アメリカもやる気ですね」
「まあ、これで予定を変えていては却って敵のペースにはまる

という判断でしょうか、どちらのトップも言い出したら聞きません

からね」

安倍と利倉は顔を見合わせた。

 

「よし、では来栖君、報告を始めてくれるか」
「はい、承知しました」来栖がおもむろに立ち上がり室内が暗く

なった。来栖は演壇の上に一つの箱を置いた。

 

「では、安倍情報官よりお預かりしておりました実験体について

技術研究本部の分析結果がまとまりましたので報告させて頂きます」

そう言うと来栖は箱を開け二つの物体を取り出した。

「あっ、あれは…」

利倉が思わず声を上げた。

 

 

そこに現れた物体の異様な姿は、利倉の脳裏に深く刻まれている

ものだった。

 

                                      つづく