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来栖が取り出したのは10cm程の2体の褐色の人形 だったが、それはかろうじて人の形が確認出来る程度の 抽象的な姿をしており、材質も木なのか合成樹脂なのか 俄かには分からないものだった。
「えー、これは10年前にドイツで失踪した日本人科学者の 夫婦が5年前に日本にいる娘宛てにアメリカのメリーランド から送ってきたと推測されている人形です。
我々はX線等の放射線で検査を行いミュート線に反応する 部位を確認しました」
来栖は各自のデスク上のモニターに人形のX線写真を転送した。 そこには各々の人形の中心部に長方形の影が映っており、 明らかに人工的な構造物と思われた。
「この人形にミュート線を照射したところ、写真の長方形の 物体が浮かび上がり、同時に微弱な電波の発信が確認 されました。解析した処、何らかの命令信号の受信システム を起動したものだと判明しました」
「命令信号?」 安倍が顔を上げた。 組み込まれていたようで、その信号によってメッセージが 伝えられる仕組みのようです」
「メッセージドールか、それでその命令信号は分かったのか?」 発信されている発電衛星からのマイクロ波だったのですが 既に5年前にそのプログラムを組み込んでいたという事から この人形を作った者は今回の発電衛星の制作に関わっていた と推測されます」
「人形自体もその者が作ったのですか?」 利倉が質問した。 だと思われます。恐らく税関の目をごまかす意図があった のかと思われますが、この受信機自体の技術は相当な ものですね。 これを作った者はメッセージをすぐに伝えようとは思って いなかったようです」
「おかしいな、それが失踪した両親からのものなら、 娘にはすぐにでも伝えたい事があると思うが」 利倉が首を傾げた。 安倍が来栖を見た。
来栖はペン型の発信機を取り出して人形に向けた。 一同からどよめきが起こった。人形は薄いオレンジ色に 輝き始め、その頭上に映像が現れた。
「ひなちゃん、あなたがこれを見る頃には日本にも発電機 が出回っているでしょう。 私達は発電システムの開発の為に働いています、これが 成功すれば世界は恒久的なエネルギーを手に入れる事が 出来、戦争や貧困も無くなっていくでしょう。私達はそれを 信じ、願っています。
あなたがこれを見られたらまた私達が会える日も遠からず 訪れると思います。それを信じて元気でいて頂戴ね、きっと また会えるから、きっとね…」
ここで映像は途切れ、来栖は部屋の明かりを元に戻した。 安倍が立ち上がった。 への対処の為でしょう」
「そうか、やはりひなさんの…」 利倉が顔を伏せた。 いたという事がはっきりしましたね。利倉さん、これを総理に」
「ええ、伝えますが、すぐにはこれを事件として扱う事は難しい ですね。逆に今この映像を明らかにすれば科学者達の安全が 脅かされるでしょう」
「秘密裏に発電衛星を作っていたというのは問題ですね、 高出力のマイクロ波を発信する衛星が上空にあるという事は 純軍事的にかなりの脅威です」 元陸幕僚長の大蔵が軍人らしい所見を述べた。
「大蔵さん、その問題はご指摘の通りですが、総理はそれを 踏まえた上で大統領と交渉しています。現状では宇宙の軍事 に関する限り、我々はアメリカと共同歩調を取らざるを得ない ですね」
「そうですね、利倉副長官。種子島のロケットの軍事転用も まだまだ国民の批判が厳しいですから当面は政治に日米安保 を担保してもらうしか手がありませんね」
「成層圏内の防衛に関しては空自と海自が積極的に動いて います、大蔵さんにはそちらの掌握をよろしくお願いします」
「利倉さん、この結果をひなさんには?」 来て貰いましょう。あの親子にも負担をかけますね、何とか 平和裏に科学者達を解放するように総理から大統領に 働きかけて貰います」
「よろしくお願いします。よし、来栖君ご苦労だった、正式な 報告書は後日提出してくれ」 大蔵の疑問はあくまで衛星の方に傾いていた。
「まず第一に挙がるのはロシアでしょうね、独自のロケットや 衛星も所有し、ハード面ではアメリカに次ぎます」
「安倍さん、確かにそうですがアメリカの内部勢力という考え方 も可能性が高いですね。この衛星の開発には多くの外国人 科学者等が関わっています、これが完成した時の自国の不利益 を考えた場合に何らかの工作を施すという事は大いに考えられ
「その考え方からすると最初から意図的にアメリカに潜入した 科学者や技術者等もかなりいたと判断出来ますね。今になって 時限爆弾的にシステムを破壊したのかも知れません。 利倉さん、総理へのホットラインでは衛星の被害は無かった という事だったのでしょうか?」
「いえ、あくまで影響が出ていないのはアメリカ国内の産業施設 やエレカーのようです、衛星本体やそのネットワークの被害状況 は不明ですね…分かりました閣議が終わったら総理に確認します」
その時、安倍の携帯端末が反応した。 こっちに映像を回せ」 データを受け取った。
「利倉さん見て下さい、インド洋に流星が落下したとの事です」 「流星ですか?しかし実際に落下してくるとは…」
「おお!これは?」 一同は画面に釘付けになった。 利倉の表情が曇った。
「気象衛星が捉えました。恐らく、中継衛星の一基だと 思われます」 来栖が画面を見ながら呟いた。 実力行使に出てきた。戦いは宇宙空間へと拡大し自分達の 手の届かないところで日本の命運が左右されようとしている。
果たして、今後どのような打開策が可能なのか、 利倉は閣議終了までの時間を確認していた。
つづく |